英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

第72期名人戦 第4局 その7「目から鱗」【終】

2014-05-31 14:40:59 | 将棋

 △6四玉(変化図4)と拠点の歩を払いつつ上部脱出を図れば、後手有望だったように思うが、実戦は△7八飛(第10図)。
 ▲9七玉に△5八飛成(目から鱗直前図)と金を取った手が、△9六歩▲同金△8七金▲同玉△6九角▲8六玉△8八竜▲同銀△7六銀引成▲9七玉△9六角成▲9八玉△8七金▲同銀△同成銀までの華麗な詰めろになっている。

 「華麗な詰み」ということは、「薄い詰めろ」なので受けが利きそうだが、後手の飛車、銀2枚、桂、香の包囲網は厚く、持ち駒も角金歩と事欠かないので、普通に受けるのは却って一手一手の受けなしになってしまう。
 先手としては、理想が「詰めろ逃れの詰めろ」、最低でも攻めながら後手の7三の桂馬を外すなど攻防手が必要だ。
 目につくのは、▲3一角△6二玉に▲8二飛。これは詰めろ逃れで、しかも王手の攻防手だ。何か合駒をしてくれれば自玉への攻めの緩和にもなる。
 しかし、▲8二飛に△7一玉と強く飛車取りに引かれると、処置に困る。▲5二飛成と金を取れれば話がうまいが、飛車が8筋からそれると先手玉が詰んでしまう。
 △7一玉には▲8六香(変化図6)が飛車に紐を付けつつ詰めろを防ぐ手だが

 詰めろになっていないので、△7八銀不成や△7八龍で負けそうだ。

 羽生三冠の手が止まる。私の読みも上記の▲8二飛△7一玉で止まる………。
 5分…10分……。いや待て、▲8二飛ではなく▲8一飛は駄目だろうか。

 18分、中継サイトの局面が動いた。▲4二角!

 3一から打てるのに、わざわざ取られるところに角を打つ?
 ん?△4二同金と角を取ると▲6三飛△5二玉に▲5三香△同金▲同飛成△同玉▲6三金で詰む!
 そうか!△4二同金と取られても大丈夫なら、角は3一よりも4二の方が利いている!

 ▲4二角△6二玉に▲8二飛△7一玉▲8六香と変化図6と同様に進むが、角が4二にいて5一に利いているので、詰めろになっているのである。

 詰将棋として出されたら、▲3一角よりは▲4二角の方が目に映るが、実戦だと見えない。
 あれだけ変化図6を考えていたのに、≪変化図6で角が4二なら詰むのに≫とは、まったく考えなかった。

 それにしても、先の▲4一金と言い、▲4二角と言い、手の性質は違うが、“目から鱗”のような柔軟な発想である。
 さて、羽生三冠はこの▲4二角に18分考えている。羽生三冠は▲4二角を発見して勝ちを意識したそうだが、この1手に掛けた18分の間に発見したわけではないだろう。この18分で絞り出した手なら、その前の数手でもっと時間をかけるはずだが、△8七飛の飛車切りに対して5分考えただけである。
 なので、飛車を切られたときには▲4二角が見えており、"目から鱗直前図”のように進むのなら大丈夫と呼んでいたと思われる。また、飛車切りによって第11図への進む流れが固まったことからも、具体的に読んだのは飛車を切られたときと考える。
 また、▲4一金と打った時には、具体的ではないが▲4二角と近づけて打つ筋を視野に入れていたのではないだろうか。
 残り時間が1時間20分あったにもかかわらず、抵抗感のある一段目の金打ちの▲4一金に9分しか考えていない。“常識外れの金打ち”のように感じるが、羽生三冠の感覚では、▲4二角の角打ちの手段も視野にあり、“常識内の一段目への金打ち”なのかもしれない。“普通の手”なのかもしれない。


 第12図(▲8六香)以下、△4二金と角を取り▲8一飛成に森内名人の投了となった。
 蛇足だが、△7一玉のところで△7二金と打った方が粘れるが、意味がないと考えたのだろう。


 この将棋は、苦しい形勢が続き、最後に逆転した。駒損ながら飛車が成り込め、その龍を△3二銀~△3三角と追い返されずに済んだ辺りから、希望が見えてきた。さらに、王手龍取りの筋など攻防が複雑な局面になり羽生三冠得意の展開かと期待が大きくなったものの、▲4二角が見えなかったので、やはり足りなかったのかなあと、思っていた。
 ▲4二角が放たれてからは、森内名人の時間切迫もあり、終局までは短かったので、投了されても、一瞬、何が起こったのか理解できず、名人復位の実感がわかなかった。

 もちろん、その後の2、3日はにやにやしていたのは、言うまでもない。


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第72期名人戦 第4局 その4「“盲点の金打ち”と“必殺手”」
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第72期名人戦 第4局 その6「もしかしたら、穴があった」
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第72期名人戦 第4局 その6「もしかしたら、穴があった」

2014-05-30 21:45:32 | 将棋
もしかしたら、穴があった

 変化図4は、△7八飛(第10図)の代わりに△6四玉(木村八段が指摘)とした局面。
 “玉の早逃げ、八手の得”という諺があるが、この△6四玉は少し前に先手が垂らした歩を取っての上部脱出である。居飛車対振り飛車線の場合は玉の囲いが対峙しているので、垂らした歩を玉で取る手は、相手の勢力に近づくことになり危険なことが多いが、相居飛車戦の場合は攻撃陣の出動によりけっこう手薄になっていることが多い。本局の場合は、先手陣の玉に近いが、後手の6筋の厚みが非常に厚く、逃走路となる2~4筋の先手の勢力も薄い。
 先手玉は脇は空いているが、金銀が2枚玉の上部を守っており、玉の上部も一見開けており後手玉よりも安全度が高いように見える。
 しかし、9一の香、7三の桂も健在で、先手玉の行く手を阻んでいる。また、△7九角や△7八飛と先手玉に肉薄する手段には事欠かない。
 たとえば、△7九角には▲9八玉の一手で、△9五香や△9七歩が相当嫌味(△8五桂もありそう)。また、△7八飛▲9七玉の変化も、△9六歩に▲同玉とは取りづらい。▲同玉には8五に金気を打つ手がある。また、△9六歩に▲8六玉も△8五歩がぴったりとなる。さらに、▲8七に玉が来た時、△7六銀と殺到する手もある。
 それに、先手の指し手によっては△5八銀不成も有効だ。

 先手の優位点は、桂香得と手番を握っていること。
 しかし、駒得と言っても、4一の金は後手玉が6四にいる状況では完全に置いてきぼり。5八の金も“取り”が掛かっている。▲6七金と銀を取れば駒損は避けられるが、と金ができてしまう。
 得している桂香は、入玉将棋においては香車はともかく、桂はあまり有用ではない。一番必要な金も持っていない。(“お金”じゃないですよ)

 そもそも、上述したが、歩を垂らした手が無駄になっているのが痛い。極端に考えれば、△5四歩、▲6四歩、▲4一金、△5三玉、△6四玉の4手を時系列をいじると、「△5四歩▲4一金△5三玉▲6四歩△6四同玉……玉の逃げ道を開け、金を1段目に打って玉を上部に逃がし、歩を垂らしたのに、構わず△同玉と取られてしまった」ことになる。

 さて、変化図4で▲3一角、▲6一飛、▲8六飛、▲5六香、▲4七金など考えたが、私の棋力では後手玉を寄せられないか、先手玉が寄せられてしまう。
 羽生三冠ならうまく寄せられるかもしれないが、感想戦では「最終的には(3)▲3一角△5五玉▲5六歩△同銀上▲6六銀△同玉▲7七金△5五玉▲6七金上が示された。これも難しい」(名人戦棋譜速報)と結論が出なかったようだ。

 しかし、この手順は最善とは思えない。無理やり勝負将棋(難解な局面)に持ち込むために作った手順のように思える。
 羽生三冠は「難しい。追い方がひどいので入られている」
 森内名人は「上部にこれだけの駒がいるんだから出ていかなければならなかった」と述べている。
 △6四玉を逃したのは、時間切迫という自信の因かもしれないが、△7八飛や△7九角などの有力な手があり、その比較に気を取られてしまったのは不運だった。


 もしかしたら、絶賛された「▲6四歩~▲4一金~▲4二角の寄せ」には穴があったのかもしれない。続く





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第72期名人戦 第4局 その5「必殺には至っていなかったが」

2014-05-29 23:09:23 | 将棋
必殺には至っていなかった

 “必殺の飛車切り”かと思われたが,
 ▲8七同金△1二角に、さっと体をかわす▲8八玉。

 △4五角▲同歩と取れる筈の角と角交換に持ち込まれ、飛車を食い逃げされたことになった

 しかし、その直前に1筋の香、角を召し上げ、必殺手で後手の飛車もいただいているので、その時からの駒の損得は、先手の方が得をしている。
 さらに、先手玉が後手の6筋の拠点の圧力から若干逃れる形になった。
 “必殺手”には至っていなかったようだ。


