英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

~羽生将棋と横歩取り戦法の現況~(2018竜王戦第6局・その1)

2018-12-13 21:42:01 | 将棋
いいところがなかったなあ……それにしても、午後0時7分の投了とは!

 後手の羽生竜王が横歩取りに誘導したのを見て、嫌な予感がした。
 かつて、横歩取り戦法は羽生竜王の得意戦法だったが、最近では佐藤天名人に敗れ去ってからは、いいイメージが浮かばない。
 それは佐藤天名人以外の相手にもかなり敗れている印象がある。

 2016年4月以降(佐藤天八段に名人位を奪取されたのが2016年)以降、横歩取り戦は17勝15敗。まあ、今年度の羽生竜王の成績は19勝19敗なので、戦型別の得意不得意を論じられる状況ではないが…(2016年4月以降の横歩取り戦での対佐藤天名人戦は2勝5敗、他の棋士に対しては15勝10敗)
 私が思うには、横歩取り戦は飛角桂が主で、駒交換も頻繁に行われ、一気に終盤に突入する激しい戦法だが、これはソフトを使っての検討・検証しやすい戦型と言える。
 その恩恵で、今までは見通しが悪くて薄暗い密林の中を進んでいた感覚だったものが、LEDの照明に照らされ、GPSによる地図を駆使してドライブするような感がある。
 羽生竜王の手を疑心暗鬼で考え、いろいろ迷いながら思慮することは少なく、≪その手に対しては、こう指せばこちらが良くなるはず≫と手順を手繰り寄せ、読みを入れる……そんな感じが多いのではないだろうか?
 とにかく、今までの人力の研究では、今での経験や大局観と自力の読みで、≪この手順で行けそうだ≫とか≪たぶん互角にはなるだろう≫というような結論と言うより目算を立てて対局に臨んでいたのだが、ソフトを使えば、この手に対してはこの手が有効(評価値が高い)と短時間で割り出すことができる。それに、人間の思い込みによる研究手順の“抜け”が生じていたが、PCソフトを使えばそういう研究の抜け穴も格段と減らすことができる。それどころか、ソフトは先入観を持たないので、人が思いつかないような手を提示してくれることも多い。
 
 PCソフトを駆使した研究は恐るべきほど効率がよく、ある程度詳細なマッピング(定跡構築)が可能である。これが長い目で見ると棋力を高めることができるか疑問だが、目前の対局に勝つことに対しては非常に有効である。

 そんな状況下で、激しくてすぐ終盤になってしまう横歩取り戦法を指すのは、羽生竜王にとっては得策ではない。
 羽生竜王の優れた大局観と柔らかい思考や精密な地力の読みが必要な将棋に持ち込んだ方が勝ちやすいはずである。第5局のように、銀を中心に押し上げていく中盤の長い将棋、遠見の角を放ちそれを軸とするような構想力がモノを言う将棋……今期、羽生名人が勝った将棋は≪やはり羽生竜王は強いなあ≫と思わせる内容が多かった。



 将棋を振り返るのは気が進まないが、備忘録として残しておきたい。
 先手の広瀬八段が青野流を目指したのに対し、羽生竜王は△7六飛と横歩を取り、互いに飛車で横歩を取る相横歩取りとなった(以前からある相横歩取りとは違う)。実戦で指されたことは少ないらしいが……


 △7四飛の飛車のぶつけに対し▲同飛と応じ△同歩と進んだ第1図は、ある意味、注目の局面。

 【棋譜中継の解説から引用】
つい先日、Google傘下のDeepMind社が開発したプログラム「AlphaZero」の論文が発表された。第27回世界コンピュータ将棋選手権で優勝したコンピュータ将棋「elmo」に大きく勝ち越す強さだ。
AlphaZeroとelmoの棋譜がDeepMind社のサイトで100局公開され、その中から10局を羽生が注目局としてセレクトしている。100局の中には△7四同歩まで進んだ棋譜もあり、▲2四歩と垂らしていた。【引用・終】

 実戦の広瀬八段は▲2四歩ではなく▲3七桂。
 羽生竜王はこの手に対し、△7七角成▲同桂に△8六歩と垂らす。
 実は、この局面までは、今期B級2組順位戦の▲澤田六段-△永瀬七段戦と同一(永瀬七段が勝利)。
 ここで、澤田六段は▲2二歩△同銀を利かせてから▲6五桂と跳ねたが、本局の広瀬八段は単に▲6五桂と跳ねる(第2図)。


 羽生竜王は△8七歩成▲同金に△8九飛と金銀両取りに打ち込み、広瀬八段は▲8八角と両取りを防ぎ(すぐには動けないが、香取りになっている)、羽生竜王は△8六歩と叩いて対応を問う。


