「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

魔笛の指揮者・歌手達~パパゲーノ編~

2007年08月04日 | 魔笛の指揮者・歌手達

魔笛の歌手達のしんがりはパパゲーノ役(バリトン)である。劇の中ではメルヘン的な雰囲気を醸し出す重要な役どころだが、自分が見るところ、視覚的にはともかく、歌唱の面ではやや難易度が低く、ドラマティックな盛り上がりにも乏しいので正直言って他の歌手達と比べて最後まであまり気が乗らなかった。

第一幕の「愛を感じる殿方には」、第二幕の「パパパ・・」(いずれも二重唱)という劇中のハイライトはあるのだが誰が歌ってもそれほど差は感じない趣。

これは、最初の上演時(1791年)に興行主のシカネーダーがパパゲーノ役を演じたことから、モーツァルトが素人向けに歌いやすく作曲した経緯もある。

そうはいっても、この役を欠いては画竜点睛になるのでこれまでのスタイルに沿って作ってみた。

1 ビーチャム盤(1937年)
ゲルハルト・ヒッシュ(1901~1984) ドイツ
リート歌手として名高く、知的で端正な歌唱力を示した。タンホイザーの全曲盤はないが、日本初演でヴォルフラムの役を演じた。オペラでの代表的な録音はパパゲーノ役だった。

2 カラヤン盤(1950年)
3 カイルベルト盤(1954年)
エーリヒ・クンツ(1909~1995) オーストリア
戦時中から戦後にかけてウィーンでフィガロといえばクンツの独壇場だった。喜劇的なセンスの素晴らしさは舞台上で様々なアドリブやギャグなど多くのエピソードがあるが録音で聴く限り実に立派なバス・バリトンの声を持っている。いかに舞台上で笑いをとっても、音楽的な表現は決して犠牲にしていないところがさすがの第一人者。

4 フリッチャイ盤(1955年)
7 ベーム盤(1964年)
ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウ(1925~ ) ドイツ
今世紀最高のバリトン歌手の一人。リートの歌唱、オペラ歌手として最大級の賛辞をほしいままにした。ビロードのような艶を持つ美声に最高度の技巧、さらに見栄えのする長身で舞台では他を圧倒するものがあった。一つ一つの役に入念な研究を加えなければ気が済まなかったためレパートリーはさほど多くはなく、パパゲーノ役などは録音のみで歌った。知的すぎるという評価もあるがいずれも名唱ばかりである。

5 ベーム盤(1955年)
6 クレンペラー盤(1964年)
10 サバリッシュ盤(1972年)
ワルター・ベリー(1929~ ) オーストリア
ウィーン大学で学んだ後、ウィーン国立歌劇場のメンバーとなり35年間に亘って活躍した。温かみあふれる音質、豊かな声量で現代オペラを含めた幅広いレパートリーで大活躍した。

8 ショルティ盤(1969年)
ヘルマン・プライ(1929~1998) ドイツ
モーツァルトのオペラ、シューベルトのリートの第一人者として活躍、レパートリーが実に広く録音も多い。あのディースカウとバリトンの人気を二分してきた。プライの魅力は無邪気さと直情径行にある。52年にデヴューしてからの半生は自伝「喝采の時」(93年)に詳しい。フィガロ役として馴染み深いが、元来カヴァリエ・バリトンに属し、伯爵役としてのほうが声楽的に無理がない。
 

9 スイトナー盤(1970年)
ギュンター・ライブ(1927~ ) ドイツ
東独で幅広いレパートリーで活躍していたが、カラヤンがザルツブルク音楽祭で起用して人気を博した。

12 ハイティンク盤(1981年)
ヴォルフガング・ブレンデル(1947~ ) ドイツ
美声だけでなく、舞台上での表情豊かな演技で聴衆を魅了し続けている名歌手。パパゲーノ役は若い頃の当たり役であり、ベレンデルかプライにしか出せない愛すべき味わいがある。

14 アーノンク-ル盤(1987年)
19 クリスティ盤(1995年)
アントン・シャリンガー(1959~ ) オーストリア
詳細不明

16 ノリントン盤(1990年)
アンドレアス・シュミット(1960~ ) ドイツ
ディースカウの弟子として有名。師の当たり役であったヴォルフラムで成功を収めた。

17 マッケラス盤(1991年) 
トーマス・アレン(1944~ ) イギリス
「ドン・ジョバンニ」歌いで一世を風靡した。しかも”フィガロ”の伯爵はもとより、ベックメッサーのような本格的なドイツ・オペラの役までも手がけた。