 戻って、△8七飛成では△1二角成▲同角成△5八銀不成とする手もありそうだが、▲8六香が後手の歩切れを突く好手となり、△6七歩成に▲8四香(変化図2)と飛車を取る手が、▲6三飛以下の詰めろとなる。(週刊将棋・参考)

 先手の4一の金と6四の歩が非常に働いている。
 しかし、感想戦では「△1二角▲同角成△5八銀不成▲8六香に対し、△8五桂▲同香△同飛▲7三角△6二金▲6三歩成△同玉▲9一角成△7三香▲8六香(変化図3)は難解」とある(棋譜速報)。



△6四玉があった
(再掲載第9図)

 実戦は9図より△4五角▲同歩に△7八飛(第10図)と迫る。


 この△7八飛では△7九角と打つ手も有力で、≪どちらもきわどい…≫と私も盤駒を使って、(先手が勝つように)いろいろ並べるが、簡単には勝てない。
 後手の9一の香や7三の桂が先手玉の行く手を阻み、6五と6七の2枚の銀も7六から切り込む筋も狙っている。また、8七の金を取られ、あるいは金が移動した時に△8七金と捨てられて、▲同玉に△6九角(△7八角)の詰み筋もある。

 このように、この△7八飛と△7九角の2手段とも有力で、後手もどちらを選択するかが悩ましい。
 森内名人は、直前の△4五角に6分を使い(残り2分、△7八飛は1分未満の考慮)、△7八飛をを選択。
 しかし、この手では△6四玉と先手の拠点の6四の歩を取りつつ上部に逃れる手があった。

続く



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「今クールドラマ、感想」のその後

2014-05-28 22:45:23 | ドラマ・映画
 ひと月前に「今クールドラマ、感想」(4月25日)を書きましたが、その後の感想です。

『BORDER』
 ~死者と対話する能力を身につけた主人公の刑事が正義と法など様々な境界で命と向き合うヒューマンサスペンス~


 「霊と対話できる」というのは刑事としては最強の反則技であるが、その制約の中で、種々のシチュエーションを駆使して、謳い文句の「正義と法など様々な境界で命と向き合うヒューマンサスペンス」を見せてくれている。
 主人公・石川刑事(小栗旬)、同僚・立花刑事(青木崇高)、検視官・比嘉ミカ(波瑠)たちも魅力的だ。
 ただ、前記事でも述べたが、事件解決のため、情報屋などのお助けキャラへの依存度が高いのがマイナス。

 特に第5話 「追憶」(身元不明の死者役…宮藤官九郎)は面白かった。
 第7話で、ひき逃げ犯が、現職外務大臣のドラ息子で、権力による圧力や裏工作で証拠を消されていき、ついには国外逃亡をされてしまうという敗北を喫する。
 いやぁ、むかつくドラ息子だった。人の命を奪っておきながら、罪の意識は全くなく、追及する石川をハエ扱い。(記事の文末に続く)
 

『MOZU』
 ~妻を失った公安のエース。記憶を失った殺し屋。激しくぶつかりあう魂は、一体どこへ向かうのだろうか?~


 TBSとWOWOWの共同制作のハードボイルドドラマ。(ハードボイルド風にするため、画面の色の彩度を落としているような気がする)
 前記事で「謎が多く、登場人物、それぞれの視点で描くので、マルチサイトのアドベンチャーゲームを観ているようだ(私は好き)。」と書いたが、映像やストーリー展開が凝っていて、面白い。

『ホワイト・ラボ~警視庁特別科学捜査班~』
 ~かっこいい科学オタクたちが日本の犯罪捜査を大きく変える~


 『科捜研の女』より、それぞれの刑事がキャラが立っていて、展開がスピーディーだ。
 ただ、人情話を絡め、その部分が長くしつこい。
 また、ストーリーや犯罪過程や推理(捜査)に納得のいかないことも多い。

 息抜きの刑事ドラマとして観るのには適している。(殺人が絡むのに、「息抜き」という表現は不適切かもしれません)
 第7話は、ハッカーやサイバーテロに絡むストーリーだが、『BORDER』の7話に関連して、叫びたくなったことがあった。(文末に続く)


『ビター・ブラッド』
 ~最悪で最強な親子バディ刑事が誕生!!!本格的な刑事ドラマをコメディータッチで描く!~


 前記事で「気になるのは『大事のために小事(被害者)を切り捨てる』など警察の正義を振りかざされるのは嫌だなあ。」と書いたが、杞憂であった。
 謳い文句に「本格的な刑事ドラマをコメディータッチで描く」とあるが、正確には「刑事ドラマを本格的なコメディーで描く」と言う方が正確である。
 コメディドラマとして楽しんでいる。

 第6話で、鍵山課長(高橋克実)が刺され、一係のメンバーに嫌疑がかけられる。そして、島尾刑事(渡部篤郎)が逮捕(逮捕寸前?)されてしまう。
 最後に、真犯人を捕まえ潔白が証明されるが、一係を取り調べた小暮捜査官(西村雅彦)は、一言も詫びなかった。このドラマに限らず、「主人公たちが疑われ→潔白証明」というパターンは多いが、ほとんどの場合、謝らなず、もやもやが残ることが多い。

 『トクボウ 警察庁特殊防犯課』、『TEAM ~警視庁特別犯罪捜査本部~』は視聴中止。


 さて、今回の記事の最大の動機は、『BORDER』でひき逃げ犯のドラ息子。国外に逃亡されてしまい、石川刑事(小栗旬)だけでなく、視聴者も悔しい思いをしたのが5月22日(放送)。
 そして、4日後の5月26日、『ホワイト・ラボ』を観ていたら……いたっ!
 警視庁サイバーテロ対策課捜査官・椎名として登場!
 国外に逃げたのではなく、不敵にも刑事として潜んでいたのだ。刑事になっても、嫌な奴だったが。

 と、とにかく、小栗くん(石川刑事)に、奴がここにいることを知らせなければ!

 ドラ息子を演じていたのは矢野聖人さん。
 刑事ドラマでこういうパターン、多いよね。被害者が他のドラマでは刑事をしていたり、犯人だったかと思うと被害者になっていたり。
 たとえば、この『ホワイト・ラボ』の7話の犯人の祖母で認知症のおばあちゃん役の草村礼子さんは、『ビター・ブラッド』では近所の食堂の女主人役をしている。
 で、この7話の真犯人は、途中まで口元しか見えない。矢野聖人さん、男前だが、少しえらが張っている。真犯人役の郭智博さんも、同じようにえらが張り気味、顎の線や口元も似ている。絶対、狙っての人選だろう。
 サイバーテロ対策課捜査官の椎名(矢野聖人)も相当嫌な奴だったので、こいつが犯人で、逮捕されればよかったのに!と思ってしまった。
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第72期名人戦 第4局 その4「“盲点の金打ち”と“必殺手”」

2014-05-27 21:29:31 | 将棋

 森内名人が△5四歩と玉の退路を広げ、羽生三冠がそうはいきませんよと▲6四歩と垂らす。

 玉の安全度で言えば、5三に逃げる余地ができた分だけ後手の得。
 しかし、攻めの足掛かりができ、しかも挟撃体制を作れたのは先手の得。
 微妙な損得計算で、「この後の指し手次第」と言うしかないのかもしれない。
     (……と、前記事で述べた)

盲点の金打ち
 森内名人は△1二角。龍取りだが遠く6七を睨んでいる。
 しかし、▲2二龍と王手でかわされ△3二歩と後手を引く。ここも損得は微妙。
 ここで▲2五桂が遊び駒の活用で味がいいと思ったが、次に▲3三桂成と迫っても△5三玉とかわされると、却って玉との距離が遠くなってしまうのか。
 そこで、香を補充しつつ角取りの▲1一龍。
 が、後手玉から龍筋を外すうえ、次に角を取った位置がまずく、王手龍取りの筋がある。
 案の定、△6七銀と打ち込まれてしまった。
 1二の角を取ると△7八銀成から△3四角の王手飛車がある。▲4五角と合わせる手はあるが、そこでさらに△6七金と打ち込む手もある。
 また、▲1二龍と角を取った時、後手玉への響きが薄いので、△5八銀不成~△6七歩成という手段も有力だ。

 やはり、負けか………と思ったところに▲4一金!


