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■小樽洋画研究所と中村善策 (2016年1月30日~7月3日、小樽)

2016年06月27日 09時09分09秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 市立小樽美術館の建物では、2階の企画展示室について語られることが多いのは当然なのだが、1階の「中村善策ホール」も見逃せない。年何度か展示替えをしているので、いつ行っても、新しい発見がある。
 筆者は前回見たとき、たしか「信州」がテーマだったが、今回の展示とは1点もダブリがない(と思う)。これはすごいことではあるまいか。

 2016年上半期の展示は、このホールとしてはめずらしく、中村善策以外の絵も並べている。
 善策が絵筆を執り始めたころの小樽の画壇にあった「小樽洋画研究所」に着目し、三浦鮮冶、兼平英示、工藤三郎、山崎省三、谷吉二郎、大月源二、加藤悦郎、樋口忠次郎、善策の油絵計13点と、善策が小樽を描いた風景画「けむり」(1937)や「張碓のカムイコタン」(1973)など12点を展示している。
 洋画研究所のコーナーにあった善策の絵は1922年の「林檎園の一隅」で、これまで筆者が見た彼の絵で最も古く、後年の鮮やかな善策独特の色彩などは影も形もない。輪郭をぼかすスフマートで、暗い冬の林檎園を描いた1枚だった。

 展示のねらいについては、小樽美術館協力会のサイトから引用しよう。

 小樽洋画研究所は、1916年青年画家三浦鮮治が上京する平沢貞通から石膏像を譲り受けて、翌年後進のために自宅アトリエを開放したもので、ここに三浦の友人で春陽会の創立会員の山崎省三や、洋行帰りの工藤三郎らが加わって、若手の啓発にあたっていました。この小樽洋画研究所を皮切りに、太地社、裸童社など一連の活動が生まれ、北海道美術の発展の大きな原動力となっていきます。


 前半の展示作は次のとおり。
三浦鮮冶  滞船(1926) 静物(39) 岩影(54) 蘭島風景(40)
兼平英示  夏山(34) 少女像(25)
工藤三郎  真昼の街(北京)(1919)
山崎省三  スペインのコスチューム(30)
谷吉二郎  静物
大月源二  初夏(24)
加藤悦郎  坂道(18)
樋口忠次郎 お神威岩風景(63)

 加藤は「北海タイムス」(北海道新聞の前身)で漫画を描き、初期の道展にも出品している。当初は政治風刺も行っていたが、その後は「新日本漫画家協会」に参画して戦時体制を担ったため、戦後は反省し日本共産党に入ったとのこと。
 「坂道」は、題材が、どう見ても岸田劉生「切通之写生」に影響されているようとしか思えない。

 工藤はパリに3年間留学し、「サロン・ドートンヌ」にも出品した経歴の持ち主。
 「真昼の街(北京)」は、パリ留学直前の作。朱色の屋根の建物(倉庫?)、その手前の樹木と木陰に休む人々、往来で手押し車をおしてゆく男や人力車など、生き生きと街角を描いている。

 ところで、三浦と兼平はもともと兄弟で、兼平が小樽で養子として預けられたことために、姓が異なっている。
 ふたりとも、神奈川県鎌倉郡川口村片瀬の生まれである。
 同村は1933年(昭和8年)、町に昇格する際、片瀬町とし、戦後に藤沢市に合併された。

 ちなみに、山崎は、三浦の翌年におなじ神奈川県の横須賀に生まれている。
 地理的に近いところの出身の3人が、小樽ひいては北海道の洋画壇の黎明期を支えていたというのが興味深い。
 山崎は、幼少期に小樽で過ごした。院展に洋画部があったころのホープで、のちに春陽展の創設に参画した。ということは、三岸光太郎の絵の審査なんかも行ったんでしょうね。


 「中村善策の小樽風景」シリーズについても触れておく。

 「アカシアと運河」(1964)は、この年の夏に帰省して小樽運河に赴いた際、アカシアの並木があったはずの場所が材木置き場になっていたことから、別の場所でアカシアを写生して絵に導入したという。
 このように、中村善策は多くの場合、風景をそのまま写生するのではなく、絵として成立するようにさまざまな改変を施す。アカシアを別のところから持ってくるという発想がすごいと思うし、画家にとっては、そのほうが昔の風景に「リアル」だと感じられたのだろう。



2016年1月30日(土)~7月3日(日)
市立小樽美術館 中村善策ホール(色内1)

関連記事へのリンク
中村善策ギャラリーを見る (2014)
中村善策の全貌展 (2008)
中村善策と道一水会系の画家たち (2003)
北の個人美術館散歩-風土を彩る6人の洋画家たち (2002)
=いずれも画像なし



・JR小樽駅から約740メートル、徒歩9分
・札幌-小樽の都市間高速バス(中央バス、ジェイアール北海道バス)で「市役所通」降車、約800メートル、徒歩10分
(駐車場があるらしいです)


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