以上、こうやって見ると、結構大物歌手が名を連ねているが、パパゲーノ役は「この歌手ではないと」という特定は難しい。個人的には、ワルター・べリーが一番好きだ。

なお、近年のバリトン歌手はまだ資料に乏しく詳細がよく分からないので、分り次第順次補充していく予定。特にアントン・シャリンガーには注目している。





 


魔笛の指揮者・歌手達~タミーノ編~

2007年07月28日 | 魔笛の指揮者・歌手達

タミーノ(王子)役はオペラ魔笛の完成度を大きく左右するともいえるほどの一番重要な役。この役はリリック・テノールの典型といわれ、その当時の一流と目されるテノール歌手達が続々と登場する。順を追ってみてみよう。

♯1 ビーチャム盤(1937)
ヘルゲ・ロスヴェンゲ(1897~1972) デンマーク
20~30年代、ベルリンとウィーンの寵児であり伝説的な高音の王者である。ドイツ語によるイタリア・オペラで沢山の録音を残している。ほとんど独学で声楽を習得しており、最大の教師はレコードで聴くカルーゾーだった。この盤以外にもCDライブのトスカニーニ盤(1937)にも出演している。

♯2 カラヤン盤(1950)
アントン・デルモータ(1910~1989) ユーゴスラヴィア
ユーゴ生まれながらウィーンで舞台デビューし、引退後もウィーン音楽大学で教えたというから文字通りウィーンに捧げた一生だった。中庸で控えめな「モーツァルト・アンサンブル」の趣味の良さには定評がある。

♯3 カイルベルト盤(1954)
ルドルフ・ショック(1915~1986) ドイツ
声に甘さと力強さが程よく混ざっておりヒロイックな役からオペレッタ、映画音楽まで幅広く活躍した。ベルリンでテレビ・ショーを受け持ちシュトライヒとのデュエットなどで人気を博した。

♯4 フリッチャイ盤(1955)
エルンスト・ヘフリガー(1919~ )スイス
デルモータと同系の中庸で控えめな歌唱は禁欲的とさえいえる楷書体そのもの。一点一画に至るまでごまかしのないもので、ある種の「色気」を歌いこもうとしたヴンダーリヒとは対照的。

♯5 ベーム盤(1955)
レオポルド・シモノー(1918~ ) カナダ
リリカルな美声で繊細な表現、響きの美しさで勝負できた歌手で、聖地ザルツブルクでも高い評価を得た。
                                                       

♯6 クレンペラー盤(1964)
ニコライ・ゲッダ(1925~ ) スウェーデン
父はロシア人歌手、母がスウェーデン。語学の天才で六ヶ国語を流暢に操ったが特にフランス語は見事だった。透明な美声と知的な解釈で際立っており、多芸多才としてドミンゴと並ぶほどの録音に恵まれた。

♯7 ベーム盤(1964)
フリッツ・ヴンダーリヒ(1930~1966)ドイツ 
絶頂のさなかに事故死したヴンダーリヒへの賛辞はいまだに尽きない。天性の美声、音楽性やテクニックの高さなど万人が認めるところ。抒情性と気品と輝かしさが三位一体となった屈指のタミーノ役だった。この盤は彼の代表的な録音で第一幕の弁者との対話が最大の聴きものになっている。                 


♯8 ショルティ盤(1969)
スチュワート・バロウズ(1933~ ) イギリス
イギリスからは伝統的に沢山のモーツァルト・テナーの逸材が出た。その中でもバロウズはやや陰りと湿り気を帯びた声で独特のタミーノ像をつくった。

♯9 スイトナー盤(1970)
♯10 サバリッシュ盤(1972)
♯13 デービス盤(1984)
ペーター・シュライアー(1935~ ) ドイツ
ヴンダーリヒの急死後、魔笛を始めとするドイツ・オペラのリリック・テノールの役はレコーディング上ではシュライアーの独占状態になった。それは、この3つの盤の録音が裏付けている。天性の才を持ちながらもその基礎は少年時代に十字架合唱団で培った実直で素朴な音楽性だった。キャリアの後半で作為的な技巧に専念した時期があり「よくしゃべるジャーナリスト」と揶揄された。現在は宗教音楽の指揮者となって余生を送っている。 

♯11 カラヤン盤(1980)
♯15 マリナー盤(1989)
フランシスコ・アライザ(1950~ ) メキシコ
メキシコ出身ながらミュンヘンで完璧なドイツ語を学んだ。70年代末から80年代にかけては実に素晴らしいロッシーニ歌手だった。その頃の録音、例えば「チェネレントラ」などは、美しい声と技巧にほれぼれとさせられる。

