こ、これは傑作。早起きしてしまったので(そのままだと気持ちがブルーになるから)、とにかく何か読まなければと手に取る。あまりの面白さに一気読み。思えば篠田節子の小説を読むのは久しぶりだなあ。
三つの中篇からなる。タイトルはそれぞれクルマに関係している。
「田舎のポルシェ」
意味するところは軽トラのこと。RR(リアエンジン・リアドライブ)は日本人にとってポルシェとスバル・サンバーだけなので。
封建的な八王子の家を出て岐阜で公務員をやっている三十代の女性。台風が来るというのに実家に軽トラで米を受け取りに行くというお話。紫色のつなぎを着たヤンキーが運転手。
平成という世がなかったかのように、昭和と令和を直でつなげるような作品。庭石に何百万もかけるくせに「女に教育はいらない」と虐げられる娘。これが東京のお話か、と思うくらいだが、八王子市役所に長くつとめた篠田だから書けるわけだ。運ぶのが日本の象徴である米。その米が生む奇跡。
田舎暮らしに軽トラは必需品だ。とにかくなんにでも使える。キャビンが狭いからエアコンもすぐ効くし(笑)。スバルが軽トラの製造から撤退して久しい。もうかる車種ではないのは重々承知。また作ってくれないかなあ。
「ボルボ」
二十年落ちのステーションワゴンで旅する二人の初老の男たち。ガタが来たクルマは彼らをシンボライズしているかのよう。そしてそのボルボが最後に……。かわいいだけだと思っていた若い妻が、どんどんキャリアアップしていくことにとまどう夫、という設定もにくい。
「ロケバスアリア」
苦労に苦労をかさねた女性(彼女は苦労だと思ってはいないが)が、あることをきっかけに浜松の音楽堂でアリアを独唱する。そのDVDを製作するディレクターがちょいと嫌味な男なのかと思わせて……
三作とも絶品。ぜひ読んで。