俳聖「芭蕉」に「命なり わずかの笠の 下涼み」(季語は笠)という句があるが、それをもじって「命なり ウォーキング後の 缶ビール」(季語はビール)(笑)。
今年は異常な猛暑だったが、ようやく次の3連休後くらいから涼しくなるみたいですよ。
さて、これまで50年以上にわたってモーツァルトの音楽を鑑賞し、同時に文献を読み漁ってきたので、自称「モーツァルティアン」としての自負心は誰にも負けないつもり~。
ん、「モーツァルティアン」って?
ほら、ワーグナーの音楽の熱狂的なファンを「ワグネリアン」と呼ぶが、それと一緒です。
で、先日出かけた図書館の新刊コーナーで目に触れたのがこの本。
著者の「高橋英夫」さんといえばモーツァルトの愛好家兼研究家として名前だけはよく存じ上げているが、たしか10年ほど前にお亡くなりになったはずなので遺稿集のようだ。
「上から目線の物言い」になるが、モーツァルトに関して大概のことは把握しているので、どうせ目新しいことも書かれてないだろうから借りようか、どうしようか・・。
一応試しに本を取って「目次」をぱらぱらとめくってみたところ、「私のモーツァルト・ベスト5」という項目があった。
ウ~ム、どれどれ・・。
その人の好みの曲目を見れば、ほぼ「愛好度のレベル」がわかる。
で、その順位とは次のとおりだった。
1 「魔笛 K620」 ベーム/ベルリンフィル
2 「ヴァイオリン・ソナタ K526」 シェリング/ヘブラー
3 「交響曲25番 K183」 ワルター/コロンビアpo
4 「デュポールのメヌエットによる変奏曲 K573」 ハスキル
5 「春への憧れ K596」 シュワルツコップ/ギーゼキング
ウ~ム、「魔笛」が1位とは・・、お主(ぬし)なかなかやるな!(笑)
「クラシックの鬼」と称された「五味康佑」さんの「好きなクラシック・ベスト20」の中でも「魔笛」が一番だった。
ただし、魔笛以外の曲目はどうもベスト5に入れるほどではないように思える。
で、「それならお前のベスト5は何だ?」と訊かれたら次のとおり。
1位 「魔笛」 ハイティンク指揮/バイエルン放送交響楽団
2位 「ドン・ジョバンニ」 フルトヴェングラー指揮・ベルリンフィル
3位 「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 K364」 五島みどり/今井信子
4位 「踊れ、喜べ汝幸いなる魂よ K165」 コープマン指揮
5位 「ディヴェルティメント K136」 コープマン指揮
3位以下は、その日その時の気分次第によるところが多いけどね~(笑)
モーツァルトの音楽にほんとうに親しもうと思うのなら第一にオペラでしょうよ・・、それには「魔笛」と「ドン・ジョバンニ」は絶対に外せない。
ある専門誌に「どうしようもないモーツァルト好きはオペラ・ファンに圧倒的に多い」とあったが、まさにその通りだと思う。
とまあ、いろいろ言ってみても高橋さんが「魔笛」を1位に推されるとは一目置きたくなるし、うれしくなったので借りてじっくり読むことにした。
以下、記憶に残った個所を記録しておこう。
173頁「私の実感ではモーツァルトはどんな気の合った仲間でも、いかに親密な相手でも人と一緒になって心を合わせて手と手を握り合って聴く音楽ではない。ひとりで聴く音楽、それがモーツァルトの音楽のように思われる」
※ これには思い当たる節が大いにあります。オーディオ仲間と試聴するときに自宅であろうと相手宅であろうとモーツァルトを聴くのはどうも気が進まない。なぜだかわからないが、自分だけの殻の中にひっそりと閉じこめておきたい音楽なのだろうか・・。
201頁「もっとも短くて見事なモーツァルト論は僅々600字余りからなる林達夫の「遊戯神通(ゆぎじんつう)の芸術」という文章である。
これは中央公論社から出たレコードの「モーツァルト大全集」の内容見本に寄せられた推薦文だが、林達夫が現代芸術批判から入っていって、一息でモーツァルトを言い切っているのに感嘆する。
だがこの文章は単行本に入っていないので断念し、代わって西欧人が達成した見事な典型としてカール・バルトの本を挙げてみることにした」
202頁「神学の大家バルトは毎朝まずモーツァルトを聴き、それから神学の著作に向かうと述べていたし、”重さが浮かび、軽さが限りなく重い”のがモーツァルトだとも言っていた」
※ 不世出の天才「モーツァルト」の音楽に対して各人各様の想いがあると思うが、彼の音楽を解くカギは「天馬空を駆ける」ような疾走(軽さ)、そして「涙が追い付かない悲しさ、はかなさ」(重さ)を感じとれるか否かに尽きると思っている。
で、この程メル友の「K」さん(横浜)から「カール・バルト」の本を借りる運びとなりました! 今週中に到着の予定です。
211頁 「先生は弦の組み合わせの曲がお好きなんじゃないですか」と訊かれた評論家小林秀雄はこう答えている。
「そうかもしれないね。カルテット、クィンテットに好きなものが多いな。変わったものじゃヴァイオリンとヴィオラの二重奏曲など好きだなあ、弦楽器というのは本当に人間的な感じが強いものだ。それにくらべてピアノは機械的すぎるんじゃないかな」
212頁「僕(作家:大岡昇平)はモーツァルトが好きなことで人後に落ちないつもりである。個人的にはヴィオラの入ったK364がどうも好きだ。昭和12年ごろ、コロンビア盤をすり切ってしまったことがあるが20年経った今日でも趣味は変わらない」
稿を改めて「一番よく聴くのはK364である。初めて聴いたのはコロンビアの10インチ盤で緑のラベルが貼ってあった。演奏は忘れたがヴィオラはプリムロースだったはずである。これは小林秀雄が持っていた盤で、毎日少なくとも一度聴いていたらすり切れてしまった。(そのころ私は蓄音機を持っていなかったので毎日鎌倉の小林さんの家へ行って聴いたのである)」
※この曲目「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲K364」は自分でもベスト3にあげているほどで大岡さんとはとても気が合いそう~。
とまあ、以上のとおり小林さんや大岡さんなどかっての文壇の大御所たちのモーツァルトへの傾倒ぶりを知ることができて本書は予想以上の収穫だった。
しかるに、現代の作家たちや評論家たちから「モーツァルト礼賛(らいさん)」があまり聞こえてこないのは淋しい限り~。
一般人ならともかく、「美意識」を生業(なりわい)としている人たちなんだからもっと多く居ても不思議じゃないと思うんだけどなあ・・、あの村上春樹さんでさえモーツァルトは分かっていないみたいだし、ま、仕方がないかな(笑)。
クリックをお願いね →