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【地球コラム】ロシア軍演習で一触即発~ウクライナ危機「2.0」~

2021-04-26 | 先住民族関連
JIJI.COM 4/25(日) 17:05
 この春、ロシア軍が対ウクライナ国境付近に兵力10万人以上を集結させ、隣国との大規模な紛争にエスカレートする懸念が強まった。プーチン政権の表向きの説明は「軍事演習」だが、それを隠れみのに2014年にウクライナに軍事介入したことは記憶に新しい。国境付近でロシア軍のプレゼンスを高めて緊張状態に持ち込み、相手の先制攻撃を誘発して「反撃」に踏み切る戦術は、2008年のジョージア(グルジア)紛争で証明済みだ。
 日本も人ごとではなく、先進7カ国(G7)外相は4月12日、ウクライナ情勢を「深く懸念する」としてロシアを批判する声明を出した。ロシア軍の規模は7年前のウクライナ危機後で最大に膨れ上がり、いわば「第2次ウクライナ危機」の様相を帯びた。バイデン米大統領が「唯一の競争相手」の中国に対処する中、その隙を突くようにロシアは独自の動きを見せている。プーチン大統領はなぜ今、緊張を高めたのか。その狙いは何なのか。
「凍結された紛争」
 今回、再び注目が集まっているウクライナ東部ドンバス地方は2014年以降、緊張と緩和が繰り返されてきた。より正確に言えば、政府軍と親ロシア派による戦闘と停戦の繰り返しであり、多かれ少なかれ紛争状態が約7年間も続いてきたと言える。旧ソ連圏で使われる「凍結された紛争」という用語がおおむね当てはまる地域だ。
 危機のそもそもの発端は2014年2月、ロシアが自国の影響圏と見なすウクライナで、親欧米政権が誕生したいわゆる「マイダン(広場)革命」だった。プーチン政権は、ウクライナが欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)への傾斜を強めるのをけん制すべく、演習や住民保護といった名目の下に軍事介入した。21世紀にもなって、当時は主要8カ国(G8)メンバーだったロシアが、力による現状変更を試みたのだ。
 まず、歴史的に激戦が繰り広げられてきた要衝であり、ロシア黒海艦隊が駐留するウクライナ南部クリミア半島で、ロシア系住民のデモをあおりつつ軍事的に制圧する「ハイブリッド戦争」を展開。お手盛りの住民投票を経て、3月までのわずか約1カ月でロシアへの「編入」を完了した。ロシアをG8から追放したG7をはじめ国際社会はこぞって非難し、ロシアの友好国である中国やベラルーシですら編入を承認しなかった。
 なお、ロシア国民がクリミア半島を帝政時代からの「固有の領土」と見なしていることもあって、プーチン大統領の支持率は一時的に8割に急上昇したが、欧米の制裁でロシア経済は疲弊。国民の高揚感は今や見る影もない。
 クリミア半島に続いて2014年春にプーチン政権が軍事介入したのが、ドンバス地方だった。こちらは公式見解としてロシア正規軍の投入を認めず、不安定な紛争地域をウクライナ領内に生み出すことで、永続的に親欧米派政権を揺さぶることを狙ったとみられている。事実上の「無血開城」だったクリミア半島とは異なり、ドンバス地方の双方の死者は1万3000人以上に上る。言語も宗教も近い東スラブ民族同士で殺し合った結果だった。
 2015年2月にドイツとフランスが仲介して4カ国首脳でミンスク停戦合意をまとめたが、東部を分離独立地域として固定化するアプローチが盛り込まれ、ウクライナでは「不平等条約」として不満がくすぶっていた。
ポピュリスト大統領の思惑
 ドンバス地方を中心としたウクライナ情勢は、今年に入って再びきな臭くなる。2019年12月に独仏を含む4カ国首脳が会談し、ミンスク停戦合意の年内履行で一致していたものの、ウクライナ政府軍と親ロシア派の戦闘は継続。2020年7月に欧州安保協力機構(OSCE)の仲介で停戦を確認しても「焼け石に水」という状態で、バイデン政権発足前後からさらに雲行きが怪しくなった。紛争当事者の双方に、局面転換の思惑があったようだ。
