草木も眠る「丑三つ時」(うしみつどき:現代の午前2時半頃)に、冷え切った部屋でパチリと目を開き、むんずと起き上った男がいた。
ふらふらしながら階段を降りて、オーディオルームに入っていく。ゆっくりと大きなスピーカーに手をかけると前後にゴソゴソと揺すりながら動かしだした。どうやらこんなに朝早くからユニットの交換でもするつもりらしい(笑)。
この男、チョット変わっていて鈍感な部分と繊細な部分が同居しており、対人関係も含めて日常生活はやや鈍感気味だが、ことオーディオに関する限りやたらに神経質だ。
数か月前にオークションでSPユニットを落札し、玄関先でクロネコさんからその荷物を受け取ったのはいいものの、そのときの「重量感」が今でも気になって仕方がないらしい。どうやら「軽すぎる → マグネットが貧弱 → 重量感のある音が出にくい」という単純思考の枠から逃れられない様子。
このSPユニットはグッドマンの「AXIOM110」(口径25センチ:ダブルコーン)という古い代物だが、納めているエンクロ-ジャーの性質(たち)も悪かった。
タンノイのウェストミンスターという大型エンクロ-ジャーで、これがまた輪をかけたようにうまく鳴らすのが難しい。それかといってオリジナルのユニット(口径38センチ)に比べれば「AXIOM110」の方がまだマシ(笑)。
まあ、いささか持て余し気味というのがホンネだが、やはり大型エンクロージャーじゃないと出せない音があるのも事実なので「未完の大器」としていつも実験用の対象となっている。
作家「井上 靖」の小説に「あすなろ物語」というのがある。
多感な青春時代に読んで「少年の世界から大人の世界に入る道しるべ」として記憶に残っている方も多いと思うが、「明日は檜(ひのき)になろう」と懸命にもがきながらも、とうとう「檜になれない翌檜(あすなろ)の木」になぞらえた作家の自伝的な小説である。
このウェストミンスターは目下のところ我が家の「翌檜の木」にあたる。
今回は「AXIOM110」の代わりに「AXIOM150マークⅡ」(口径30センチ)を代わりに容れてあげて、晴れて「檜」になってもらおうという算段である。
後者の方がマグネット(アルニコ・タイプ)が大きくてはるかに重たいので、おそらくそれに比例して重量感のあるズシッとした響きになることだろう。重さにかけてはオリジナルのタンノイ・ユニットに比べても軽~く凌駕している。
画像をご覧になると一目瞭然で左側が今回取り付ける「AXIOM 150マークⅡ」、右側が取り外した「AXIOM110」。
「はたしてどういう音になるか」、胸をワクワクさせながら一心不乱に作業を進めた。いつも苦労するのが、補助バッフルに開けたネジ穴とエンクロージャーのネジ穴とを一致させること。「リーマー」などの機具を使って(補助バッフルの)ネジ穴を広げる作業を繰り返しながらようやく取り付け完成。
これがエンクロージャー内部の画像。
ようやく左右両チャンネルとも納め終えて、念のためエンクロージャーの裏蓋のネジ(18本)を締める前に簡単に音出しをしてみた。
ハラハラドキドキの一瞬だが、「ひかりTV」の「また君を愛してる」(坂本冬美)を聴くと、奥行き感があって深々とした音が出た。ホール感がとても素晴らしい。我が家のウェストミンスターの歴史上、これは最高の音に違いない。これでようやく念願の「檜」になれたぞ~!(笑)。
すべての作業が完了したのはきっかり6時25分だった。
よかった!これでNHKの「朝のニュース」(6:30~)の華、「和久田アナ」のご尊顔を拝することができる(笑)。
そして朝食後には自作の空色の箱から抜けた「AXIOM 150マークⅡ」の穴を埋めるべく、「フィリップス」のユニット(口径30センチ)を収めた。こちらの方は作業が簡単で30分もあれば十分。
「フィリップス」のユニットは世界各国の放送局のモニタースピーカーに採用されただけあって、色付けなしの「無色透明」という得難い個性がある。これはこれでとてもいい。
12月中旬に本州からお客様がお見えになる予定だが、これで万全の受け入れ態勢が整った!
最後に、冒頭の「丑三つ時」に起床の件だが、前日の夜7時に就寝しており睡眠時間は7時間半とバッチリ確保しているので、どうかご心配なきように(笑)。