 ▲8六同金には△4四角と打って▲同角△同歩とし、再度の▲8八角に△6四角と打てば▲4五桂と跳ねる手がないので後手が良いらしい。
 そこで▲7七金と辛抱するが、これにより先手の8八の角の働きが低くなってしまい先手が面白くなさそうだが、後手の8九の飛も威張れる駒ではない(いつでも角と交換できるが、先手に飛車を渡すマイナスも考慮しなければならない。(先の▲澤田-△永瀬戦も▲2二歩△同銀の手の交換はあるものの、同様に進行)
 角の働きはともかく、先手は6五に桂を跳ねられたことが大きい。次に3七の桂も4五に跳ねることができ、後手玉の頭の5三の地点を強襲できる。後手が△6二銀(△4二銀)と足しても、いつでも▲5三桂成△同銀▲同桂成△同玉と攻めて、桂2枚と銀1枚の交換の駒損になるが、後手の玉が露出させることができる。
 ほぼ同様に進んだ▲澤田-△永瀬戦の永瀬七段は△6四歩と桂を攻め先手の玉頭殺到の順を避けたが、これも勇気のいる手で▲5三桂成△同玉▲8三飛を覚悟しなければならない(実戦は▲8二歩)。


 ▲7七金に羽生竜王は△5四角。
 この手も6五の桂を攻めた手で、▲5三桂成△同玉▲8三飛と強襲される心配もない。さらに▲4五桂も防いでいるうえ、将来の△8七歩成も見据えている。羽生竜王の研究手かもしれない。
 しかし、先手陣への直接の響きが弱く、さらに5二の玉と5四の角と先手の6五桂との位置関係が悪かった。△5四角では△4四角と玉当をカバーしつつ、△7七角を見せて先手の攻めを牽制した方が良かったかもしれない。
 たとえば、いきなり▲5三桂成△同玉▲5六飛と強襲されても後手は神経を使う将棋になってしまう。
 実戦は、少し含みを持たせて▲5五飛だが、これも相当威力を発揮しそうだ。
 羽生竜王は△6二銀と補強したが、▲4五桂と加勢されて危険度は変わらない。

 何だか縁台将棋で出てきそうな単刀直入の素人攻めのようだが、これをきっちり受けきるのは難しそうだ。
 実戦は、羽生竜王は△4二銀と更なる補強をしたが、構わず▲5三桂右成△同銀右▲同桂成△同銀に▲7八銀と飛車を捕獲する手があった。


 “捕獲された”と言っても、△8八飛成▲同銀で飛角交換にはなり、駒割は▲飛銀歩歩歩対△角桂桂でほぼ互角(やや後手の得かも)。
 しかし、後手陣は飛車の打ち込む地点があり、先手の持ち歩が5枚もある事が大きい。
 そこで、羽生竜王は△3七角と飛車香両取り(間接的に8二にも利かす)と角を打ち込む。

 ここで一日目終了となったが、読めば読むほど先手が良さそう。良さそうな手の中で、▲8五飛が一番よく、しかも自然な手で、2日目は苦しい将棋になりそうだなあと、『シン・ゴジラ』観賞(現実逃避)に走った。

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2018竜王戦第5局記事「め、眩暈が…」の補足 ~▲7一金打の周辺~

2018-12-06 23:17:24 | 将棋
(局面図の手数表示が間違っています。ご容赦ください)
前記事の補足です。

 驚愕の▲7一金打だった。

 極めて筋悪の一段目の金打ち。
 “一段目の金打ち”と言えば、第72期名人戦(2014年) 第4局(対森内名人)が思い出されるが、それよりも異筋感が強い。(そう言えば、今期竜王戦第3局も2段目ではあるが、玉の尻から金を打つという筋悪の寄せをしていた)

 前記事では、
『飛車取りの先手で後手の飛車の利きを遮り、▲3一角(王手角取り)や▲5一角を見た手だ。
 しかし、▲7一金打に△8七飛成と飛車を切り、▲同金に△2八飛と王手され、▲7八歩に△2一飛成とされると、

 手順に先手の狙いの▲3一角を防がれ、先手は飛車が手に入ったとはいえ、銀桂との2枚換えで先手玉の守備も弱体化。7一の金の空振り感が強い。
 変化図はまだ先手に分のある局面かもしれないが、時間と思考の消費が空振りしたマイナスが大きく、第3局、第4局の逆転負けの再現の悪い予感しかしなかった。』
と記した。

 ところが
私がよく勉強や検証させていただいている『元奨励会員アユムの将棋実況』(YouTube)さんの解説動画で、この▲7一金打の周辺変化が掘り下げられていた。
 アユム氏の検証によると、
▲7一金打に△8七飛成と飛車を切って▲同金に△2八飛と打ち込む手には、▲3八飛と合駒をする返し技があるとのこと。


△2一飛成と桂を取る手に▲3三角と打ち込み、△同銀▲同飛成△4一玉と進む。

 次に△8六歩や△9五桂という手があるので、先手は▲5二金と切り込むことになる。
△5二同玉は平凡に▲5三銀△同角▲同桂成△同玉▲5四銀で寄るので、▲5二金には△5二同銀の一手となり、ここで▲4四龍が王手角取りになる。

 後手も△4二角と受ける手があるが、更に▲3三桂と打つ手が王手龍取り!
 仕方ない△5一玉に▲2一桂成と龍を取って簡単に先手の勝ちかというと、△8六歩と打たれるとけっこう難しい。

 私が当事者ならパニックに陥りそうだが、強く▲8六同金が好手。△同角に▲6二銀の捨て駒が巧手!