♯12 ハイティンク盤(1981)
ジーグフリート・イェルザレム(1940~ ) ドイツ
ジークフリート役で知られワーグナー・テノールといわれる。ただし、声の威力に頼れない歌手で美声ではないし、力強くもない。しかし、賢明なことに無理をしないで柔軟かつ多様に演じたことで一定の評価を得た。最初のオペラ録音は本盤のタミーノ役。

♯14 アーノンクール(1987)
♯19 クリスティ盤(1995)
ハンス・ペーター・ブロホヴィッツ(1952~ ) ドイツ
シュライアーの次の世代として台頭した。フランクフルトで鍛錬を積み彼の登場で「より軽く、俊敏で、透明な」モーツァルト歌唱の志向が先鋭化する。彼が当代一のタミーノ役として認めざるを得ないが、やや軽い印象がシュライアーの上位に置けない理由。


♯18 エストマン盤(1992)
クルト・ストレイト(1959~ )アメリカ
ドイツ系アメリカ人。ブロホヴィッツと同門の「古楽の旗手」だが、重厚な役づくりとは対照的な究極の軽さに辿りついたといわれる。

以上だが、段々と近年に近づくにつれてタミ-ノ役の歌手が小粒となり役柄も軽くなっている。これも古楽演奏の影響だろうか。

ずっと昔の、ロスヴェンゲ、デルモータ、ヴンダーリヒ、シュライアーたちの本格的な歌唱に没入した自分にとってはやはり物足りない。



 
 








 


魔笛の指揮者・歌手達~ザラストロ編♯2~

2007年07月21日 | 魔笛の指揮者・歌手達

♯10 サバリッシュ盤(1972)
♯13 デービス盤(1984)
クルト・モル(1938~ ) ドイツ
あのハンス・ゾーティン(シュタイン盤DVD1970)と同時期に活躍した。荒々しいところがまったくなく、なめらかな深い声、その低音が余裕を持って出せる点に関しては歴代の名バス歌手達とは冠絶するものがある。これほどのバスの美声はゲオルク・ハン以来といってよい。その声自体に魅力があるためにあらゆるスタイルに適応して優れた出来栄えを示す。中でも当たり役はザラストロとオックス男爵。

♯11 カラヤン盤(1980)
ジョゼ・ヴァン・ダム(1940~ ) ベルギー
1961年パリ・オペラ座にデヴュー以来パリを本拠地に活躍している。非常に広い声域を持ちプロフィールでは「バスまたはバリトン」と紹介されることが多い。とにかくパリでは彼の存在は大きい。

♯14 アーノンクルール(1987)
マッティ・サルミネン(1945~) フィンランド
圧倒的な声量と巨体を生かしたスケールの大きな演技で常に大きな喝采を博した。透徹した澄み切った美声で役柄の存在感と戦慄的なオーラを立ち上がらせる。ニーベルングの指環」のハーゲン役は圧巻。

♯15 マリナー盤(1989)
サミュエル・レイミー(1942~ ) アメリカ
カンザス州出身でニューヨーク・シティ・オペラで舞台経験を積んだ後ヨーロッパに渡りマリリン・ホーンと出会って抜擢され、以後スター街道を破竹の勢いでまい進した。並外れて豊かな響きと超絶技巧にこれまでのバス歌手にないものをアピールした。


♯16 ノリントン盤(1990)
コーネリア・ハウプトマン(生年不明) ドイツ
欧州各地の歌劇場で活躍。オペラのほかドイツ・リートも得意としており、ヨーロッパ各地でリサイタルを開いている。

♯17 マッケラス盤(1991)
ロバート・ロイド(1940~) イギリス

イギリス人ながら見事なドイツ語の発音と重厚な表現力をもったベテラン。

♯20 ガーディナー(1995)
ハーリー・ピータース(生年・本籍不明) オーストリア
マーストリヒト音楽アカデミーに学び、1983年ベルヴェデーレ国際コンクールに優勝しフォルクスオーヴァーと契約を結んだ。現在世界の主要なオペラ・ハウスで活躍し、コンンサート歌手としても活躍している。

♯21 アバド盤(2005)
ルネ・パーぺ(1964~) ドイツ
若干27歳のときに、91年のザルツブルク音楽祭でザラストロ役を歌い一躍脚光を浴びた。巧みな演技力と長身で舞台映えのする容姿に加え、伸びのある低音、張りのある声などドイツの若手歌手の中でも傑出した存在。年齢とともに陰影ある歌唱力が加われば、ホッターの後継者に十分なりうる。

