我が家のオーディオシステムほど「真空管の恩恵」を受けている事例も珍らしいのではないかと、思うことがときどきある。まことに真空管無しでは我が家のシステムは完全に崩壊する。
ずっと昔の話だがトランジスター(以下、TR)素子が登場したときに、もはや真空管は消えて無くなるという説がまことしやかに唱えられたし、実際に真空管アンプは下火になってしまったが、今となっては完全に盛り返す勢いで、仲間によると哀れにもTRアンプはオークションで値がつかない状況だという。
いい事例が昔使っていたラックスのSQ38FDという真空管アンプで、いったん製造中止に追い込まれたものの、ちゃっかり真空管人気の復活にあやかって、いつの間にか息を吹き返してしまった。
真空管復活の主因は素人の憶測になるが、デジタルの時代になって「音の響き方」が素っ気なくなり、そのマイナス面を少しでもカバーするためというのが当たらずといえども遠からずといったところだろうが、どうも倍音の響き方に違いがあるような気がする。
ただし、真空管と一口に言っても製造年代によって古典管と近代管に分けられる。
「古典管と近代管のいったいどこがどう違うのか」と問われても明確な基準があるわけでもないが、個人的には時代的な分水嶺として前述したTRが勃興してきた時代を境に区分されるのではないかと思っている。
TR素子が登場する前は、それはそれは真剣かつ熱心に真空管が製作されたものだが、変わり得る素子の登場によっていっきに熱気が無くなり同時にコストばかりが重視され「ぞんざい」な存在になっていったという筋書きにおそらく異論はあるまいと思う。
そこで肝心の両者の音質の違いについてだが、個人ごとの好みがあるのでいいも悪いもないが、一般的にチャラチャラして音に深みが無く寿命が短いし故障しやすいのが近代管の特徴でこの呪縛から解き放たれた球をいまだかって身近に見聞したことがない。
そういうわけで我が家の真空管アンプ群はすべてと言っていいほど古典管(1940年代前後)で覆いつくされているが、このほどこれらにまた新たな仲間が加わった。
つい先日、我が家の古典管の主治医「北国の真空管博士」から、次のようなメールが届いた。
「1928年に発表されたARCTURUSのブルーチューブ071が手に入りました。
現在あなたの「WE300Bシングルアンプ」の前段管に使用されているトリタンのRADIOTRON UX171は1925年に開発が始まり1926年の中ごろに発売されていますのでほぼ同時期の製造ですね。
半年後1926年の末頃には酸化皮膜フィラメントのRADIOTRON UX171Aが発売されます。
ARCTURUSは071のほかに071Hという傍熱型と071A(0.25Aフィラメント)も1928年に発表しています。
これら3種類が同時に併売されていたことになります。
これは、ARCTURUSが今後どのような球が市場に受け入れられるのか様子をみていたのかもしれません。
それぞれの特徴として、
071A:フィラメントが省電力で安価
071 :071Aよりもフィラメントハムが小さいがバッテリーの持ちが悪い
071H:AC点火専用、造りが複雑で高価
この中で生き残ったのは最も安価な071Aでした。
ところがスピーカーの再生帯域が広い現在ではフィラメントパワーの大きな071や171の方が情報量が多く感じます。
これは、UX245よりもフィラメントパワーの大きなVT52の方が評価が高いのと似ています。
今回お知らせした「071」はフィラメント電流が「0.5mA」で通常の71Aに比べると2倍になっています。前段管あるいは出力管として使い道も多いと思いますのでいかがでしょうか。
オークションに出してもいいのですが、こういう珍しい球は真の愛好家に使って欲しいので・・・。」
以上のとおりだが、願ってもない話である。フィラメント電流の多い球を「前段管」や「出力管」に使うと情報量が飛躍的に増大する例をイヤというほど体験してきたので、まるでダボハゼのように飛びついた(笑)。
ほどなく到着してさっそくアンプの前段管を「171」(トリタン・フィラメント)からブルーの「071」(酸化被膜フィラメント)に差し替えた。
すべて直熱管なのでスイッチオンと同時に音が出てきたが、プリアンプの音量を同じにしていたところあまりにも大きな音量が出てきたので驚いてボリュームを絞った。これまで使ってきた「171」もフィラメント電流は同じ「0.5mA」だがややヘタリ気味だったのかもしれない。
この「071」は新品のせいか実に鮮烈で歯切れがいい音を出す。1951年製の「WE300B」がまるで生き返ったみたいに元気溌溂になった。
これでまたハラハラ・ドキドキ・ワクワクしながら、しばらく楽しめそうだ(笑)。