 △4一玉は▲3一飛の一手詰みなので、△6二同玉と取るが、▲8二飛の王手が好便。
 △7一玉と金を取りつつ逃げると、▲7四龍以下の詰み。

 そこで△5一玉と逃げることになるが、一旦▲6二銀△4一玉と追いやって▲8六飛成と角を取る手が決め手となる。

 間接的に龍が玉を睨んでいるので、▲8六飛成に△同角とできず、先手勝勢。



 とすると、前記事で私が嘆いた筋悪の▲7一金打は、深い読みに裏付けられた巧手ということになるが……
 変化図2に戻って

 ▲3八飛に平凡に△同飛成と取るのはどうなのか?

 以下、▲3八同金△5八飛が悩ましい。

 ▲7八歩は△5五角▲7七桂に△4五銀と上部を厚くすると、後手玉の耐久力は上昇する。

 また、△5八飛に▲7八飛と強く応じても、△同飛成▲同玉△5八飛▲6八飛に3八の金や2一の成桂を取ることに固執せず△5五飛成と成り返られると、やはり先の長い戦いになりそうだ。



 まとめると、▲7一金打に△8七飛成▲同金△2八飛に▲7八歩△2一飛成の変化図も

 △2八飛に▲3八飛に△2一飛成と成桂を取らずに△3八同飛成として、▲同金に△5八飛と打てば、▲7八歩や▲7八飛に対して進んだ変化図11、変化図12の局面は、厳密には先手が若干良いかもしれないが、実戦的には逆転ムードなのではないだろうか?


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め、眩暈が……(2018竜王戦第5局)

2018-12-05 20:53:27 | 将棋
(局面図の手数表示が間違っています。ご容赦ください)

 第1図は、先手の羽生竜王が▲4五桂と後手玉の逃げ道を塞ぎつつ3三の打ち込みを見た手に対し、一旦、△8七歩成▲同銀を決めてから△4四銀と受けた局面。
 控室では▲3四歩、▲5二金(多分最善手)、▲7二角、▲3一角などが検討されていたが、羽生竜王の次の一手に、目を疑った!


 棋譜中継で、手が進んだときの駒音がしたので、モニターに視線を移したが、暫く何が指されたのか、理解できなかった。
 ▲7一金打!……眩暈がした

 通常、1段目に金を打つのは効率が悪くて(金は斜め後ろに利きがない)、悪手になることが多い。
 しかも、6二の金がいる状況で更に7一に金を打つのは、“効率の悪さの2乗”でおぞましささえ感じてしまう。さらに、後手玉が8一や9一に居るのならまだしも(それでも、抵抗を感じる)、現状は4二でいかにも“そっぽ”。


 もちろん、羽生竜王が終盤の貴重な24分を投入して指した手(残り時間は31分となった)、深い思惑があるのに違いない。
 飛車取りの先手で後手の飛車の利きを遮り、▲3一角(王手角取り)や▲5一角を見た手だ。
 しかし、▲7一金打に△8七飛成と飛車を切り、▲同金に△2八飛と王手され、▲7八歩に△2一飛成とされると、

 手順に先手の狙いの▲3一角を防がれ、先手は飛車が手に入ったとはいえ、銀桂との2枚換えで先手玉の守備も弱体化。7一の金の空振り感が強い。
 変化図はまだ先手に分のある局面かもしれないが、時間と思考の消費が空振りしたマイナスが大きく、第3局、第4局の逆転負けの再現の悪い予感しかしなかった。

 実戦では、広瀬八段は△5五角と王手で角を避難させ、▲7七歩に△7一飛と飛車を切り▲同金と6二の金をそっぽに行かせ、△4五銀と後手玉の可動をを制していた4五の桂を外した。

 このやり取りも後手が随分得したように思えるが、その直後、▲3一角△3二玉に▲2二飛が幸便の手となり、先手の優勢が持続した(第4図の▲2二飛は“この一手”に思えたが8分も考慮していて、非常にヤキモキした)。
 この▲2二飛も△3三玉とかわされると重複感が大きいが、▲5二飛成△同銀▲2二角成△4三玉▲5五馬(第5図)と銀一枚得しながら要所に馬を配置する事が出来た。
 ▲2二飛には△3三玉ではなく、△2二同角▲同角成△4二玉としたほうが良かったかもしれないが、やはり先手が優勢だろう(勝ち切るのはまだまだ大変)


 戻って、

 第2図から△5五角▲7七歩の時、△7一飛ではなく△8七飛成▲同金に△2八飛とする手もありそうだが、これには▲7八歩ではなく▲5八飛があるようだ。以下、△2一飛成には▲5五飛がある。