 3月末の米紙ニューヨーク・タイムズの報道によると、ロシア軍は対ウクライナ国境付近で演習を終えた後、その場にとどまり続けた。兵力は推定約4000人。数は次第に膨れ上がり、ウクライナ政府が4月中旬に明らかにしたところでは、ロシアが併合したクリミア半島を含め、集結したロシア軍は8万~11万人と言われた。EUは10万人以上と見積もっている。
 プーチン政権が、ウクライナとその後ろ盾である欧米を威圧しようとしているのは明白だとしても、そこまでする背景には何があるのか。ウクライナのこれまでの動きを見ておこう。
 根本にある問題は、先述のミンスク停戦合意だ。これはドンバス地方で地方選を実施し、親ロシア派に「特別な地位」(高度な自治権)を認めるのが柱。しかし、ウクライナにとっては、分離独立状態に法的根拠を与えて固定化することに他ならない。独仏の働き掛けで合意したものの、歴代のポロシェンコ前政権も、ゼレンスキー政権も、履行には二の足を踏んできた。
 コメディー俳優出身のゼレンスキー大統領は2019年の就任当時、ウクライナで紛争が長期化する中、国民の厭戦(えんせん)気分を背景に、和平、すなわち停戦合意の履行に積極的だった。実際、地方選実施に向けてドイツのシュタインマイヤー元外相(現大統領)が提示していた打開策も受け入れた。
 ところが、親ロシア派の分離独立を認めず「主戦論」を唱える民族派の猛反発に直面。そもそもポピュリズム(大衆迎合主義)的な政治家であり、ウクライナが抱える経済、汚職、紛争といった難問を解決できず、当初7割台だった支持率が2割台に落ち込むと「民族派の人質」(ロシアの識者)となり、自らも失地回復を唱えるようになった。
バイデン政権で情勢変化
 具体的にゼレンスキー大統領は、クリミア半島を取り戻すべく、国際世論を喚起してロシアに圧力をかけるため、関係国による首脳会議「クリミア・プラットフォーム」を提唱。8月23日の開催を目指し、バイデン大統領も招待している。
 ロシアによるクリミア半島併合から7年を迎えるに当たり、国際社会に呼び掛けたものだが、バイデン政権の発足が追い風となったのは明らかだろう。ロシアに甘いとされたトランプ前大統領は、実現こそしなかったが、米国が議長国だった2020年にプーチン大統領をG7サミットに招待したい考えを表明したほどだった。
 米政権が交代したことで、国際社会も「トランプ前」に戻った。G7は併合7年の節目である3月18日にロシアを非難する声明を発表。「ロシアはウクライナの主権と領土一体性を侵害し続けている」「クリミア半島はウクライナだ」と改めて確認した。
 ちなみに、バイデン大統領はその前日、3月17日放映のABCニュースのインタビューで、ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏毒殺未遂事件に絡み、質問に答える形で「(プーチン大統領は人殺しだと)思う」と発言している。ウクライナ情勢と直接関係はないものの、プーチン政権の対米不信に拍車を掛ける結果となった。
 今回、対ウクライナ国境付近にロシア軍が集結して緊張が高まると、ゼレンスキー大統領は4月2日、バイデン大統領と電話会談。ロシアの脅威を前に、米国の「揺るぎない支援」という約束を取り付けた。NATO加盟国にも外遊し、ウクライナの加盟への意欲を触れ回った。プーチン大統領の思考からすれば、ウクライナと欧米から度重なる「挑発」があったわけだ。