なお、≪CDの部≫以外では、≪DVDの部≫のゾーティン、≪CDライブの部≫のキプニスとハインズを無視すると片手落ちになるので挙げておこう。

≪DVDの部≫

♯1 シュタイン盤(1970)
ハンス・ゾーティン(1939~) ドイツ
当たり役はなんといっても”パルジファル”のグルネマンツ役で20年以上に亘ってバイロイトでこの役を独占して歌っていた。日本公演でも”ばらの騎士”のオックス男爵を歌ったが、どちらかというとシリアスな役柄の方が本領が発揮される。この盤のザラストロ役の映像記録は唯一のものであり実に貴重。

≪CDライブの部≫

♯1 トスカニーニ盤(1937)
アレクサンドル・キプニス(1891~1978) ウクライナ
あの空前絶後といわれるロシアのバス歌手シャリアピンの次の世代の歌手でバイロイトでワーグナーの楽劇に出演し味わい深い歌唱で定評があった。ナチス時代になってアメリカに渡った。シャリアピン亡き後”ボリス・ゴドゥノフ”をロシア語で歌える唯一のバス歌手だった。

♯6 ワルター盤(1956)
ジェローム・ハインズ(1921~) アメリカ
ワーグナー歌手として成功。長身で見栄えのする容姿と豊かな声量、温かみのある声でドイツものに限らずメトロポリタンの常連となった。

以上のとおりだが、個人的には声楽の中で
バス(最低音域)は最も難度が高いと思っている。オーデイオでも一番難しいし苦労するのは低域の処理だがそれに通じるものがある。

その意味でバス歌手という最高の芸術家たちに順番を付けるのは実におこがましいが、あえて大胆に付けさせてもらえば、グラインドルが一頭地を抜いており、以下ゾーティン、キプニス、パーペ、ハインズといったところだろうか。



 


 





 


魔笛の指揮者・歌手達~ザラストロ編♯1~

2007年07月17日 | 魔笛の指揮者・歌手達

夜の女王編、パミーナ編に続いて男性役に移る。まず、ザラストロ編だがその前に今度は男声の種類をチェックしておこう。

バス → 人間の出せる最低音。さまざまな分類があるが、いずれも音色の差によってあるいはドラマの中の性格付けの差によって呼ばれることが多い。例えば魔笛のザラストロ役はゼリエーザー(シリアスな)バスと呼ばれている。陰影の深い声で、王様、伯爵といった気品のある役が多い。

バリトン → この声域の区分は比較的新しいといわれる。ヴェルディが好んでこの新声種のために曲を随分作った。例えば「リゴレット」に代表されるように陰のある中年の男役が多い。
ドイツ圏では比較的低い声域に伸びるケースが多くこれをバス・バリトンという。たとえば「ニーベルンクの指環」のヴォータンなど。

テノール → 最も高い男性の声。ふつう二枚目として凛々しい男を演ずるが、優美な男を演ずる場合も多い。区分としては次のとおり。

テノ-レ・ディ・グラツィア → 最も軽く「愛の妙薬」のネモリーノなど
リリック・テノール → その次に軽く「魔笛」のタミーノ役など
スピント・テノール → その次に軽く「トゥーランドット」のカラフなど
ドラマティック・テノール → 最も重量級のテノールで「ジークフリート」など


なお、カストラートは若い頃去勢した男の成人になった声で現在は存在しない。女声のアルトないしメゾ・ソプラノに近いといわれている。
カウンター・テノールはカストラートに似た声域を確保できる男声で一般的に裏声。

それでは、魔笛の中で荘厳、叡智のイメージを表現するザラストロ役(バス)をみてみよう。

≪CDの部 21セット分≫

♯1 ビーチャム盤(1937)
ヴィルヘルム・シュトリーンツ(1899~1987) ドイツ
この魔笛をはじめポピュラーな曲に至るまで、こんな時代に多くの録音があることからも当時の人気の程がうかがわれる。

♯2 カラヤン盤(1950)
ルートヴィヒ・ヴェーバー(1899~1974) オーストリア
ワーグナー歌手として国際的に活躍。柔軟で温かみがあり十分な声量と舞台風格を持って大歌手というにふさわしいバス歌手。戦後はウィーンを本拠にして「ばらの騎士」のオックス男爵役で一世を風靡した。

