周知のとおり今年(2013年)はリヒャルト・ワーグナー生誕200年に当たるが、22年前(1991年)の「モーツァルト没後200年」のときと比べると、メディアの騒ぎ方がまるっきり違うような気がする。
大のモーツァルトファンということもあって当時のことを鮮明に覚えているが、活気度において現在の比ではなかった。
「生誕」と「没後」の違いは無いに等しいから、これはひとえにワーグナーとモーツァルトの音楽の親しみ方への違いなんだろう。
片やクラシックのあらゆるジャンルの作曲を手掛け、生涯600曲以上も作曲したオールマイティーの総合診療医、そして一方はほとんど「楽劇」だけに絞った専門医みたいなものかな。
いったいワーグナーの音楽の魅力はどこにあるんだろう?
門外漢の自分がグダグダ言っても、しようがないのでググってみると、適切そうな質疑応答があった。
「ワーグナーの音楽には熱心な信奉者が多いと聞きました。彼の魅力を感じる部分はどこでしょうか?
また、ワーグナーを聴くには、どの曲から始めた方が良いでしょうか?また、ワーグナーの信奉者で有名な方には誰がいますか?」
これに対して、次のような回答が。(長いので抜粋)
「ワーグナーの音楽は「毒」「麻薬」などと例えられることもありますね。技法的な部分でいうと、調性の極限までの拡大。
「調性」とは、古典派~ロマン派のクラシック音楽の最も基本的な「お約束」のひとつで、あまりにめちゃくちゃに大雑把に言うと、「ソシレ」の和音が「ドミソ」の和音に進むことによって解決・安定をもたらす、ということです。
ハイドン、モーツアルト、ベートーヴェンといった作曲家は、これでもかというくらいにこのお約束を使いますが、ワーグナーは実はあまり使いません。(主に後期作品での話ですが)
それは調性を使っていない、ということでは決してなくてそのルールを熟知し巧妙かつ徹底的に使った上で、一番肝心かなめの「ソシレ」⇒「ドミソ」の部分(だけ)を絶妙にじらしたりはぐらかしたりします。
それにより,独特の「終わりそうで終わらない」という不安感や陶酔感を作り上げます。この手法は「無限転調」「無限旋律」などと言われ,「トリスタンとイゾルデ」がその代表的な例とされています。
楽劇全部だとかなり重く&長くなるので、まずは“さわり”だけという場合は、「前奏曲」「愛の死」などから入るのがよいかもしれません。(「愛の死」はオリジナルでは歌が入りますが,管弦楽曲集のCDなどでは「前奏曲と愛の死」という形でほぼ一曲のオーケストラ作品として扱われることも多いです)
次に歌劇・楽劇の内容で言えば、独特な人間観。
ワーグナーの歌劇・楽劇の登場人物は、常識的な倫理観から見ると、「ええっ!?」というような行動を取ることがしばしばあります。
もちろんイタリアオペラでも不倫や三角関係は定番中の定番なのですが、あくまでも道を踏み外しているという背徳感(?)がドラマのベースになっています。一方、ワーグナーの場合,特に「タンホイザー」や「ニーベルングの指輪」では,より確信犯的に行動しているというか、我々の知らない倫理体系があるというか、そうした特異なドラマ展開の中から,ある特定の価値観(≒キリスト教?)によらずに根源的な人間のあり方、愛と性のあり方、生と死のあり方、などを抉り出そうとしているようにも私は感じます。
なお、「リエンツィ」「さまよえるオランダ人」「ローエングリン」などの初期作品では、上記のような特徴はそれほどは感じられず、より一般的なロマン派風の響きがしますが(ベルリオーズ、ウェーバー、リストなどの影響があるとされています、もちろんこれはこれで重厚・華麗・ダイナミックな管弦楽の響きやロマンティックな旋律などは十分に魅力的と思います。
ワーグナー独自の魅力(魔力?)は「タンホイザー」あたりからちらほら出はじめ、「トリスタンとイゾルデ」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」「ニーベルングの指輪」「パルジファル」などに強くあらわれているように個人的には思います。
作品としては,上に挙がっているのが代表的なものというか、これでほぼ全部と思います。初期の普通に理解しやすいものからはじめるか、いきなり後期の魔境(笑)に突入するか、どちらでもよいと思います。
信奉者、と聞いて私がまず思い出すのが作曲家のアントン・ブルックナーです。交響曲をワーグナーに献呈したり(交響曲第3番),ワーグナーの訃報を聞いて,自分の交響曲の中に葬送の音楽を入れたりしています(交響曲第7番第2楽章の終わりの部分)。
実はフランスの作曲家には意外と多くて、一時期のドビュッシーの他にはフランク、,オネゲル、ショーソンなどもそうだったのではないかと思います。(どのくらい熱烈だったかは分かりませんが・・・)
作曲家以外はよくわかりません。小泉純一郎??(笑)」
折角の生誕200年を記念して、この際ワーグナーに耽溺してみようかな。
手持ちのCDを調べてみると、「ワルキューレ」(ショルティ指揮4枚組)、「トリスタンとイゾルデ」(フルトヴェングラー指揮4枚組)、「パルジファル(クナッパーツブッシュ指揮、4枚組)、「ジークフリート(ショルティ指揮、4枚組)、「ラインの黄金」(ショルティ指揮、3枚組)、「神々のたそがれ」(ショルティ指揮、4枚組)といったところ。
ただ、楽劇といえばぜひ映像付きで鑑賞したいところだがDVDを改めて購入するとなると、それほど熱烈なワグネリアンでもないし、ちょっと経済的にためらいを覚えてしまう。
そこで、恰好の解決策が登場した。昨年の6月から試聴をはじめたクラシック専門放送の「クラシカジャパン」(CS放送)がようやく「ワーグナー特集」を組んでくれた。
今年の3月23日に開催された「ザルツブルグ・イースター音楽祭2013」で上演された「パルジファル」(ティーレマン指揮)が、早くも26日(日)の夜9時から5時間にわたって放映される!
この「クラシカジャパン」だが、1年近く視聴してきたものの、同じ番組の繰り返し放送がやたらに多くて、ヘキヘキしていたところだし、正直言って音質もCDの再生に比べると低音域が物足りない。
唯一のメリットと言えば「オペラ」を映像付きで鑑賞できることぐらいだが、ここ最近の「ジークフリート」(24日)、「ワルキューレ(26日)、「神々の黄昏」(28日)とワーグナー作品の放映が目白押しなのでようやく愁眉を開いた感じ。
視聴契約を解除すると、これまで録画した番組まで観れなくなるので改めてこれからも続行することを決意した。