NHKの朝ドラ「ウェルかめ」は面白いと思う。世相が暗いだけにせめて朝ドラくらいは能天気な物語を観たいよね、ということだろうか、おおむね好評なようです。ライバル、偉大な指導者、戦い、挫折、友情、お色気、とこれだけ基本を踏襲してりゃ、あとはいつ爺ちゃんをあの世へ送るかのセルフ・トトカルチョに賭けてみようかなと……。
ぞめきトキメキの編集長ええこと言うなぁ、「上から目線で記事を書くな、読者と共感せんかい、言葉じゃなくて思いを伝えんかい」と、ぼく自身に向けられた激励の言葉のようでちょっとウルウルきてしまったじゃありませんか。にしてもあの「でぇ」が分からん。
いや徳島の言葉はこちらの方言にとても良く似ていて、聞き取れないわけじゃない。もし大阪弁で「「やるでぇ」といえば「もちろんしますとも」の意味だけど、離島弁で「やるでぇ」といえば「一緒にやりますか?」と疑問符が付くのです。ウェルかめでは両方の意味で用いているようで、聞いていて体長が悪くなりそう。というか、リアルの離島方言を目の前で、生で聞いてもぼくには分からないのです。それは「でぇ」を取り巻くあるトラウマが関係していると見た。
あれは俺が大阪に出て働き始めて数年経った頃だった。通勤に地下鉄御堂筋線を梅田で降り、地下街を西梅田に向かって歩くのが最も効率的な通勤ルートであった。その地下道には全国の土産物売り場が軒を連ねている。土産を買い忘れた人、あるいはアリバイ工作に土産を求める浮気亭主御用達のありがたい店々だ。毎日そこを歩いていると店のおばちゃんたちとも顔馴染みになる、というより暇を持て余すおばちゃんたちの格好の餌食にされた。
○○県の土産物を売っているおばちゃんはことのほか愛想が良かった。顔を合わすたびになんだかんだと声をかけてくる。土産物を買うつもりは無かったが、ある日立ち止まって会話した。内容は覚えていないが、相槌を打つのに「ほうでぇ」と俺は連発した。
そうなんですか、という意味だが「ほうでぇ」を言うたびにおばちゃんは不思議そうな顔をして会話の間合いを計る。やがて「ほうでぇ」が方言であり、その意味を解したのか、彼女は大声で、さもおかしくて笑いが止まらないとでも言いたげにでっぷりと肥えた腹を抱えて笑い続ける。おばちゃんの笑いの意味に気がついた俺は、血の気が引いた顔で引きつった薄ら笑いのまま立ち去った。
それ以来俺は通勤ルートを若干不便な西梅田直通に変えた。あのころ俺の精神がもっと強ければ、シャイでなければ、田舎者だけどそれが何か? と開き直れる強さがあのころの俺に備わっていたならウェルかめの「でぇ」も理解できるであろうに。
こらぁ梅田地下の○○県土産を売っとったおばちゃん、田舎の土産を売っとるくせに田舎者を田舎者呼ばわりして笑うんじゃねー! おれはここに断固としてあんたの糾弾に乗り出すぞ、こらぁ! って、もうとっくに時効か、引退してあちらに行かれてる? それに今はもう土産物売り場は無かったような……諸行は無常でございます。
ぞめきトキメキの編集長ええこと言うなぁ、「上から目線で記事を書くな、読者と共感せんかい、言葉じゃなくて思いを伝えんかい」と、ぼく自身に向けられた激励の言葉のようでちょっとウルウルきてしまったじゃありませんか。にしてもあの「でぇ」が分からん。
いや徳島の言葉はこちらの方言にとても良く似ていて、聞き取れないわけじゃない。もし大阪弁で「「やるでぇ」といえば「もちろんしますとも」の意味だけど、離島弁で「やるでぇ」といえば「一緒にやりますか?」と疑問符が付くのです。ウェルかめでは両方の意味で用いているようで、聞いていて体長が悪くなりそう。というか、リアルの離島方言を目の前で、生で聞いてもぼくには分からないのです。それは「でぇ」を取り巻くあるトラウマが関係していると見た。
あれは俺が大阪に出て働き始めて数年経った頃だった。通勤に地下鉄御堂筋線を梅田で降り、地下街を西梅田に向かって歩くのが最も効率的な通勤ルートであった。その地下道には全国の土産物売り場が軒を連ねている。土産を買い忘れた人、あるいはアリバイ工作に土産を求める浮気亭主御用達のありがたい店々だ。毎日そこを歩いていると店のおばちゃんたちとも顔馴染みになる、というより暇を持て余すおばちゃんたちの格好の餌食にされた。
○○県の土産物を売っているおばちゃんはことのほか愛想が良かった。顔を合わすたびになんだかんだと声をかけてくる。土産物を買うつもりは無かったが、ある日立ち止まって会話した。内容は覚えていないが、相槌を打つのに「ほうでぇ」と俺は連発した。
そうなんですか、という意味だが「ほうでぇ」を言うたびにおばちゃんは不思議そうな顔をして会話の間合いを計る。やがて「ほうでぇ」が方言であり、その意味を解したのか、彼女は大声で、さもおかしくて笑いが止まらないとでも言いたげにでっぷりと肥えた腹を抱えて笑い続ける。おばちゃんの笑いの意味に気がついた俺は、血の気が引いた顔で引きつった薄ら笑いのまま立ち去った。
それ以来俺は通勤ルートを若干不便な西梅田直通に変えた。あのころ俺の精神がもっと強ければ、シャイでなければ、田舎者だけどそれが何か? と開き直れる強さがあのころの俺に備わっていたならウェルかめの「でぇ」も理解できるであろうに。
こらぁ梅田地下の○○県土産を売っとったおばちゃん、田舎の土産を売っとるくせに田舎者を田舎者呼ばわりして笑うんじゃねー! おれはここに断固としてあんたの糾弾に乗り出すぞ、こらぁ! って、もうとっくに時効か、引退してあちらに行かれてる? それに今はもう土産物売り場は無かったような……諸行は無常でございます。