今年の東京モーターショウは中止されたが、5月の上海やいま開かれている天津モーターショウには、電気自動車がずらりと展示されているそうだ。新聞は,世界各国の自動車会社がEVやFCVの開発競争に乗り出していると報じ、2030年にEVの占める割合まで順位づけて載せている。そこには、電力創出に関するCO₂排出の問題は取り上げられていない。EV化すれば気候変動の問題は解決するといわんばかりの前提となっている。それこそ、ミヤケさんが指摘したかった点。電気自動車のCO₂排出とエネルギー経済性を説明したのは、EUを先頭にして世界がもっぱらそちらに突っ走っているからであった。
ミヤケさんの話は、あくまでも理化学的、かつ技術的なレベルであった。
では、電気に代わるクルマのエネルギー源はあるのか、それは何かであった。
一つは、水素。もうひとつは自然エネルギー。後者は,水力、太陽光,風力、地熱など,いろいろと挙げられるが、いずれも貯蔵できない点で、EVと同じ問題を抱えている。そう前振りをして、「燃料電池車Fuel Cell Vehicle/FCV」へ話を移した。
これは、「蓄電池を搭載したEV」と異なり、「発電機を搭載した電気自動車」。「水素自動車」と呼ばれるものを代表例として取り上げた。
水素は、水か炭化水素のかたちでしか存在しない。それを分離・分解して取り出すことになる。目下開発途上。実用化にはほど遠い。水の電気分解と逆の工程で水素を燃やして電気を取り出しモーターを回す。電磁的ではなく化学的に発電するもの。モーター駆動の方式はEVのそれを利用できるから、FCVはEVの延長上に位置すると言える。
水素を取り出す方式は大きく分けると4方法ある。
製鉄工業の副生ガスからもとれる。これが、前回seminarでイセキさんが俎上に載せた「エネルギー問題」であった。
そのほかに、自然エネルギーを用いて水の分解をする方法とか、バイオマスと呼ばれる、メタンガスやエタノールを触媒を用いて改質するなどある。
だが、いま試みられている一般的なのは、化石燃料の改質法。天然ガスなどに触媒を用いて炭化水素を分離するもの。コストがかかりすぎることと、水素の輸送、水素ステーションの全国配置などの政策的な展開が鍵になる。また、化石燃料の改質による水素生成は、CO₂排出を伴うことも問題が残る。
そう論点を提示して、本題、「原子力発電の新展開」に移った。
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じつは、この「ご報告」を書くのに、私はなかなか気が乗らない。手元に「資料」はある。だのになぜ書く気にならないのか、我がことながら不思議だ。
歳のせいかと,はじめ思った。だが気が乗らないのは、ワタシの傾きがヒトに向いていて、天然自然から離れているからじゃないか。ミヤケさんが自然の摂理に傾ける関心は、なかなかのものがある。高校時代の物理に感じた面白さを,未だに保っている。ぼんやりとそう思いついて、ひとつ,ひょんなことを思いだした。
自分が好きな子に手を出さないのはなぜと聞かれた場面で、ゲーテ(の作品の主人公)が、「私が君を愛しているとして、君がそれとなんの関係がある?」と応じた言葉。その言葉は、「美意識」はそれを持つ人固有の,絶対的なもの(したがって他の人に理解を求める必要のないこと)と受け止めていた。ちょうど宇宙に心惹かれ、E=MC²を美しいと感じていたアインシュタインに対して宇宙は,何ほどかの心を動かすことをしたろうか。ガモフ全集を読みながら、そう思っていた。そうして、私は「美意識」に縁がないと思っていた。
だが、ゲーテが(好きな子の)「魂」を取り上げていたのだとしたら、「美意識」というよりも、ピラトニックな愛とはこういうものだといっていたのかもしれない。そう、受け止め方を修正したこともあった。これは当時の我が心持ちにうまくフィットするようであった。
だが長じて、「関係的な認識」を持つようになって、「君がそれとなんの関係がある?」というのは、わが身に合わないと思うようになった。ワタシはそのように言える場に身を置いていない。つねにワタシとの関係においてモノゴトを捉える視線こそが、私であると考えるようになっていた。それはワタシが生い育った社会関係の単なる器に過ぎないということもである。これは、卑俗なわが身の認知であった。同時に、「魂」がそれ自体で存在しているのではなく、身体とともに実在している(べき)もの、「身」だと感じるようにもなっていた。「美意識」に欠けるワタシは、卑属の実在,つまりヒトとしてのワタシに我を発見したのであった。
ミヤケさんの「美意識」(理化学的なものの見方)がそれとしてあることは、よく分かる。だがワタシは、その次元では心が燃え上がらない。どうしてもヒトを介して、ミヤケさんのモンダイとする「美意識」がワタシにとって何であるかを問い返さなければ、書き続けようとする意思につながらない。そんな感じがしているのである。(つづく)