♯3 カイルベルト盤(1954)
♯4 フリッチャイ盤(1955)
ヨーゼフ・グラインドル(1912~1993) ドイツ
フリック、ベーメと並んでドイツの3大バスの一人。名声が世界的になったのは新バイロイトのバスの重鎮として20年近くあらゆるワーグナーのバス役を歌い続けたこと。70年開催のザルツブルク音楽祭ではカラヤンに起用されたが、そのときにカラヤンはグラインドルがフルトヴェングラーのお気に入りの歌手だったので自分の公演には参加してくれないだろうと思い、長らく彼を起用しなかった非礼を詫びたという。自分の手持ちの魔笛の中でも、この歌手は古今東西NO.1のザラストロ役である。

♯5 ベーム盤(1955)
クルト・ベーメ(1908~1989) ドイツ

その堂々たる体格といい、声といい、舞台人として疑いようもない資質を持ちながら、意外にも最初はオーケストラでヴァイオリンを弾いていたという。実際にR・シュトラウスの薫陶を受けワーグナーよりもシュトラウス歌手として名声を得た。「ばらの騎士」のオックス男爵役は歴史に残る歌い手のひとり。

♯6 クレンペラー盤(1964)
ゴットロープ・フリック(1906~1994) ドイツ
合唱団員からキャリアを始め小さな劇場での下積みが長かった。戦後、ミュンヘンとウィーンの歌劇場と契約してから頭角を現し、ワーグナーのバス役をほとんど独占した。ユーモラスな人でコミカルな役も演じたが、本領は何といっても悪役。暗い声、不気味な声などフリックの独壇場である。微妙な表現力に優れていたため、数多くのレコーディングに起用された。

♯7 ベーム盤(19649
フランツ・クラス(1928~ ) ドイツ
深い声に正確な発音と音程が美点だが、キャラクターの表出という面ではいささか地味なきらいがあった。本人も自覚があったのか、歌劇場よりもコンサートでの活躍が多かった。バイロイトで比較的長く活躍し70年の「パルジファル」で歌ったグルネマンツが最高の歌唱とのこと。 

♯8 ショルティ盤(1969)
マルッティ・タルヴェラ(1935~1989) フィンランド
クラスと並んでバイロイトで活躍。2mを優に超える身長に、200キロもあろうかというプロレスラー顔負けの巨漢。しかし、体格のわりに声量はあってもさほど重厚さはない。ワーグナーよりもモーツァルトに特徴が発揮されている。ベームのお気に入りだった。

♯9 スイトナー盤(1970)
テオ・アダム(1926~ ) ドイツ
東独の歌手だったため実力がありながら西側ではなかなか大きな役が回ってこなかった。声質はドイツのバス歌手としては明るいが決して軽くはない。声量も体も特別大きくはないが、歌劇場たたき上げのベテランにふさわしく第一声で舞台を支配してしまうような風格を感じさせた。

以下、ザラストロ編♯2に続く。








 

 


魔笛の指揮者・歌手達~パミーナ編~

2007年07月05日 | 魔笛の指揮者・歌手達

夜の女王役の次はリリック・ソプラノのパミーナ役の特集。オペラ魔笛の中では可憐で優しくて従順、まるでユリの花のようなパミーナ役にも数々の名花達が登場する。

♯1 ビーチャム盤(1937年)
ティアナ・レムニッツ(1897~1994) ドイツ
リリック・ソプラノとしてベルリンを中心に世界の主要歌劇場に客演。1939年ザルツブルク祝祭のクナッパーツブッシュ指揮「魔弾の射手」のアガーテでキャリアの頂点を築いた。

♯2 カラヤン盤(1950年)
イルムガルト・ゼーフリート(1919~1988) ドイツ
歌唱と愛らしい容姿があいまってウィーンのアイドルだった。その特別な人気は終生衰えることがなかった。リート歌手としても優れていたが、オペラの当たり役は「フィガロの結婚」のスザンナ役と「ばらの騎士」のオクタヴィアン役だった。特にスザンナ役は生涯600回以上歌った。

♯3 カイルベルト盤(1954年)
テレサ・シュティヒ・ランダル(1927~ )アメリカ
アメリカ出身ながらウィーンを中心に活躍。あまり録音は多くないがレパートリーは広く、「ばらの騎士」のゾフィー役、「フィガロの結婚」のケルビーノ役、「ドン・ジョバンニ」ではエルヴィーラ役などを演じている。トスカニーニが「世紀の発見」と絶賛したのは有名。

♯4 フリッチャイ盤(1955年)
マリア・シュターダー(1911~1999) スイス
いぶし銀の名歌手として正確で清潔な印象。オペラの舞台にはほとんど立つことなく主としてコンサート歌手として活躍したが、この盤をはじめモーツァルト歌手として不滅の名を刻んだ。

