goo blog サービス終了のお知らせ 

見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

オンリーワンの罠/他人を見下す若者たち(速水敏彦)

2006-06-06 21:49:10 | 読んだもの(書籍)
○速水敏彦『他人を見下す若者たち』(講談社現代新書) 講談社 2006.2

 はじめ、書店で見かけたときは、ああ、相も変らぬ若者論か、と思って、一顧だにしなかった。が、『書評空間』の早瀬晋三さんのブログが、本書は「下手な評論家の際物」ではなく、著者は「地道な教育心理学者」である、と述べているのを見て、読んでみようという気になった。

 途中をすっとばして結論へ急ぐと、著者は「承認された経験に基づく自尊感情」と「他者軽視に基づく仮想的有能感」に注目する。

 どちらの感情も強いタイプを「全能型」と呼ぶ。それなりの実力と経験に裏打ちされたプライドの持ち主ではあるが、自己認識が甘いと、かなりハタ迷惑な存在にもなる。若年層よりも高齢者が陥りやすい問題パターンである。次に「自尊感情」は強いが「仮想的有能感」は弱いタイプを「自尊型」と呼ぶ。プライドは高いが、同時に他者も尊重するという、最もバランスの取れた人格である。

 逆に「自尊感情」が弱く「仮想的有能感」が強いタイプを「仮想型」と呼ぶ。これが今の若者に急増している問題パターンである。しかし、他国と比較した場合、日本の若者には、どちらの感情も弱い「萎縮型」が多いことも注目される。

 著者は「仮想型」の典型を「スヌーピー」のルーシーに見る(ちなみに「萎縮型」はチャーリー・ブラウン)。ルーシーがいつも不機嫌なのは防御の姿勢が強いからだ。劣等感で苦しんでいるのに、自分の価値を誇示したい人たちは、他人を低く見ることで自尊感情を取り戻そうとする。自分が損をすることや、失敗を認めることは絶対に我慢できない。

 最近の私の仕事は、不特定多数が相手なので、時として「仮想型」の人々の横柄な態度や不機嫌に出くわすことがある。仕事とはいえ、こっちも非常なストレスを受ける。しかし、あれは弱者の防御反応なのだから、必要以上に彼らを傷つけないように(見下されたと思わないように)気をつけてあげよう、と思えば、今後は少し気が楽だ。

 日本の社会が、大量の「仮想型」を生み出している原因のひとつは「オンリーワン」幻想なのではないか、という指摘は興味深く思った。「スペシャル」にはなれなくても「オンリーワン」なら誰もがなれるというのは、実は大きな勘違いである。努力もせず、周囲の承認を得ない限り、そこで形成されるのは「ぶよぶよした傷つきやすい自尊感情」でしかあり得ない。この厳しい指摘を、胸に留めておきたいと思う。

 幸いにして、私は多くの「自尊型」の人々に接した経験も持つ。年齢に関係なく、本当の実力を持つ人々は、驚くほど謙虚である。ああいうパーソナリティにして初めて、身近に接した「仮想型」の若者を正していけるのだと思う。「全能型」で血迷っているような老人が何を言ってもダメだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする