プレジデント 2025.04.20 ざこうじ るい フリーライター
インド南西部ケーララ州の山奥で暮らす日本人女性がいる。演劇制作者の鶴留聡子さんは、インド人の演出家である夫と自宅兼劇場を造り、暮らしている。日本語も英語も通じない。文字を持たない先住民族もいる。野生のゾウやトラが出没する。そんな場所で、なぜ鶴留さんは暮らすようになったのか。フリーライター・ざこうじるいさんが、鶴留さんの素顔に迫る――。
日本人女性が暮らす「ポツンと一軒家」
1月末、インド南部の空港で私は冷や汗をかいていた。入国審査で「なぜ日本人がこんな場所に来る必要があるのか」としつこく怪しまれたのだ。「サトコという日本人に会いに行く」と伝えると、ようやく入国が許可され、ほっと胸を撫でおろした。
空港から都市部を通り過ぎてくねくねとした山道を進むこと3時間。道中のレストランでもお店でも、確かに日本人は他に見当たらない。
広大なバナナ畑を通り過ぎて車から降り、急斜面の山道を登っていくと、鬱蒼うっそうとした森の中に突如としてガラス張りの現代的な建物が現れる。扇型のユニークなつくりをしたこの建物は、民間劇場「サヒヤンデ劇場」だ。
撮影=Roshan P. Joseph
ジャングルの中に忽然こつぜんと現れる扇形の現代的な建物がサヒヤンデ劇場だ
ここに10年ほど前から暮らしている日本人女性が「サトコ」こと、鶴留聡子さん(45)である。夫で演出家のシャンカル・ヴェンカテーシュワランさんとともにこの劇場をつくった人物だ。
ふたりが住むのは、インド南西部、ケーララ州の山奥、アタパディ。日本人はおろか、外国人は他に見当たらず、英語も通じない。野生のゾウやトラ、オオカミも出没するという。
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