 一段目に金を打って、玉を三段目に逃がす………
 ………「王手は追う手」の典型的な例で、敵陣一段目の金は、本来六か所の利き筋のうち三か所にしか利いていない。
 三段目に逃走路のない玉を追いかける「尻金」は有効だが、通常は読みから除外してしまう「筋悪の手」だ。
 しかも、先手にとってなけなしの金だ。
 「有り得ない手」(▲4一金)を見て、思考が停止した。

 ところが、しばらく見ていると、この金打ちは「常識を超えた巧手」であるように思えてきた。
 上述したが、▲1二龍と角を取ると、王手龍取りで取られなくても、龍の後手玉への響きが薄い。そこで、龍の利きがあるうちに▲4一金と寄せの足掛かりを築いておこうというのだ。4一の金は三か所にしか利いていないが、4二と5一への利きが非常に大きいのだ。
 金を消費しても、龍が取られても、1二の角を取れば補える。
 何と柔軟な発想………盲点の金打ち死角から飛んできた金打ちだった。



必殺の△8七飛成
 ▲4一金(第7図)以下、△5三玉▲1二龍△3四角▲4五角。
 複雑で、もう訳が分からない。
 でも、この難解な終盤は、形勢はともかく“羽生ペース”である。難解な終盤戦をきっちり読み切って、久保八段に競り勝った2007年度の王座戦、王将戦を思い出す(2年後の王将戦では久保棋王に雪辱されている)。
 それはともかく、棋譜速報で局面を追いながら、分からないながらも羽生三冠の勝ち筋を探していた。……と、嫌な手が見えた。△8七飛成だ。


 ええと、▲8七同金に△1二角と龍を取られて、▲同角とすると……△7八飛で詰んでしまう。
 ≪あれ?まずいんじゃない…≫
と思っていると、モニターの後手の飛車が動いて△8七飛成!

 いや、きっと大丈夫なはず。
 ▲8七同金△1二角に▲8八玉で堪えているか。
 もともと、△8七飛成で飛車をもらっているうえ、その前にも1二の角も取っている。飛車を取られても採算は取れるはず……。(続く

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第72期名人戦 第4局 その3「森内の計算、そして誤算」

2014-05-26 23:27:21 | 将棋
森内名人の思惑通りに進んだ第5図


森内名人の計算
①角桂交換の駒得
 先手が切った角は、羽生三冠が命運を託した角で、5六→3四→2五→4七→3六→4七→5六→4五→2三(角切り)と何手も費やしている。その角を切るのは先手の損失が大きい。さらに、桂角交換の駒損で手に残った桂を3六に打ったが、“空振り”の感が強い
②十分な攻撃体勢
 これまでに手のやり取りで後手は効率よく指し手を進めた。
 その結果、9筋の突き捨ても入り、6六の歩の拠点も大きく、さらに6五の銀を初め、飛、桂の後押しもある。
③龍は追い返せる
 というはずだったが、おそらく、これが森内名人の誤算であろう。(次項へ)

森内名人の誤算
 時と場合に依るが、飛車を成り込むことは大きな得点である。さらに玉の近くに龍ができれば、玉にとっては相当な脅威となる。本局の第5図がそうで、近いうえ玉がむき出しである。
 しかし、玉の周囲に龍取りと駒を打ち、先手で駒を埋めて、龍と玉の接近を逆用出来る場合がある。

 本局がそれであるはずだった。
 第5図以下、△3二銀▲2二龍△3三角(森内思惑図)と。


 しかし、△3二銀には▲3三金という強烈な勝負手があった。以下△3三同銀▲2五桂(森内誤算図)。

 金の犠牲は大きいはずだが、それを桂の活用で補い、玉飛の接近状態を維持する。これがほどけず、相当厄介だ。

 厳密に言えば、第5図は後手が良いはずだ。しかし、その差が相当小さくなった。
 やはり、先手の飛車を抑え込むか、捌かせない指し方のほうが良かったのではないだろうか。堂々と指し過ぎたのだ。


 森内名人は3筋で受けても食いつかれると見て、△5四歩と玉の中央への脱出を図って、先手の攻めをいなそうとした。
 しかし、それを阻止したのが▲6四歩(第6図)。

 この2手の交換はどちらが得をしたのだろうか。
 玉の安全度で言えば、5三に逃げる余地ができた分だけ後手の得。
 しかし、攻めの足掛かりができ、しかも挟撃体制を作れたのは先手の得。
 微妙な損得計算で、「この後の指し手次第」と言うしかないのかもしれない。

 観戦中は、第5図より△3二銀以下思惑図で、先手が厳しいとみていたが、△3二銀と指さず(指せず)に△5四歩▲6四歩と進み、俄然、観戦に力が入ってきた。(続く

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『軍師官兵衛』 第21話「松寿丸の命」

2014-05-25 19:48:56 | ドラマ・映画
黒田家の悲しみ、怒り
 織田軍大敗の因を、信長は官兵衛の裏切りにあると決めつけ、人質・松寿丸成敗を命じる。
 官兵衛が有岡城に幽閉され、あらぬ疑いから松寿丸の命を奪われ、黒田家は悲しみと怒りに満ちる。


