つまらないスナップ写真はやめて、美術展の感想に戻る。
1月13日の1カ所目は、損保ジャパン東郷青児美術館の「元永定正展 いろ いきてる!」。
エレベーターで42階まで上がると、ロビーの眺めが非常に良い。
会場は、筆者がこれまで東京の美術館で経験したことがないほどすいていた。監視の人より客のほうが少なかった。
元永さんは、戦後の前衛美術に一時代を画した「具体美術協会」のメンバーとして1960年代に活躍し、その後は、ほわーんとした独特の味わいの抽象画や、それを題材にした絵本を制作している。80代後半になった現在も、現地制作のために欧洲へと飛ぶお元気な方である。
最初の部屋にあった「作品」は、筆で描くのではなく、絵の具を直接カンバスに流して制作したもの。絵の具と絵の具が混じりあい、なまなましくもパワフルだ。
それにしても、「具体」の製作現場っておもしろかっただろうなあ。白髪一雄が足で描いているところは記録フィルムで見たことがあるけれど、元永氏が絵の具を大きな缶ごとぶちまける様子も、すさまじそう。まあ、こんなことを言うとまた不評を買いそうだけど、いまはやりの「ライブペインティング」をやっている人たちよりは、きっとわくわくするものだったに違いない-などと、エネルギーのかたまりみたいな画面から想像をたくましくする。
この力とエネルギーが、当時、フランスの美術評論家タピエに激賞されたゆえんなんだろう。
しかし、そういう作品なら、当時のアンフォルメルの盛衰とともに消えていったかもしれないが、70年代以降の元永さんの絵は、なんというか、脱力系なのだ。
あみだくじみたいな線を画面いっぱいにひいたり、丸っこいかたちと線を組み合わせたりして、題名も「あかながだえんとまるみっつ」とか「せんがおおゆれ」とか、ストレートでもあり、人を食ったようなところもある。
「のびかたち」なんて、鍵とも注射器とも見える白っぽいかたちを上半分にかき、下半分はモーリス・ルイスばりに暗い色の絵の具を画面に流し込んでいる。ただそれだけの絵だけど、なんと150号カンバス3枚をつなげているのだ。
いったいに元永さんの作品はすべて大作である(ほとんど100号以上)。これは、やはり、米国の抽象表現主義の影響があるにちがいない。ただ、抽象表現主義の画家たちが、みな真剣に(ポロックなんかは命を削りながら)画面を構築していたのに対し、元永さんは
「まあ、そんなに根詰めんでもええんとちゃいまっか。しゃかりきにならんでもええねん、ぼちぼちいきましょ」
と言っているみたいなところがある。落書きみたいな「遊び」と「大画面」。このミスマッチが、なんとも楽しいのだ。
(落書きといっても、そう見えるだけで、画家はきちんと計算している)
元永さんの絵で、もうひとつ魅力的な系譜がある。
それは、「作品752(かさなっているみどりあか)」「しろいひかりいちのくろ」といった、まるで支持体に間接照明のあかりが仕込まれているかのように、光を感じさせる一連の作品だ。もちろん、実際にあかりがカンバスに埋め込まれているのではなく、濃い色の腕のような部分から白いほのかな光が漏れているかのように描いているのだが、実際のゆきあかりなどと同様、これらの作品は眺めていると、理屈ぬきで心がいやされる。
こういう境地の作品は、抽象表現主義の本場にはほとんどないと言っていいのではないだろうか。
というわけで、もっと多くの人に見てほしい個展である。
2009年1月10日(土)-2月22日(日)月曜休み(祝日は開館) 10:00-18:00(入場-17:30)
損保ジャパン東郷青児美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階)
1月13日の1カ所目は、損保ジャパン東郷青児美術館の「元永定正展 いろ いきてる!」。
エレベーターで42階まで上がると、ロビーの眺めが非常に良い。
会場は、筆者がこれまで東京の美術館で経験したことがないほどすいていた。監視の人より客のほうが少なかった。
元永さんは、戦後の前衛美術に一時代を画した「具体美術協会」のメンバーとして1960年代に活躍し、その後は、ほわーんとした独特の味わいの抽象画や、それを題材にした絵本を制作している。80代後半になった現在も、現地制作のために欧洲へと飛ぶお元気な方である。
最初の部屋にあった「作品」は、筆で描くのではなく、絵の具を直接カンバスに流して制作したもの。絵の具と絵の具が混じりあい、なまなましくもパワフルだ。
それにしても、「具体」の製作現場っておもしろかっただろうなあ。白髪一雄が足で描いているところは記録フィルムで見たことがあるけれど、元永氏が絵の具を大きな缶ごとぶちまける様子も、すさまじそう。まあ、こんなことを言うとまた不評を買いそうだけど、いまはやりの「ライブペインティング」をやっている人たちよりは、きっとわくわくするものだったに違いない-などと、エネルギーのかたまりみたいな画面から想像をたくましくする。
この力とエネルギーが、当時、フランスの美術評論家タピエに激賞されたゆえんなんだろう。
しかし、そういう作品なら、当時のアンフォルメルの盛衰とともに消えていったかもしれないが、70年代以降の元永さんの絵は、なんというか、脱力系なのだ。
あみだくじみたいな線を画面いっぱいにひいたり、丸っこいかたちと線を組み合わせたりして、題名も「あかながだえんとまるみっつ」とか「せんがおおゆれ」とか、ストレートでもあり、人を食ったようなところもある。
「のびかたち」なんて、鍵とも注射器とも見える白っぽいかたちを上半分にかき、下半分はモーリス・ルイスばりに暗い色の絵の具を画面に流し込んでいる。ただそれだけの絵だけど、なんと150号カンバス3枚をつなげているのだ。
いったいに元永さんの作品はすべて大作である(ほとんど100号以上)。これは、やはり、米国の抽象表現主義の影響があるにちがいない。ただ、抽象表現主義の画家たちが、みな真剣に(ポロックなんかは命を削りながら)画面を構築していたのに対し、元永さんは
「まあ、そんなに根詰めんでもええんとちゃいまっか。しゃかりきにならんでもええねん、ぼちぼちいきましょ」
と言っているみたいなところがある。落書きみたいな「遊び」と「大画面」。このミスマッチが、なんとも楽しいのだ。
(落書きといっても、そう見えるだけで、画家はきちんと計算している)
元永さんの絵で、もうひとつ魅力的な系譜がある。
それは、「作品752(かさなっているみどりあか)」「しろいひかりいちのくろ」といった、まるで支持体に間接照明のあかりが仕込まれているかのように、光を感じさせる一連の作品だ。もちろん、実際にあかりがカンバスに埋め込まれているのではなく、濃い色の腕のような部分から白いほのかな光が漏れているかのように描いているのだが、実際のゆきあかりなどと同様、これらの作品は眺めていると、理屈ぬきで心がいやされる。
こういう境地の作品は、抽象表現主義の本場にはほとんどないと言っていいのではないだろうか。
というわけで、もっと多くの人に見てほしい個展である。
2009年1月10日(土)-2月22日(日)月曜休み(祝日は開館) 10:00-18:00(入場-17:30)
損保ジャパン東郷青児美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階)