英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

『将棋世界』5月号②

2009-05-30 19:07:57 | 将棋
★順位戦B級2組『1分間のドラマ』(上地隆蔵氏)

 昇級がらみで、阿久津×豊川、青野×松尾、先崎×南(昇級に近い順に豊川、松尾、先崎、田中寅、島)
 降級がらみは、野月×加藤が取り上げられていた。

 青野×松尾、先崎×南は、序盤からのっぴきならない戦いとなり、非常に面白い将棋だった。なので、観戦記評というより、将棋そのものについて見てみたい。



 スペースの関係で、取り上げられていないが、1図は△1三角と打たれ、飛車が逃げると5七に角を成られてしまう。もちろん、青野九段はそれを承知の飛車先交換で、図以下▲3四飛△3三銀▲1四飛△2二角(第2図)と進む。



 第2図では飛車が詰んでいる。が、ここらあたりは定跡らしく、▲2三歩△同金▲3二角△1四金▲2一角成△2八歩▲2三歩△1三角▲1一馬△4四銀▲1五歩△2九歩成(第3図)▲1四歩△5七角成と進んでいった。



 なんとも激しい将棋だ。第2図では▲1二角と打つ手もあるらしい。




 さて、観戦記は第4図の局面を取り上げている。控え室では△4三同馬▲4五香△4四歩▲同香△3四馬というギリギリの手順が研究されていたが、松尾七段は△7一銀。
 と金を払わずに、銀を引く。▲5三と、も生じているではないか!
 しかし、飛車の利きが通って、後手玉には詰めろが掛からず、△4八歩の痛打があるので、後手有望らしい。△7一銀は好手だった。
 この後、松尾七段にミスがあり差が縮まったが、青野九段もそのミスに乗じられず松尾七段が押し切り、昇級を決めた。青野九段、終盤の逸機を悔やんだが、若々しい将棋、面白かった(「若々しい」と褒めるのは、失礼かもしれませんね)。

 先崎×南戦も、後手の南の先手陣に放った3八の角を巡る攻防が面白かった。一見、簡単に角を攻めて先手がよさそうなのだが、角で2九の桂を食いちぎり、その桂を2五に打って先手の2四に飛車を捕獲する手があるというのだ。その他、いろいろ水面下に、おもしろい変化があるが、どうも先手の先崎八段がまずいらしい。

 阿久津×豊川戦。阿久津六段が「本気で負かしに掛かっている」らしい。徐々に追い込まれていく豊川六段。

 【終局直前、以下抜粋】
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 豊川は懸命にアヤを求めたが、阿久津は正確な寄せで追い込んでいく。差は縮まらなかった。秒を読む記録係の声、促されるように着手された駒音。それらが切なく対局室から響いてきた。
 阿久津は必至を掛けた。追い詰められた豊川は最後連続王手で迫ったが、詰まないのは明らかだった。日付が変わった午前零時50分、万策尽きた豊川が駒を投じた。
 対局室に入った。豊川の顔は紅潮していた。阿久津に笑顔はない。どの場面を指しているのか分からなかったが、豊川は
「あの攻めを警戒していたけどね…」
と静かな口調で切り出した。悔しさを胸にしまい、気丈な笑顔を見せた。
 豊川が投了した瞬間、関西で対局している先崎が自力になった。しかし既に局勢は敗勢。それから1分後、先崎は駒を投じた。

《中略》

 東京の7局は感想戦もすべて終了した。深夜1時20分を過ぎていた。

《中略》

 まだ関西の浦野×佐藤秀戦が終わっていないという。この時間帯に将棋を指している棋士がいて、それを検討している棋士がいる。それを伝えるスタッフもいる。なんだかすごいなと思った。
 2勝7敗の浦野は負ければ自身に降級点。すでに降級点を1個持っているので、これを負けるとC級1組降級が決まる。浦野の穴熊は崩壊寸前で敗色濃厚だった。今期締めくくりの一戦を、みんなで静かに見守った。まもなく佐藤秀の勝ちがネット中継を通じて伝えられる。終局時刻は1時37分と記されていた。

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 切なく、そして、しみじみした気持ちになりました。






 さて、もう一局、野月×加藤戦。
 これも、抜粋。
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《夕食休憩時の描写》
 記録係の位置が普段と違った。加藤の指示があったことは容易に推測できた。両者2勝7敗。まけた側に降級点がつく。すでに降級点を1個持っている加藤は本局が降級の一番だった。
 加藤が野月側に回って、仁王立ちしていた。何度か見かけた光景だが、改めて見たら迫力があった。

《中略》

 9時45分、加藤×野月戦は野月が勝った。加藤はC級1組への降級が決定。名人経験者がCクラスに落ちるのは少し寂しい気がした。野月は降級点を回避した。終局して間もなく、モニターにはグチャと盤面が崩される瞬間が映った。急いで写真を押さえにいく記者たち。感想戦はなかった。野月がスッと席を立ち、退室した。加藤は口を真一文字に結び、目を見開いて正面を見据えていた。しばしの沈黙の後、スタスタと対局室を出て行った。誰も声。をかけられなかった。その後、控え室にいた野月をつかまえてポイントを聞く。

《解説略》

 勝った野月は、こう笑顔で解説してくれた。
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 太字の部分「終局して間もなく、モニターにはグチャと盤面が崩される瞬間が映った。急いで写真を押さえにいく記者たち。感想戦はなかった。野月がスッと席を立ち、退室した。加藤は口を真一文字に結び、目を見開いて正面を見据えていた。しばしの沈黙の後、スタスタと対局室を出て行った。誰も声。をかけられなかった」

 この部分を読んで、「野月七段はなんて非礼なんだ」と思った。
 C級へ降級が決まった元名人の大先輩。その加藤九段にとっては、この一局、納得のいく感想戦をしたかったのではないのか。加藤九段の日ごろから推察すると、その感想戦は、加藤九段の独演会状態で延々続くことが予想される。しかし、感想戦なしで、即座に盤面を崩してしまうのは、あまりに非礼ではないのか。

 しかし、夕食休憩時の文章を読むと、記録係の位置が通常と違っている。加藤九段には悪気はないだろうが、対局者にとっては相当迷惑なのではないか。いつもと違う環境、しかも長時間、さらに、加藤九段の常識はずれ気味の行動(相手の後ろに回って覗き込む、咳払い等)に、苛立ちが溜まっていたのかもしれない。
 どのように記録係の位置が変わっていたのかは不明だが、対局環境を著しく変えてしまうものだったら、連盟は注意すべきだ。

 野月七段の盤面グチャ行為は、もうひとつの推測が立てられる。それは、感想戦を行ったら、名人経験者がC級へ陥落が決定した。その直後の状況を写真に撮られ、報道されるのは、あまりにも忍びないと考えたのかもしれない。
コメント (2)
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