信長の愚行
 官兵衛の裏切りは推測にすぎず、推測によって人質の命を奪うなど、人質の意味を理解していない愚行でしかない。
 不確定な推測により、黒田家の離反を決定的なものにしてしまったマイナス面しかない。

秀吉の意味不明な説得
 信長の裁定は過ちだと述べたうえで、「織田につくのが、黒田の生き延びる術」だと力強く断言しても、説得力は皆無。

半兵衛、おねの秘め事
 信長の命を実行せず、密かに松寿丸をかくまう。
 松寿丸存命を、謎かけのような文で職隆に示唆する。
 これにより、職隆は引き続き信長につくことを決意。

土牢での官兵衛とだし
 松寿丸の死の報で悲嘆する官兵衛だが、妻や母の幻の励ましに生きる意志を持つ。
 官兵衛の幽閉や松寿丸の死を、自分のせいだと責め、官兵衛に詫び、尽くす。
 今度の牢番はやさしいなあ。

気を揉む三人組
 官兵衛を救い出そうと画策する官兵衛家臣団だが、手を拱いているだけの感が強い。
 しびれを切らした九郎右衛門は独自で動き出す。
 私の好きな福島リラさん(お道)が、ちょっぴり活躍(官兵衛が土牢にいるという情報を得る)

万見仙千代の最期
 仙千代が有岡城攻めの総大将になったが攻めあぐみ、敵の罠にはまり討ち死に。
 憎々しかった仙千代だが、口ほどにない指揮官振り。
 信長は本気で村重を成敗するつもりなのだろうか?

久々に登場した人たち
・いわ(戸田菜穂)……官兵衛がみた幻だったけれど
・土田御前(大谷直子)……久々の嫌味を。「つちだ」ではなく「どた」と読むらしい。
・ぬい(藤吉久美子)……ときどき画面に映っていたのかもしれないが、侍女かと思ったが、「おまえさん」と職隆を呼んだので、後妻だったと気づいた


有岡城攻めが始まり、松寿丸成敗の命が出て、それにまつわる物語だったが、戦局的にはほとんど進展せず、いつものように淡々として進行した感が強い。
 唯一のインパクトは、秀吉に悲しみや怒りをぶつける光と職隆。中谷さん柴田さんのさすがの演技だ



【ストーリー】番組サイトより
 官兵衛は村重の怒りを買い、劣悪な環境の土牢に閉じ込められてしまう。一方、有岡城下に潜伏していた善助ら家臣団は、救出の機をうかがっていた。
 そんななか、有岡城に総攻撃を仕掛けた織田軍が大敗を喫する。官兵衛が村重に策を授けたと思い込んだ信長は、人質の松寿丸を殺すよう秀吉に代わって、半兵衛が命令を実行することになるが…。
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第72期名人戦 第4局 その2「勝利の端歩突き」

2014-05-24 20:01:17 | 将棋
勝利の端歩突き
 右辺での戦いの最中の△9五歩だった。


 美濃囲いに対する端歩突きならともかく、玉が7九に居る局面では、次に△9六歩と取り込まなければ脅威とならない。もっと言うならば、玉が8八に追われない限り、もう1手△9七歩成として、さらにもう1手指さないと直接先手玉に手が掛からない。
 戦局は右辺での戦いをしっかり受け止めてはいるが、先手陣は手つかずである。緩手になりかねない端歩突きである。

 しかし、森内名人は「端歩の取り込みより厳しい攻めが先手にはない」と見切っていた。こういう見切っての端歩突きは、森内名人、渡辺二冠によく見られる。………『勝利の端歩突き』である。
 まあ、本局の場合、余裕で端歩突きが入りそうだ。1歩得が先手の拠り所の主因だったはずだが、桂銀交換の駒損(後手は歩損と歩切れではある)になってしまっている。その分、攻め込んでいれば帳尻は合うが、端歩を突く前の局面で言うと、手番が相手のうえ、2六に垂れ歩まである。第1図から第2図、先手の攻めが後退している印象だ。


堂々と先を走る森内
 端歩突きを入れた後の△6五歩も堂々としている。2六歩の拠点を利して、△2七銀や△3五銀、あるいは△3五銀打などに食指が動くところだ。
 △6五歩と後手の攻撃陣に活が入ったので、羽生三冠もピッチを上げる。▲2三歩△同金を入れたのは、▲5六角と出た時に金当たりになるのと、▲2六飛に対する△2三歩も消している。
 しかし、△6五銀(第3図)に一旦▲4五角と途中下車しなければならない先手は辛い。