♯5 ベーム盤(1955年)
ヒルデ・ギューデン(1917~1988) オーストリア

ウィーン生まれとして特別の人気を博した。節回しが極めて柔らかく、ドイツ語の発音にもいい意味で鋭さがない。しかし、あまりにもウィーン風の歌唱スタイルはすべてのレパートリーで説得力を持つものとはいえなかった。「ばらの騎士」のゾフィー役は絶対の定評があった。他にもスザンナ役などで彼女の本領が発揮されている。

♯6 クレンペラー盤(1964年)
グンドゥラ・ヤノヴィッツ(1937~ ) オーストリア
ウィーンで脇役からスタートしたが、ベームやカラヤンから起用されるうちに第一人者の定評を得た。気品はあるもののくせのない優等生のような歌唱に時折物足りなさを感じるとの指摘がある。

♯9 スイトナー盤(1970年)
ヘレン・ドーナト(1940~ ) アメリカ
リリック・ソプラノでもアメリカ人歌手の進出が目覚しいがドーナトも典型的な例。ドイツ人と結婚してドイツを本拠として活躍した。もはやドイツの歌劇場はアメリカ人歌手の参加なくしては立ち行かなくなっており、この傾向は現代に向かって一層加速する。

♯10 サバリッシュ盤(1972年)
アンネリーゼ・ローテンべルガー(1924~ ) ドイツ
取り立てて並外れた技巧とか美声を持っていたわけではないが、魅力的な歌いまわしに愛らしい容姿と演技によりドイツオペラ界のアイドルとして大人気を博した。ただし、その前提としてモーツァルトなどのオペラで第一級の歌唱力の実力が根底にあったことは当然のこと。

♯11 カラヤン盤(1980年)
エディト・マティス(1938~ ) スイス
1963年に初来日した折のケルビーノ役の初々しさが語り草になっているが、のちにスザンナ、パミーナ、ゾフィーといった役で魅力を発揮し理想的な歌い手として賞賛された。自分もシュタイン盤(DVD)から受けた印象が強力で、容姿、歌唱が両立した鮮烈なイメージがいまだに目に焼きついて離れない。現在では何と69歳になっている勘定で随分とお婆ちゃんになったことだろう!

♯12 ハイティンク盤(1981年)
ルチア・ポップ(1939~1993) スロヴァキア
クレンペラー盤(1964年)で夜の女王役を演じたようにコロラトゥーラ・ソプラノから出発し、スザンナ、パミーナ、ゾフィーといった役でも独壇場となりレパートリーは非常に広く、長年人気を博した。最後に癌でなくなったのはお気の毒。

♯13 デービス盤(1984年)
マーガレット・プライス(1941~ ) イギリス
ドイツ・リートも見事にこなす歌手で、モーツァルト歌手としてヤノヴィッツの後継者と目された。                                                                                                          


♯14 アーノンクール盤(1987年)
♯18 エストマン盤(1992年)
バーバラ・ボニー(1956~ ) アメリカ

初めチェロを学んでいたがザルツブルク留学中に歌手に転向。「ばらの騎士」でデヴュー。以降、現代を代表するリリック・ソプラノとして世界中の歌劇場に出演。清純派ソプラノのイメージにもかかわらず研鑽型の歌手でもあり、様々な制約があるオペラには倦怠感がある様子で2003年以降はリート(歌曲)に専念する方向。ファンとしては寂しい限りだが転身は筋の通ったもので、仕事の緻密さと芸術的良心で現在この歌手に優る人はいないとのこと。 

♯15 マリナー盤(1989年)
キリ・テ・カナワ(1944~ ) ニュー・ジーランド
現代を代表するリリック・ソプラノ歌手で抜群の美声の持ち主だが、いつでも透明感にあふれた清流の印象を与えるかどうかは微妙なところ。歌からドラマ性を感じとるには歌い手の声に十分な持続力が求められるが、カナワの場合は時にその辺が物足りなく感じることがある。なお、そのクリーミー・ヴォイスはいささか言葉不明確にもかかわらず、全身から漂ってくるコケティッシュな雰囲気に負けて「ま、いいか」と思わせる不思議な魅力を持っている。

♯16 ノリントン盤(1990年)
ドーン・アップショウ(1960~ ) アメリカ
リリック・ソプラノ歌手で透明感を湛えた声、研ぎ澄まされた歌唱技術、優雅な立ち姿などが魅力。ザルツブルクでモーツァルト上演の常連である。パミーナのほかにも、スザンナ、ケルビーノ(フィガロの結婚)、ツェルリーナ(ドン・ジョバンニ)などが主なレパートリー。