 この第5図は先手がかなり優勢で勝勢に近いように思える。
 しかし、具体的に後手玉の寄せが見えず、勝ち方が分からない。
 しかも、羽生竜王の残り時間はこの時点で13分とわずか(広瀬八段は1時間2分)。第3局、第4局の逆転負けが脳裏をよぎった。

 実際、広瀬八段も、先手玉にちょっかいを出したり自玉に手を戻したり、手順を尽くして“嫌がらせ”(笑)を実行。本局の勝利への道は細くて先が見えにくいので、並の棋士なら崖から落ちたり、密林に迷い込んでしまうだろう。
 最近の羽生竜王も終盤の足取りが腿路持たなくなることが多いので、非常に心配だったが、本局は確実に対応し、急所を突く歩使いが冴え、三勝目をものにした。
 以下は、ポイントとなった図を挙げるに留めます。


 △9五桂の馬取りに、▲9六馬と桂取りの逆先で後手の攻めを急かす(少し前の▲4六歩の突き出しも効いている)


 ▲3五歩は後手玉の上部脱出を阻止しつつ、3四への打ち込みも見ている。


 放置できない銀取りだが、△5三同玉は8六の馬の射程に入り、△5三同玉には▲6一角が厳しい。




 難解な序中盤を乗り越え優勢に。しかし…
 あの▲7一金打……羽生竜王しか打てないだろうなあ
 最後は圧勝の形になったが、心臓に悪い将棋だった。
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2018叡王戦 菅井七段ー羽生竜王 戦

2018-12-01 23:34:43 | 将棋
 夕方から観戦。
 解説者の山崎八段、藤井聡太七段によると、やや菅井七段が良いらしい。
 羽生竜王の9筋の端攻めを逆用して羽生の堅陣の裏を突く攻めが急所を突き、優勢を拡大したかに見えたが、羽生竜王の頑強な抵抗に菅井七段が誤り、優劣不明に。
 そんな流れの中の第1図。2一の金、2二の桂が苦闘の跡。

 ▲5五角の3三への打ち込む寄せを防いだ△4四香に対し、▲4五歩とその香を攻めた局面。

 ここで羽生竜王は、4筋の攻めを放置して△1八歩と寄せに出たが、

 ▲4四歩△同歩(手を戻さなければならないのが痛い)▲4三歩△2六銀▲4二歩成△同金▲3九玉と進んだ第3図は、後手は香と金をぽろぽろ取られる間に先手玉に迫ったはずだが、▲3九玉とかわされてみると、1八の歩が置き去りにされた感が強い。


 おそらく、△1八歩が敗着。
 表現が適切か分からないが、△1八歩は“薄い寄せ”。対して先手の歩で攻める“効率がよく厳しい寄せ”。

 △1八歩では△1六香のほうが良かったのかもしれない。あるいは△8五飛も有力(一見、△5二香の方が効率が良さそうだが、5五の角を取った時5五の飛車が5段目に利くのが大きそう)

 羽生竜王は時間が切迫していたのが痛かったが、感想戦でも△1八歩に拘っていた。やはり、寄せの感覚が……
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なんで負けた?(2018竜王戦第4局)【追記あり】

2018-11-25 22:09:30 | 将棋
難解な中盤を精密な指し手で必勝近くになったはず……


 将棋は今期竜王戦で4度目(全局とも)の角換わり将棋。
 複雑で微妙な玉や金の動きで互いに間合いを計っていたが、羽生竜王が△4四歩と突くのを待っていたのか、8分の考慮で▲4五歩と開戦。
 これに対し羽生竜王は、先手の攻めを斜にかわす応手で、2筋を屈服する代わりに3筋に成銀を作り対抗。ならばと、広瀬八段が7筋の桂頭を攻め桂得を確保した(第1図……封じ手局面)。


 後手は桂損だが、先手は歩切れと玉が成銀に近いという玉の不安さがあり、バランスが取れているらしい。


 その後も4五の地点を中心とする25升のスクエアで複雑な応酬(角打ちや銀の動き)があり、△4六角と角を打ったのが第2図。

 打ち込まれた6二の銀が後手陣の脅威となっており、5三への飛車の成り込みと、7三の金取りにもなっている。その両狙いを防ぐ△6三金は▲7二角の追撃がある。
 後手ピンチかと思われたが、△4六角(王手)が巧妙だった。
 5七に合駒をすると飛車利きが消え、▲6八玉とかわすのは、飛車利きを遮って打つ△5五桂がピッタリ。なので▲5七角と打ち、4六の角を消そうとしたが、△同角成▲同飛に再度△4六角が飛車の活躍を許してくれない。


 ならばと広瀬八段は▲5三銀不成として△3三玉に▲6二角と絡みつくが、

△5五銀が中央を押さえる好手で後手の優位がはっきりしたように思う。


 第5図以下、▲7八玉△5七角成▲同金寄△6三金▲5一角打△3四玉▲5六歩と進む(第5図)