 ▲4五角に△3五銀も“本筋の手”と評された。

 ▲3六桂による銀取りをかわしつつ(先手が投じた3六の桂を無用にさせるのも大きい)、飛車取りの逆先。
 先手の飛角が2三に直通状態になり、▲2三角成△同歩▲2三飛成と強引に成り込む手を誘発するが、第3図の△6五銀を入れずに単に△3五銀と指した時より、▲4五角と途中下車させた(△6五銀の1手得)ことになり、気分の良い手順だ。


 森内名人の思惑通りに進んだが第5図………(続く


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第72期名人戦 第4局 その1「羽生の後悔、急かされた攻め」

2014-05-23 22:42:52 | 将棋
「1歩得、盤上の角」対「持角」の図式の指し掛け図、


 封じ手の候補手は、、△5二金、△6二金、△5四歩、△6五歩など多数考えられたが、△5二金であった。


羽生三冠の後悔
 私は封じ手を5六の角の動きを制限する△6五歩ではないかと見ていた。羽生三冠の思考がどうなのかは分からないが、すかさず▲6六歩と角に余裕を持たせた。しかし、局後、羽生三冠はこの手を後悔していた。
 この▲6六歩では▲7九玉と指すべきだったと羽生三冠。以下△5四歩▲6六歩△5五歩▲6七角△6五歩▲同歩△同桂▲6六銀△6四歩▲2五歩△同歩▲2四歩△同銀▲3四角(変化図1)が想定される。

 ……と書いているが、よく分からない。
 ▲7九玉の直後に▲6六歩を指しているが、この順の違いは??……
 ▲7九玉に対し、本譜と同じように△8四飛~△5四銀と指してはいけないのだろうか?△8四飛に▲6六歩と突いていないことを利用して、▲9五歩~▲7五歩~▲6六銀という攻め筋があるのだろうか?(専門誌の解説を待ちたい)

 本譜は▲6六歩△8四飛▲7九玉△5四銀▲2五歩△同歩▲2四歩△同銀▲3四角(第1図)と進む。

 比較のため変化図1を並べてみたが、一見、変化図は先手陣が乱されて嫌味に映るが、後手陣も5筋の隙間や中段飛車の不安定さ、銀が参加しないので攻めが軽いなどの不備が感じられる。

急かされた攻め
 さて、第1図では▲1四歩△同歩▲1二歩の狙いがあるが、森内名人に△2二金と備えられると思わしい攻めがない。やはり、角は遠くから敵陣を睨み、3筋の歩を伸びてこないと腰の入った攻めにはならない。後手の5四の銀の圧力で腰の入らない攻めを強要された感が強い。手をこまねいていては△6五歩が来るので、△2二金以下、▲1七桂△3五歩▲2五銀△同桂に▲同角と工夫の手順を駆使する。
 △2五同銀なら▲3四桂があるが、冷静に△3三金と手厚くされると、パンチが浅くしか入らない。
 結局、▲4七銀と撤退し、△3六歩▲同角△2六歩と巧みな歩使いで先手の攻めを封じ込まれてしまった。しぶしぶ▲4七角と引いて立て直すが………

 そこで森内名人、△9五歩!

この手は……(続く

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第72期名人戦 第4局 4期ぶりに名人復位  ~長い3年だった~

2014-05-22 23:44:04 | 将棋
 第4局を逆転で制し、4期ぶりに名人復位を果たした(通算8期)。
 3年前、3連敗後に3連勝を返したものの、最終局に敗れ失冠した後、順位戦を圧倒的な勝率で挑戦権を得たが2-4、1-4と、森内名人の厚い壁に跳ね返されていた。
 「森内名人には相性が悪いなあ」「(森内名人は)名人戦は強いなあ」という思いが、昨期は完膚なきまで叩き伏せられ「勝てる気がしない」とまで至ってしまった。
 羽生三冠が不調なのかというと、そうではなく、その後の棋聖、王位、王座では強さを発揮している。なので、「羽生三冠が力を出し切っていない」あるいは「力を出させてもらえない」という感触はあるものの、「名人戦での森内、竜王戦での渡辺に、真剣勝負では勝たせてもらえない」と言われると反論はできない。
 そして今期の名人戦で四度敗れるとなると、もはや「森内>羽生」という歴史的認識の烙印を押されてしまう。もちろん、勝負の世界、勝ち負けの結果に目を背けずに認めなければならないが、あまりにも辛い。まさに「負けられない戦い」であった。