♯17 マッケラス盤(1991年)
バーバラ・ヘンドリックス(1948~ ) アメリカ
リリック・ソプラノで72年パリ国際声楽コンクールで優勝。カラヤンに認められて急速に知られるようになった黒人歌手。モーツァルトを中心に国際的に活躍。日本にも度々来日しスザンナ、ゾフィー役などを好演。

♯20 ガーディナー盤(1995年)
クリスティアーネ・エルツェ(1963~ ) ドイツ
久々にドイツに誕生したリリック・ソプラノの逸材。オペラ・デヴューは1990年のオタワ。幅広いレパートリーで大活躍。

♯21 アバド盤(2005年)
ドロテア・レッシュマン(1967~ ) ドイツ
軽めのソプラノには異例の深い音色と、古楽で培われた知的な音楽性を特徴とする。緻密な言語表現と役への深い自己投入において際立った歌唱を聴かせる。CDは多数存在するが、指揮者ヤーコプスと共演したものはどれも見事な出来栄え。

以上だが、個人的にはパミーナ役のお気に入りはエディト・マチスバーバラ・ボニーの二人に尽きる。

最後に、ソプラノ歌手の立志伝を読んでいると、絶対といっていいほどレパートリーとしてR・シュトラウスのオペラ「ばらの騎士」が登場する。元帥夫人役、オクタヴィアン役、ゾフィー役である。

お恥ずかしいことに「ばらの騎士」はまだレパートリーに入っておらず、どうもこれを聴いておかないとソプラノ歌手を論じる資格がないような気さえしている。

早速、名盤調査をしてみるとクライバー父子、ベーム、カラヤン指揮のものがリストアップされているようで、さてどれにしようか思案中。




 

 


 

 

 

 


魔笛の指揮者・歌手達~夜の女王編~

2007年06月30日 | 魔笛の指揮者・歌手達

オペラ魔笛は主役クラスの5人の歌手達による歌唱力、表現力次第で全体の雰囲気が千変万化する。

たとえば、
ザラストロ役(バス)は荘厳と叡智
夜の女王役(コロラトゥーラ・ソプラノ)はきらびやかな美しさとヒステリー
タミーノ役(テノール)は気品、勇気、情熱
パミーナ役(ソプラノ)は可憐、優しさ、従順
パパゲーノ役(バリトン)はメルヘン的な趣

という具合だが、この5人は男性陣でバス、バリトン、テノール、女性陣でソプラノ、コロラトゥーラ・ソプラノとなっている。女声のメゾ・ソプラノとアルトが欠けているが、まずヒトの声域のほとんどをカバーしているといってよい。

したがって、これらの声域ごとに、魔笛に出演した歌手達を現在から過去までたどっていけば、それはそっくりそのまま”声楽の栄光の歴史”をひもとくことになる。

ヒトの肉声は究極の楽器とも称されており、その意味では歌手は最高の演奏家でもある。

「栄光のオペラ歌手を聴く!」(2002年4月刊、音楽之友社編)、「オペラ名歌手201」(2000年9月刊、新書館)を格好の手引き本として引用させてもらって、声楽の歴史に名声を残す歌手達に焦点を当ててみよう。

まず最初に登場するのは、コロラトゥーラ・ソプラノの「夜の女王」役だが、その前に基礎知識として女声の種類をチェックしておこう。

ソプラノ → 女性の歌う高い方の声域
コロラトゥーラ・ソプラノ → 最も高いソプラノ(夜の女王役)
スーブレット → 最も軽いソプラノ
リリック・ソプラノ → その次に軽いソプラノ(パミーナ役)
リリコ・スピント → その次に軽いソプラノ
ドラマティック・ソプラノ → 最も重量級のソプラノ
スーブレット以下の区分は、音色と音質の差であり、音域はあまり関係ない

メゾソプラノ → 女声の中間声域、ソプラノより暗く低い音域

アルト → 女性の最低音域

≪CDの部21セット分≫

♯1 ビーチャム盤(1937年)
エルナ・ベルガー(1900~1990) ドイツ

歌手達のアメリカ流出が続く中で珍しくドイツに留まり、戦後に至るまで第一人者の地位を保ち続けた息の長い歌手。

♯2 カラヤン盤(1950年)
♯3 カイルベルト盤(1954年)
♯5 ベーム盤(1955年) 
ヴィルマ・リップ(1925~ )オーストリア
50年代、ウィーンとザルツブルクで夜の女王を独占状態。後のグルベローヴァのような超絶技巧ではないが、玉を転がすような声とどこかおっとりしたウィーン風の雰囲気はこれといった後継者が出なかった。