 後手陣にある先手の角2枚と銀に重複感があるうえ、歩切れも辛そう。事実、図から△2八飛と打たれると対処に悩みそうだ。

 ただし、後手玉も危うさがあり、例えば△2八飛に▲5八金寄に喜んで△5六銀と踏み込むと▲4四銀成の1手詰み!
 △2八飛には他に▲3八桂(ここに桂を打つのは辛そうだが、後に▲4六桂と跳ねる含みもある)や▲58金寄もあり、優勢なのは間違いないが、それほど簡単ではない。(でも、△2八飛が最善で間違いのない指し手だったと思う)

 実戦は△6二金と角を取る。取られそうな金が角と交換になったのも魅力。さらに、▲6二角成とさせることによって2四への角の利きを失くして自玉の安全度が増した。
 そうしておいて△8六桂!

 ▲8六同歩に△同歩と桂を犠牲に先手玉に一気に迫った。
 確かに、一理も二理(2利?)もある指し方だが、私は何となく嫌な予感がしていた。

 広瀬八段は△8六同歩に▲8四桂と飛車利きを遮って頑張る。
 これに対し△7六歩!………なな ろく 歩??

 意図は分かる…▲7六同歩に△7七歩▲同桂△7五歩▲同銀△7六歩が狙いで“羽生竜王の大好きな歩の連続叩きの手筋”だ。
 しかし、“藪をつついて蛇を出す”という感が強く、やり過ぎで危険としか思えない(狙い通りに進んでも寄っているかは怪しい)


 実戦は広瀬八段が歩の叩きを取らず▲6八銀と辛抱した。これは大きな利かしのはずだが、銀を引かせたため△8七角▲6七玉に△7九飛と打てなくなってしまった。
 △7六歩では普通に△8七角と打ち▲6七玉に△7九飛で良かったはずだ。もちろん、これで簡単な勝ちではないが、優勢は維持できていたはずだ。

 しかし、しかし……△7六歩▲6八銀に△8七歩成▲同玉△6九角!

 確かに、▲8七玉と呼び込んで△6九角と打つのは寄せのひとつの形ではある。しかしそれは、上部に抑えがある場合である。
 本局の場合、8一に飛車はいるものの、先手の6二の馬が強力、苦し紛れに打った桂も働いてきそうで、先手の支配エリアといって良い。しかも、後手の持ち駒に入玉戦で必須の金がない。


 この瞬間、羽生竜王の勝利の目は限りなく小さくなった。
 以下は詳しく語る気力もない。

 羽生竜王も何とか寄せようと頑張るが敗色が強くなっていった。
 飛車を8筋に打って勢力を強め、その飛車で桂を取り(桂得)、強力な先手の馬と刺し違えたが、代わりに強力な龍が誕生。しかも、7三は絶好の位置。3段目に利いて後手玉の脅威となり、7筋の防御も果たし、6四へ出て後手玉を寄せる含みもある。
 さらに…

 当たりになっていた5三の銀が4四へ成り返る手が絶好となった。(△4四同玉は詰む)

 ………………………………………………以下省略
 明日、辛い月曜日だなあ。


 痛い敗局だが、まだ2勝2敗の五分。
 それでも、第3局の重すぎる▲5二金の寄せ。さらに、△7五歩(第9図)に対する▲同歩(却って後手玉を寄せにくくしてしまった)……寄せの感覚に狂いが生じている。

 まず、終盤の感覚を取り戻すのが先決であるように思う。


【追記1】
※局後の感想※
羽生は総括として「82手目の△2五銀では△4五角と打ったほうがよかったですかね」と話し、感想戦が終了した。

とあり、棋譜のコメント欄では
問題となった局面。羽生はこの局面を迎えると、開口一番「もう1回打つんでしたかね」とつぶやいた。しかし、(1)△4五角に▲5六金と出られるのを気にして打てなかったと話している。
「かなり迷いました。しかし、打つなら(▲5六金と)出ますよね」(羽生)
「その読みでした」(広瀬)
ほかに(2)△6二銀も検討されたが、羽生は自信を持てなかったようだ。
「△6二銀も考えましたが、清算が持てませんでした」(羽生)



 しかし、ある将棋ソフトの解析によると(私は持っていません)
最善手は△3六角と解析している。それに本譜の△2五銀も△4五角よりも高評価らしい。

【追記2】
 △6二金~△8六桂は攻め急ぎで、コメント欄には
代えて△2八飛がまさったか。以下、▲3八桂△5三金▲5五歩△4二銀と進んだ。角を手にすれば△4五角が厳しい。
とある。


【追記3】

 △8七歩成~△6九角は玉を上部に逃がした変調手順だったが、厳密にはまだ羽生竜王が残していたようで、

 図より△5二歩▲5五歩△8五歩▲7六玉に△8六歩と桂を取ったが、△8六歩では△6三桂と打つ手があったようだ。

 以下▲7四金△7五歩▲同金△同桂▲同飛成△9三角が想定さ、本譜の進行よりかなり有望のような気がする。

【追記4】
 以降は後手が勝てない将棋となってしまったが、▲3四銀と縛られた手に対しては、ニコニコ生放送の解説でも推奨していた△3三桂と踏ん張る手があったようだ。

