食べ物の好き嫌いと同じで、音楽も人によって嗜好に随分差があるように思う。
じぶんはオペラ「魔笛」の大の愛好家だが、一方では何度聴いてもその良さが分らない、退屈極まりない音楽という人がいても少しも不思議ではないし、これはいいとか悪いとかの問題でもない。
魔笛はベートーベンの第九などと比べるとポピュラーな曲ではないし、モーツァルトの曲の中では「ピアノ協奏曲」などと比べるとファン層もかなり限られている。
音楽の魅力を口で表現するのは本質的に難しいものがあるが(基本的に言葉で表現できない世界が音楽)、 ”いったい魔笛のどこがそんなにいいのか” と問われた場合にその魅力を適切に表現する言葉がすぐに浮かんでこず、何ともいえないもどかしさを感じているのだがそれを解消し代弁してくれる絶好の本がある。
「ドイツオペラの魅力」(著者:中島悠爾氏、日本放送教会刊)である。
この本は、冒頭から魔笛がドイツオペラの草分けとなる重要なオペラとしてしてかなりのページを割いて詳しく解説しているが、音楽理論よりもオペラ愛好家の立場から素人向きに執筆されていて大変分りやすい。
いろんな疑問に対して説得力のある解答を準備しているのでこの本をガイドにさせてもらって少しでも魔笛の魅力に近づいてみよう。
まず、はじめに魔笛は何といってもオペラだからオペラの特質について述べてみると、
クラシック音楽には器楽(交響曲、協奏曲、室内楽、管弦楽など)、声楽などいろんなジャンルがあるがオペラはこれらとどういう点が違うのだろうか。
1 演劇的な要素
オペラの特質の第一点は、演劇を通して、具体化された音楽を提供することにある。ドイツのソプラノ歌手エッダ・モーザー女史(1972年サバリッシュ盤:夜の女王)が自らの体験を踏まえて実に分かりやすい表現をしている。
「オペラには舞台装置があり、衣装があり、演技があり、共演者たちがあり、そして色彩豊かなオーケストラがあって、私の歌う内容は視覚的にも聴覚的にもリート(独唱用歌曲)に比べ、はるかに容易に聴衆に伝わっていきます。
いわば、オペラは自分の周りに既に半ば以上構築されている一つの世界の中で歌い、その世界を深めていけばよいので、リートよりはずっと楽です。」
2 人間の声という特質
第二点目は人間の声という特質である。声という音の素材はどんな楽器よりも直接的にはっきりとまた容易に人間のさまざまな感情を表現し得ることにある。
例えば舞台でヒロインが一人たたずむとき、あわただしく登場してくる人物に向かって「まあ、あなたでしたの」と発する、たった一言の中にはこのオペラの文脈に沿って、喜び、悲しみ、恥じらい、ためらい、皮肉、怒りなどごく微妙な心の表現が可能である。
これほどに直接的な感情の表現は人間の声以外のいかなる楽器にも不可能であり肉声という音素材の持つ簡単で直接的な効果、そしてそれを十二分に活用したオペラという形式はやはり最も分かり易く、身近で、一般大衆にも親しみやすい音楽なのである。
以上、まったくの「受け売り」だがオペラの特質は以上の二点で尽きると思う。
さて、楽器としての人間の声がいかに表現力に優れているかということが分ったが、その発声の仕組みをオーディオ機器の終末点として音質に決定的な影響力を有しているスピーカーに例えてみると面白い。
さしずめ人間の喉頭の中央部にある声帯がSPユニットに該当し、肺などの内臓部分がSPユニットを包み込むボックスと考えると決して無理筋ではなさそうだ。
多大の声量を必要とするバス(80~290ヘルツ)歌手を例にとると、まず全員といっていいほど太い喉首と大きな胸板を有し、図体が大きいのも納得がいくと思うが、はたしてどうなんだろう。
いずれにしても「食わず嫌い」がいちばん悪い・・、今では「You Tube」で「魔笛」が簡単に聴ける時代だ。
モーツァルトが35歳で亡くなった年に作曲されたもので、いわば彼の音楽の「集大成」ともいえるし、数あるクラシック音楽の中でも最高峰とされ、あの大先達「五味康佑」さんも好きな音楽のベスト1に掲げられている、そして楽聖ベートーヴェン、文豪ゲーテが最も愛した曲目・・。
全編を通じて、晴れ渡った秋の青空のような透明で澄み切った世界、 ”そこはかとなく” 漂う「物悲しさ」を感じ取れればまずは合格・・(笑)。
「You・・」の第一画面に出てくるオットー・クレンぺラー指揮の魔笛なんかは台詞が入ってないので比較的短時間に聴けるし名歌手ぞろいなので、この「冬ごもり」の中をいかがかな~。
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