虎尾の会

幕末の草莽の志士清河八郎の会の名を盗用しています。主人は猫の尾も踏めません。

世界ノンフィクション全集(筑摩)の紹介 19巻 白バラは散らず

2009-12-15 | 読書
古本うしおに堂では、筑摩書房の現代世界ノンフィクション全集と世界ノンフィクション全集を出品したけど、個人的には、古い世界ノンフィクション全集(30巻本)が好きだ。新しく、函も本体も見栄えがいいのは現代世界ノンフィクション全集の方だけど、古い世界ノンフィクションの方が貴重なものが多い。今、どの1冊でも新刊屋の店頭に並べたら、今の本は顔色を失うってやつだ。で、いくつか紹介する。

巻の19 「アウシュビッツの五本の煙突」「白バラは散らず」「ダヴィッドの日記」「戦没学生の手記」の4篇がおさめられている。

「白バラが散らず」。インゲ・ショル著と書いているから、ゾフィー・ショルの姉なのかもしれない(この全集は作者や作品についての詳細な説明がないのが唯一の欠点)。

ちょっと前になるけど、この事件は「白バラの祈り」という映画になった。ビデオ屋さんから借りて見たけど、いい映画だった。

兄と妹がミュンヘン大学でナチに抵抗をよびかけるビラをまき、逮捕され、処刑された話だ。妹、ゾフィー・ショルが主人公。若者たちがこんな勇気を持ち得たことに粛然としてしまう。単純にヒトラー青年団に入っていたころから、次第に疑問を感じ、抵抗運動に乗り出し、ビラまきを実行し、逮捕、処刑されるまでを描く。そのビラも全文掲載してある。

解説は、開高健。ただし、開高は、解説では「戦没学生の手記」についてしか書いていない。戦没学生が生きていた当時、文壇で戦争の賛美をしていた小林秀雄たちへの批判を書いている。

「予科練や、海兵や、幼年学校や、さまざまのところへ出かけて、ときには眼を澄ませ、ときには眼をうるませ、おちょぼ口で、若者たちをそそのかして歩いた。そういうことについての「責任」を問われそうな気配については、すかさず、「無常」の哲学を敷いて、いっさいの地上の感覚と価値を混沌化し、煙に巻いておくことも忘れなかった」
「また、聞きたいことがある。昭和37年、現在、あなたがたがあいかわらずお書きになっている雲煙万里の芸術論の背後には、いったい、この青年たちの文章と自分をくらべた場合の反省とか、ためらいとか、遅疑とか、沈黙とか、そうしたものは、なんの影もおとさないものなのか。すくなくとも、だまっているということさえできないものなのだろうか」

開高健もはっきりと言うものだ。まさか、こんな解説があったために、この世界ノンフィクション全集の刊行がやめられたわけでもないと思うけど。

ともあれ、白バラが最初に訳されたのが、このノンフィクション全集版。初めて訳された、という作品が多いのです。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。