 とにかく、▲2五歩と打たれて玉を1三に押し込まれては勝ち目はない。

 “決め損なった感”“疲労”“時間切迫”など悪条件の中で踏みとどまるのは困難であっただろうが……
コメント (2)

2018竜王戦 第3局

2018-11-02 22:50:12 | 将棋
 桂損を代償に攻勢を取り、広瀬八段の疑問手に乗じ、激しく攻め、2筋を突破、その後も過激に攻め続ける。しかし、徐々に羽生竜王の攻めが心細くなっていく。
 それでも、なおも攻め続け、≪何とか勝てそうだなぁ≫と思った局面で、味良く攻めを溜めた▲7五同歩が緩手(悪手に近い)で、立て直すこともできずに、急転直下の敗局となった。


 連休前の金曜日で忙しく、しかも、生産性の低い労働ばかりで、ストレスが満杯で、羽生竜王の勝利が疲労回復剤となるはずだったのに…………



 後手広瀬八段の△6五歩と動いた手に対し、▲2五桂と撥ね、△2二銀に▲6五歩と手を戻す。△2二銀は△2四歩から桂を取る含みの手だが、大丈夫なのだろうか?


 実戦も広瀬八段が桂を取りに行ったが、羽生竜王は悠々▲6四歩。
 さらに△2五歩にじっと▲同歩。桂は取られたが、歩を伸ばしていけば、歩切れの後手は2筋と6筋が負担となると見ている。


 そのプレッシャーに広瀬八段は△7二桂。手に入れた桂を投入し、6四歩の排除を図る。しかし、おそらく疑問手で、羽生竜王に▲3七角(▲4六角の方が普通)と6四の歩を維持されると、投入の効果は薄かった(形勢は互角らしい)。

 この後、広瀬八段の△3三桂~△4五桂に対し、

 羽生竜王は▲4五同銀と切って落とす(これで桂損から銀損に昇格?)。
 以下△4五同銀▲6三歩成△同金▲5五桂△6二金。
 歩を成捨てることで0手で5五に桂を設置。更に、▲4三桂成とその桂を4三に成り捨て、△4三同金と金を上ずらせ、▲2三歩成と2筋を突破!


 さらに、△2三同銀▲同飛成と飛車を成り込み、△3二銀の受けに▲4四歩を際どく利かす。
 この時の棋譜中継の解説欄の実況が面白かった。
「後手は駒得を頼みにして受けに回る(△3二銀)。先手は竜を逃げて悪くないだろう。「しかし、羽生さんは踏み込むのが好きだからなあ」と中村修九段。そう話している最中に羽生は駒台の歩を持った。「うわああ、踏み込む、踏み込む!」と中村修九段が声を上げる。
 

 ▲4四歩に△2三銀と龍を取るのは、▲4三歩成で持ちこたえられないので、△4二金と我慢。
 先手は成果に満足し▲2五龍と一旦引き上げる。
 気分が良い先手だが、後手は桂得を維持しており、形勢は微差。

 長引くと駒得している方に利があるので、一旦、龍を引き上げたものの、先手は攻め立て続ける………

 ………▲4四歩△4二金▲2五龍以下、△5四銀▲2三歩△2一歩▲7三角成(桂角交換の駒損)△同金▲4六桂△3三桂(龍取りを掛ける)▲2二銀(歩頭に銀打ち。後手は取れないが)△4一玉▲3三銀成(桂銀交換の駒損、龍当たりを解消)△同銀▲2二歩成△同歩▲5四桂(これは銀桂交換の駒得)△同歩▲4五桂△4四銀(拠点の歩を払われる)▲4三歩△同金▲2二龍△3二銀▲2一銀△同銀▲同龍△3一桂▲3二銀△5二玉▲4三銀成△同玉▲2二龍△4五銀(第8図)………

 手順が長くなってしまったので、下記に概略です。
 厳しく攻め立てているが、クリーンヒットせず、寄せをぐずっている感が強い。玉を上部(3段目)に逃がし、駒損が大きくなり、先手の攻めが心細くなってきている。第8図の△4五銀も桂を取り、先手の拠点を解消した手である。


 流れは後手だが、まだ先手が残しているようで、第8図で▲4四歩と打てば△5三玉に▲3三龍から自然な攻めが続いていたように思う。
 本譜は▲4二金!
 以下△5三玉▲5二金と超筋悪の寄せ。以下6四玉に▲4二龍で、一応、上下挟み撃ちの形を作りつつ4五の銀取りになっている。
 しかし、ここで△2六角と打てば若干後手が良しのようだが、広瀬八段は△7五歩。