♯4 フリッチャイ盤(1955年) 
リタ・シュトライヒ(1920~1987) ドイツ
技巧を前面に出すよりは味わいで聴かせるタイプ。その後の歌手のような威嚇的な要素はまったくなく、むしろ軽快で可愛らしい印象。「魔笛」というメルヘンオペラに登場する不思議な国の「星の輝く女王」だった。

♯6 クレンペラー盤(1964年) 
ルチア・ポップ(1939~1993) スロヴァキア
リリック・ソプラノながらレパートリーが非常に広く、ウィーンやミュンヘンではパミーナやゾフィー(バラの騎士)などは独壇場だった。線が細いのによくはずむ可愛らしい声が魅力。最後は癌に冒されて現役のまま亡くなりオペラ界に衝撃が走った。

♯8 ショルティ盤(1969年) 
クリスティーナ・ドイテコム(1931~ ) オランダ

活動期間は短かったが、その超絶技巧はグルベローヴァでさえ一歩を譲る。

♯9 スイトナー盤(1970年) 
シルヴィア・ゲスツィ(1934~ ) ハンガリー
ほかに例のないドラマティックなキャラクターを持ったコロラトッーラ・ソプラノ。ツェルビネッタ役(ナクソス島のアリアドネ)でも人気を博した。

♯12 ハイティンク盤(1981年)
♯14 アーノンクール盤(1989年)
エディタ・グルベローヴァ(1946~ )スロヴァキア
70年、夜の女王役でウィーン・デヴューを果たしその後同役で一世を風靡した。「静止した緊張感」とも言うべき空気を場につくりだす独特の個性がある。史上最高の夜の女王である。多くのコロラトゥーラ歌手が年齢とともに声が重くなりレパートリーを変えていく中で今なお第一人者であり続けている。なお私生活上の伴侶は指揮者のハイダーである。

♯13 デービス盤(1984年) 
ルティアーナ・セッラ(1946~ ) イタリア
生国のイタリアでは評価されず外国でのデヴューとなった。夜の女王は得意な役でメトやウィーンなど様々な劇場に出演した。謙虚な努力家で「椿姫」から「ホフマン物語」など晩年に至るまで幅広い役をこなしている。

♯15 マリナー盤(1989年)
チェリル・スチューダー(1955~ )アメリカ
リリック・ソプラノのほとんどのレパートリーを世界の主要歌劇場で歌っており、メトロポリタンのプリマドンナ。93年の産休後から高音の不備に伴う慢性的不調に陥り、その後新しい方向性を開拓している。

♯17 マッケラス盤(1991年)
ジューン・アンダーソン(1952~ ) アメリカ
イェール大学でフランス文学を学んだ才媛。幼少のときからソプラノで注目を浴びていた。役に打ち込む熱心さには定評があり、その技術・美声が日本であまり馴染まれていないのは惜しい。

♯18 エストマン盤(1992年)
スミ・ジョー(1962~ ) 韓国
カラヤンに「仮面舞踏会」のオスカル役に抜擢されて名を挙げた。コロラトゥーラ・ソプラノとしてレパートリーが広く「バラの騎士」のゾフィー役はぴったり。オペラ歌手として活躍している東洋人の中でも最も成功している一人。

♯19 クリスティ盤(1995年)
ナタリー・デッセイ(1965~ ) フランス
フランスが生んだ久々の世界的オペラ歌手であり、グルベローヴァ以後最高のコロラトゥーラ歌手とも呼ばれる大変な逸材。その美声と美貌で世界中のオペラハウスから引っ張りだこ。声、テクニック、演技力と美貌に鑑み、実演に接する機会があれば絶対に逃してはならないとのこと。たしかに、このクリスティ盤でも出色の出来だったが、彼女の夜の女王の公開録音は今のところこれだけであり、この盤の値打ちは高い。しかも、極めてレパートリーが広いので夜の女王役はこれだけになる可能性がある。

♯20 ガーディナー盤(1995年)
シンディア・ジーデン(生年不明) アメリカ
シュヴァルツコプフに師事した。デヴュー後は世界各地のオペラ・ハウスに客演。この夜の女王役もバイエルンを始めパリ、ウィーン、サンタフェなどで出演し絶賛を博している。また、コンサート歌手としてもキャリアを広げている。

結局、夜の女王役でひときわ高い峰はグルベローヴァであり、その峰に追いつき、あるいは追い越すかもと目されているのはナタリー・デッセイである。