 ウクライナが意を強くする背景には、同じ旧ソ連圏の係争地ナゴルノカラバフで2020年秋に戦闘が再燃し、トルコの支援を受けたアゼルバイジャンが親ロシアのアルメニアを破ったこともある。凍結された紛争という現状が、軍事的にであれ、外交的にであれ、変更可能であることを示したのだ。アゼルバイジャン勝利の「秘密兵器」となったのは、トルコが開発したドローン。実はウクライナは、トルコ製ドローンの調達を進め、自国製航空機エンジンを利用した共同開発にも着手している。
キーワードはドローン
 ロシアとしては、軍事的にも、外交的にも、状況が変わったと考えているのだろう。特にトルコ製ドローンには警戒している様子で、対ウクライナ国境付近を含む南部軍管区での「軍事演習」には、対ドローン戦に有効とされる防空ミサイルシステム「トール」を投入した。
 実際、ウクライナはトルコ製の「バイラクタルTB2」を既に配備している。ロシアとの緊張が高まる3月下旬に、黒海上空で試験飛行を行い、4月に入ってからはドンバス地方近くにも飛ばした。先のナゴルノカラバフ紛争に際してトルコがアゼルバイジャンに供給した機種であり、負けたアルメニアの後ろ盾だったロシアが恐れるのも無理はない。
 なお、日本に駐在するウクライナのコルスンスキー大使は、ロシアによるクリミア半島(先住民族はトルコ系のクリミア・タタール人)併合時、駐トルコ大使として2国間関係強化に一役買った外交官だ。2020年11月の東京都内での記者会見で筆者の質問に対し、ドローン供給と共同開発を念頭に「軍事協力の継続・拡大を期待している」と語った。ナゴルノカラバフ紛争で「クリミア半島返還への希望がさらに強くなった」とも明らかにしており、ウクライナ側には「転機」と映ったようだ。
 対するロシア側は、軍事的対応に加え、情報戦にも余念がない。ウクライナ東部でプーチン政権の影響下にある親ロシア派は4月3日、「(ウクライナ軍のドローン攻撃で)5歳の男児が死亡、60歳代の祖母が負傷した」と主張。ロシアの政権系メディアはこぞって引用して伝えた。停戦監視に当たるOSCEによると、前日に爆発で男児が犠牲となったことは事実だが、ドローン攻撃説についてウクライナ軍は、親ロシア派による「挑発だ」と一蹴した。
 ドローンを運用しているとしても、軍事目標ではなく、住宅地を狙うというのは合理性に乏しい。ロシアの独立系メディアも「プロパガンダ」と見なしており、ノーバヤ・ガゼータ紙は「大規模衝突の口実になりかねなかった」と警鐘を鳴らした。
 国境付近にロシア軍が集結する中、ゼレンスキー大統領がウクライナへの支持を取り付けようと、バイデン大統領をはじめNATO加盟国首脳と電話や会談を重ねたことは先に述べた。この際、公表こそされないものの、各国首脳からは「ロシアの挑発に絶対乗ってはいけない」と口を酸っぱくして言われている可能性が高い。
「終わりの始まり」と警告
 既にクリミア半島の併合とウクライナ東部の不安定化を「成果」としているロシアが、この期に及んで、なぜ2014年以来という規模の大軍を国境付近に集結させているのか。いざ紛争となれば、欧米から一層の制裁を食らうのは不可避で、ただでさえ経済危機や新型コロナウイルス禍が続く中で、理解不可能な面もある。
 ただ、背景として少なくとも、先述のようにウクライナ政府がロシアが要求するミンスク停戦合意の履行を拒んでいること、そしてバイデン政権が発足間もないことが挙げられるだろう。今や中国を「唯一の競争相手」とする米国が、ロシアの挑戦にどう対応するのか。「オバマ2.0」とも言われる政権の手並みをうかがっているもようだ。
 さらに、ウクライナで主戦論が高まる中、NATOは計2万8000人の大規模演習「ディフェンダー・ヨーロッパ21」を5、6月を中心に計画。米軍の現地入りなど準備は3月から始まっている。ロシアは2014年に「軍事演習」などと偽って隣国に介入した国だ。「自分がやることは相手もやりかねない」と疑心暗鬼になり、ウクライナによる失地回復の契機になると警戒心を抱いているとみられる。古くは「関東軍特種演習」で、ソ連の対日参戦を正当化した国でもある。