 これは全くの憶測だが、当の羽生三冠も今期の名人戦には強い決意を持って臨んでいるように感じられた。順位戦が独走状態になりつつあった昨年末辺りから、名人戦を意識した戦型を選択しているような気がする。名人戦で使える戦型や局面を模索しつつ、森内名人に戦型を絞られない(手の内を悟られない)指し回しをしているような気がしてならなかった。(もちろん、「羽生三冠は目前の将棋をおろそかにする筈がない」ことは、言い切っておかねばならない)
 11月21日の王将リーグ5回戦から年度末までの22戦16勝6敗、.727。
 6敗の内訳は、棋王戦敗者復活戦決勝の永瀬戦は矢倉の定跡の確認(棋王戦本戦でも同戦型で永瀬に敗れており、さらに王将戦でも同戦型を試し、分かれは良かったが寄せで判断を誤り敗退している)。また順位戦の深浦戦は、あっけなく土俵を割っている。
 そして、4敗は王将戦での渡辺戦(●●○○●○●)。
 この7番勝負、対戦相手の渡辺二冠の印象は「第3局からペースが上がってきた」というもの。残念ながら王将戦敗れたものの、この王将戦や他の棋戦の指しっぷりから、「羽生三冠が好調」という感触があり、今期の名人戦は互角以上の戦いはできるはずという自信?はあった。

 そして第1局。序盤からのっぴきならない局面になり、手をこまねいていては抑え込まれてしまう羽生三冠が、森内陣をこじ開けに掛る。対する森内名人も鉄板の受けで羽生の攻撃を跳ね返す構え。押し合いへし合いの長期戦の果て、ついに森内名人の網を突き破った羽生名人が勝利を挙げた。
 森内名人の守備網のほころびを修復する力は恐るべきものを感じたが、後手番での大熱戦での勝利が大きく、森内名人のダメージも大きかった。
 第2局(その1その2)は、先手の羽生三冠が奇襲ともいえる「鎖鎌銀」を採用。激しい将棋となったが、森内名人が二枚角の利き筋の先の羽生陣に銀を打ち込む強打を放つ。羽生三冠の「鎖鎌銀」に対抗するかのような「ハンマー投げ」のような銀打ちである。
 しかし、これは名人らしくないやや短気な指し手。さらに、その後の「筋」で突き捨てた△4五歩を羽生三冠に堂々と取られ、逆用された形となり、形勢を損じてしまった。この後、羽生三冠が最短の寄せを見せ快勝。
 第3局(その1その2)は、後手の羽生三冠が5三銀右急戦矢倉を選択し、昨年の竜王戦で渡辺竜王の新手「香損定跡」を採用した。
 長考の末、攻撃陣の連携を強め力を貯めた角を打つが、羽生三冠曰く「つまらない展開」にしてしまったそうだが、森内名人がやや不用意についた4筋の歩突きを利用し、敵陣を乱しつつ仕掛けに成功、あとは穴熊の固さ(遠さ)を活かして勝ち切った。
 望外の3連勝だったが、初戦の後手番の大熱戦を制した時点で、上述した羽生三冠の決意や好調さを考えると、4連勝もあり得ると思っていた。
 とはいえ、森内名人の強さは、ここまで嫌というほど味わっていたので、4勝目を挙げるまで安心できない、喜べない。1敗でもしたら、一気に逆転されてしまうのではないだろうかと危惧もしていた。なので、出来れば……出来るならば、一気の4連勝、出来るだけ早く、4勝目を挙げてほしかった。
 で、昨日の第4局。森内名人に圧力を掛けられて、細くて遅そうな攻めを強いられててしまう。「対森内戦の負けパターン」に陥ってしまったか……
 そして、必死に先行する森内名人を追いかけるという展開。しかし、今回はいつもより差が少なく、森内名人の足取りも確かでなかった。夕食休憩時での残り時間も少なかった。
 終盤は、飛車捨ての「詰めろ飛車取り」「詰めろ逃れの詰めろ」が飛び交う難解な局面が続いた。こうなると「羽生ペース」。時間を考慮するのは正道ではないが、残り40分(羽生三冠は1時間40分)で、羽生三冠相手に勝ち切るのは容易ではない(勝ち切れるのは竜王戦での渡辺竜王ぐらいか)。

 20時18分、森内名人、投了。
 3年間、心に掛っていたもやもやした霧が、晴れた。
(第4局の詳細は、後日書きます)
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