 玉の8筋への脱出を図った手だが、▲4五龍が銀の補充と7五まで利きを伸ばしていて、玉の逃走スピードを上回っている。おまけに、▲4五龍は詰めろにもなっている。
 もちろん▲4五龍で先手が勝勢ではなく、「先手有利~先手優勢」ぐらいで、まだ先が長そうだが、大きなチャンスだったのは間違いない。

 しかし、実戦は▲7五同歩。7四からの逃走を阻み、さらに後手玉の包囲網を確固たるものにした攻めを溜めた落ち着いたに見えたが、そうではなかった。
 △5八角に継続手とばかり▲4五龍と銀を取りつつ五段目を勢力下にしたが、構わず△6九銀と先手玉に詰めろを掛けられて見ると……

 ………後手玉に詰みはない。▲6五銀と打つと玉の逃走を阻んだはずの7五の歩を取られて逃げられてしまう。

 先手は▲7五同歩、▲4五龍と2手かけたが詰めろにならず(▲7五同歩とせず単に▲4五龍と銀を取れば詰めろだったのに)、後手は△5八角、△6九銀の2手で詰めろになった(しかも、詰めろを外しにくい。詰めろを外しても、二の矢が来て、振り解きにくい)。▲7五同歩△5八角の後の▲4五龍では▲6六銀の方が勝負のアヤがあったかもしれない。
 後手はずっと受け続け、攻めの手はこの2手のみといって良い。急転直下の先手の敗勢。

 第10図以下、▲5三銀△6三玉▲6五竜と攻めたが△6四金がぴったり。やむなく▲6九龍△同角成▲同玉と詰みを回避したが、△2九飛と打たれて後手の勝勢がはっきりし、いくばくもなく羽生竜王の投了となった。



 ずっと攻め続け、押し切れそうな将棋をものにできなかったのは非常に残念。
 第2局、第3局と、タメがなく攻め急いでいる感が強いのが気がかりだが、第4局まで間があるので、立て直してくると信じたい。
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2018将棋日本シリーズ JTプロ公式戦 準決勝 その2

2018-10-31 16:47:15 | 将棋
(プロ野球の「日本シリーズ」で検索して、このページに辿りついてしまった方、ごめんなさい)
「その1」の続きです。


 図は△4四歩と桂取りに歩を突いた局面。
 しかし、先手の渡辺棋王が黙って桂を取らせてくれるはずがなく、激しく攻めてくることは必至。3三に飛車と桂が利き、持駒も角と歩が6枚も。さらに玉頭歩を突いたことによりに隙が生じている。しかも、△4五歩と桂を取り切ったとしても、4三、4四に空洞ができ、玉頭が涼し過ぎる。
 と言っても、△6五桂や△6五銀と攻め合い出る手は、▲6三歩の利かしが生じる。△4四歩は桂取りを見せることによって、先手を急かし、手一杯に動いてもらおうという意図かもしれない。

 ▲3三歩。……やはり来た!
 △3三同桂に、▲6七歩△7五角と、後手角の利きを3三、4四ラインから外させ、▲3四歩(第5図)。

 単純に▲3三桂成と清算せずに、「“拠点を残す”手筋」プラス「“後手から4五の桂を取ってもらい、▲4五同歩(銀)と手順に攻め駒を進める”手筋」の歩打ち。………≪なんかヤバそうだなぁ≫
 このまま3三の桂を取られては駄目なので、△4五歩か△4五桂とするしかなさそうだ。
 羽生竜王は△4五歩。…しかし、「△4五歩は▲5五角が厳しいように見えますね」と井上九段のコメントが棋譜中継の解説欄に紹介されている……。△4五桂の方が、先手から▲3三歩成と王手で桂を取られない分、得なように見えるが、もしかしたら、空いた3三に角を打たれる手が嫌だったのかもしれない。

 案の定、△4五歩に▲5五角!

 先手の飛、角、歩の集中砲火を浴びせられそう……≪これなら、▲3三歩に△2二金と辛抱した方が良かったかも≫と後悔。(私が後悔しても、意味はないのだが)
 実際、△2二金と辛抱した変化図1は、意外と難しい。

 図以下、▲6三歩△同銀▲6四歩の対処が悩ましく、無条件に4五の桂を取り切ることは難しそうだが、一気につぶされることはなさそうだ。

 本譜は▲5五角(第6図)に△3一飛(第7図)と転回させて迎え撃つ。

 △2一桂や△4一桂の受けも考えられたが、▲3三歩成に△同桂と受けた時に3四の地点が薄いのが気になる。その点、飛車の利きは3四の地点をカバーでき、更に、3五や3六など3筋全体にも利いている。
 反面、3三の地点で総交換されやすくなる。桂で受けた場合、「先手…金桂桂、後手…飛角歩」の交換に対し、飛車で受けるのは、「先手…飛金桂、後手…飛角歩」と大きく違う。
 実際、第7図以下、▲3三歩成△同金▲同角成△同飛▲同飛成△同玉と単純に総交換した後、▲3五桂(変化図2)と絡まれると、先手の攻めを振り払うのは難しいように思われる。