 物騒なのは、プーチン大統領の側近らが4月に入り、まことしやかに「開戦事由」や「大義」を並べ立て始めたことだ。ショイグ国防相は13日、「ロシアを脅かす(NATOの)軍事活動に対し、われわれはしかるべき措置を取った」と強調し、ロシア軍の集結を正当化。ウクライナ問題を担当するコザク大統領府副長官も先立つ8日、ドンバス地方の親ロシア派住民を保護するためロシアが行動する決意を示した上で、攻撃が仕掛けられれば「ウクライナの終わりの始まりになる」と警告した。
 ロシアは、ジョージア紛争の結果として独立を承認した南オセチアなどと同様、ドンバス地方の住民にもロシア旅券を発給している。つまり「自国民保護」名目で、影響圏にいつでも軍事介入が可能な状態にしてある。米シンクタンクの大西洋評議会の専門家は、ロシアが過去2年間にウクライナ東部の65万人以上に旅券を配布したとの報道を引用した上で「ロシア旅券はプーチンの秘密兵器だ」と断じている。
ホットラインで駆け引き
 一触即発の中、バイデン大統領は4月13日、プーチン大統領に電話をかけた。この中で、対ウクライナ国境付近でのロシア軍集結に対する米側の懸念を表明するとともに、緊張緩和を要求した。米ソのキューバ危機を契機に設けられたホットラインが、今も「両首脳間に存在すること」(ロシアの識者)を示した格好だ。バイデン大統領は近く米ロ首脳会談を欧州で実施することも提案し、不測の事態は避けられる可能性が出てきた。
 バイデン政権発足後、米ロ間では、新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長で合意したものの、中距離核戦力(INF)全廃条約は2019年8月に失効したままで、中国の参加も視野に入れた軍備管理協議が必須だ。安定した核大国同士の関係として、ロシアは首脳会談を定期的に実施したい。ところが、プーチン政権は会談の提案に、即答は避けた。
 ここで絡んでくるのは、米国による対ロシア制裁問題だ。バイデン政権は融和を演出した電話会談直後の4月15日、ロシアによる2020年米大統領選介入やソーラーウインズ社のソフトウエアを悪用した米政府機関へのサイバー攻撃などを理由に、包括的な追加制裁を発表した。3月2日に発表したナワリヌイ氏毒殺未遂事件をめぐる制裁に続くもので、新政権としてロシアに対して発動する初めての大規模な措置となった。
 バイデン大統領は、選挙公約通りロシアに厳しい姿勢を示したと言えるが、予測不可能になるような決定的な関係悪化は望んでいないだろう。一連の流れから常識的に考えるに、2日前の電話会談で「仁義を切っていた」、すなわちプーチン大統領に制裁発動の旨は事前通告していたとみられる。
 一方、これまでバイデン政権がサイバー攻撃などを非難していたことから、ロシアの情報収集能力からして、プーチン政権は制裁が発動されそうな予兆をつかんでいたはずだ。ウクライナ政府軍の動きやNATOの軍事演習に加え、バイデン政権が制裁を辞さない構えであることを念頭に、ウクライナで緊張をあおり、けん制に利用した可能性もある。
 ロシアは国境付近の「軍事演習」で、INF条約への抵触が指摘されたミサイルシステム「イスカンデル」も展開した。かつてバルト海沿岸の飛び地カリーニングラードに配備して欧州を震え上がらせた、いわく付きの兵器だ。バイデン大統領が米国と欧州の同盟の再構築を目指す中、演習がNATOを狙っていたことは明白だろう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/be91a847837aa85972b5b572c236025b03513663


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