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■森山大道写真展-北海道<序章> (8月30日まで)

2009年08月28日 00時09分25秒 | 展覧会の紹介-写真

 森山大道がどういう写真家であるか、いまさら説明の必要はないであろう。
 この写真展は、彼が1978年に、札幌・菊水に3カ月間住み、道内各地でシャッターを押したネガを、およそ30年ぶりにプリントしたものを、道内5会場で順次発表していくというもの。
 5会場それぞれ、公開される作品は異なるという。
 先日出版された2万円の大作写真集「北海道」に収録されている作品もあれば、初めて世に出るものもある。

 展示点数は、夕張市美術館とほぼ同じ119点。
 うち、筆者が気づいた範囲で39点が、写真集「北海道」と重複していた。

 重複していたのは、会場のいちばん最初にあった、狸小路4丁目の写真(宮文刃物店が懐かしい。いまは2丁目に移転)や、なつかしい「梅澤時計店」の看板が見える西4丁目電停の写真、小樽都通り商店街の「ビリヤード・アラカワ」などである。

 また、同一のネガではなくても、「北海道」や、夕張市美術館とほぼおなじタイミングで撮ったとおぼしきプリントも何点か見受けられた。
 夕張・本町商店街で撮られた写真もそうだし、すすきの交叉点にレンズを向けた1枚もそうだ。

 初見の作品では、ライラックが咲いた大通公園で、ベンチにすわった若い女性や、花をめでる老夫婦がうつった1枚などは、いかにも札幌らしい。
 大通東1丁目の歩道橋(先ごろ取り壊された)から撮った写真もある。
 一方で、小樽の梁川商店街、函館朝市や駅近くの風景、夕張の駅前などを撮ったものもある。
 キャプションがないので、撮影地がわからない写真は多いのだが、それでも推測できる場合がけっこうあるのだ。

 ただ、「北海道」にものっていたが、新潟交通バスとか、青森県と推察される「jaws」のポスターが貼られた映画館など、どうも北海道内で撮影されたものではなさそうな写真も混じっている。


 以下、気取ったことを書くことを許していただきたい。

 1970年代、森山大道は「写真よ、さようなら」などで、写真の可能性の限界ともいえそうな試みを繰り返していた。
 その果てに彼が発見したのは「写真における作家性の虚構」とでもいうべきものではないか。
 写真は、誰でも写せる。独自性で勝負しても限界はある。そこで、全面に浮上してくるのが「記録性」である。森山大道は、作家性をあえて刻印することを放棄して、ただシャッターを押す「目」と「手」であろうとしたのではないか。

 「目」ということばで思い出すのは、セザンヌがモネを評したことばである。
「彼は目に過ぎない」
 しかし、セザンヌはこう付け加えるのを忘れなかった。
「だが偉大な目だ」
 モネに限らず、印象派の画家たちは、見た目のリアルさを追求するあまり、旧来のアカデミスムから遠く離れた地点で画面を作った。彼らの絵には、いうなれば「思想」はない。逆説的に言えば、思想がないことが新しい絵画を生んだのだ。

 森山大道の場合も事情は似ていないだろうか。「遠野物語」や「北海道」以降の彼には、「思想」はない。狩人のように、目の前にある風景を、切り取っているだけだ。しかし、彼がスナップした映像は、いかに匿名的で、記録に徹したものであろうとも、それでもなおかつ、明瞭(めいりょう)な作家性を帯びているのだ。
 


2009年6月26日(金)-8月30日(日)11:00-19:00、月曜休み(祝日の場合は翌火曜休み)
札幌宮の森美術館(中央区宮の森2の11)
一般500円、高大生400円、中学生以下無料

http://www.moriyamadaido.com/

artscapeの学芸員レポート

森山大道展、道内5カ所で
アーティストトーク(2009年6月)
森山大道氏が道教大特任教授となったことについて(2006年)




・地下鉄東西線西28丁目からジェイアール北海道バス「山の手線[循環西20]」で、「宮の森1条10丁目」降車、徒歩4分
・地下鉄東西線円山公園からジェイアール北海道バス荒井山線[円14]、動物園線[円15] で、「宮の森1条10丁目」降車、徒歩5分

・札幌彫刻美術館から徒歩10分


7月11日(土)-8月23日(日)=夕張市美術館
●7月29日(水)-9月28日(月)=アルテピアッツァ美唄
●9月12日(土)-28日(月)=札幌パルコ
●2010年2月19日(金)-3月29日(月)=東川町文化ギャラリー


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1 コメント

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Unknown (h-art_2005)
2019-05-06 11:41:17
こういうふうに言い換えられるかもしれない。
言葉で論じられるものだけが「思想」ではない。
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