クローズドサークル、という用語がミステリにはある。さまざまな原因で、事件が“限定された場所”で行われること。
典型的なのが嵐の孤島(クリスティ「そして誰もいなくなった」とか)や吹雪の山荘(西村京太郎「殺しの双曲線」とか)。変わったところでは火山の噴火にまきこまれる(有栖川有栖「月光ゲーム」)、226事件のために包囲される(宮部みゆき「蒲生邸事件」)とかバリエーションはいろいろ。
さて、鮎川哲也賞受賞作にして「このミステリーがすごい!2018年版」第1位、週刊文春ミステリーベスト第1位など、トップを総取りしたこの「屍人荘(しじんそう)の殺人」は、○○○という三文字の単語(タイトルにヒントがあります)のためにクローズドサークルが成立した別荘における連続殺人を描いたもの。
ネタバレ厳禁、ということなので○○○についてはふれますまい。ただ、第二の殺人においてこの設定は特に効果的。なぜこのような殺され方を被害者はされなくてはならなかったか、が最後に明かされて呆然。おそろしい新人が出てきたなあ。
設定のとんでもなさだけでなく、ライトノベル系のユーモアと残虐な事件の対比がすばらしい。
オープニングは、ホームズ役とワトソン役の学生が、学食で「あの白い長袖の女の子は何をオーダーするか」なんて、まるで米澤穂信の小市民シリーズのようなネタで始まる。しかし途中でこの役割は……
欠点がないわけじゃない。でもデビュー作でこれだけのものを書いたのだし、シリーズ化に意欲満々のようなので頼もしい。
「なぜラジカセから流れるブルース・スプリングスティーンのハングリー・ハート(このタイトルもヒント)は一度途切れたのか」
こんな謎でひっぱってくれるなんて、わたしの世代へのサービスもばっちりだ(笑)。
「魔眼の匣の殺人」につづく。
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