 本譜は、△3一飛(第7図)以下、▲3三歩成△同金に▲3二歩△同飛▲4四桂と手順を尽くして猛攻撃。

 図で△3一飛なら▲3二歩△2一飛▲5二桂成で先手の攻めが決まる(3三の金が浮いている)。
 そこで、仕方なく△4四金と桂を取る。金桂交換の先手の駒得になりそうだが、この瞬間、飛車が向かい合っているので単純に▲4四同角は△3六飛と飛車を取られてしまう。と言って、普通に▲3二飛成△同銀▲4四同角と進めるのは、後手の働きの弱い2三の銀が3二で働いてしまうのでつまらない。なので、▲3三歩と叩く。


 △3三同飛は▲3三同飛成△同玉▲4四角△同玉▲4二飛が厳しそうだ(でも、以下△3三玉▲6二飛成△3九飛で“意外に”難しい。▲4で九金打△1九飛成▲4五銀には△3二歩がしぶとい受けだが、後手苦戦は否めない)。
 それで△5五金と角を取り▲3二歩成による飛角交換を甘受。さらに、と金を取らずに(取れずに?)△5二玉と逃げる。
 △3二同銀とするのは、後々、▲3二飛成と銀を取って飛車を成り込まれる筋が生じるので玉をかわしたと思われるが、△5二玉に▲4二とと押し売りされる手がありそうだ。△4二同玉は▲2二飛が厳しいので△6三玉とかわすことになるが、この2手を決めてから▲5五銀と金を取っておいた方が良かったようだ(渡辺棋王もブログで▲4二とを決めておくべきだったと記している)
 このタイミングで▲4二とを利かす手があるなら、▲3二歩成には△同銀とするほうが良かったかもしれない。ただし、△同銀とした場合、▲5五銀に本譜と同様に△5六桂と攻めると、▲同歩と取られて△4八角成に▲3二飛成で後手玉が詰んでしまう。

 渡辺棋王が▲5五銀と金を取った局面、駒割りは「先手…飛金、後手…角桂歩」と先手に分がありそう。さらに、と金と5五の銀がじんわり後手玉を包囲。飛車も成り込めそうな上、持駒も「飛金歩」と事欠かない。
 後手の持ち駒も「角桂2歩4」と豊富だが、金気がないので何となく頼りない。
 しかし、5六の銀が動いたことにより、△5六桂が生じた。


 先手陣は壁銀で狭く、▲7九玉に△4八桂成で意外に迫れている?しかも、△5七角成の追撃も利く。
 しかし、中継解説では「(▲8七銀が)壁形を解消して大きな手」とあり、△5六桂(第10図)▲7九玉△4八桂成▲8七銀△5七角成▲8八玉(第11図)と進んだ解説では

 「後手が攻め込んでいるが、先手の銀冠が堅い。先手は手番が回れば反撃が楽しみだ」
 「後手は忙しい。どこから手をつけるか」
と、先手が良さそうな表現。
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2018将棋日本シリーズ JTプロ公式戦 準決勝

2018-10-22 20:57:56 | 将棋
(プロ野球の「日本シリーズ」で検索して、このページに辿りついてしまった方、ごめんなさい)

 10月17日(木)A級順位戦(大阪)、21日(日)JT日本シリーズ(名古屋)、23日(火)24日(水)竜王戦第2局(福岡県福津市)……ハードスケジュール過ぎない?
 今日(22日)も前夜祭があるだろうし……

 昨日の日本シリーズの対渡辺戦は攻め倒されそうなところを、切っ先をかわしながら反撃するという将棋。難解で面白い将棋だった。難解な将棋を勝ち切るという将棋が続いており、『羽生衰退説』の声を打ち消すような最近の羽生竜王だ。
 将棋については書きたいことが山積しているにも拘らず、予定外の本記事を書いている。≪私の執筆(←たいそうな言い方だなあ)のエネルギーは、やはり、“○しさ”なんだなあ≫と、改めて実感。(勝敗は既にご存知の方の方が多いと思われますが、敢えて明記しないのは、初見の方や、この先、何かの間違いで、この記事に辿りついた方にとっては、勝敗を知らない方が楽しめると思ったからです。私の記事で楽しめるかどうかは疑問は残りますが)


 第0図の局面は、図に至る手順は違うが竜王戦第1局(10月11日、12日・羽生-広瀬)と同一局面。ただし、竜王戦では羽生竜王が先手で、本局は後手を持っている。また、渡辺棋王も▲渡辺棋王-△豊島八段戦(2017年12月、順位戦A級、肩書は当時)で、この局面を経験していている(渡辺勝ち)。
 
 対豊島戦も本局も渡辺棋王は図から▲3五歩と仕掛ける。「△8一飛とされては仕掛けにくくなります」と対豊島戦での感想がある。
 一方、竜王戦では羽生竜王は▲5六銀と上がり、以下△8一飛に▲6六歩△同歩▲同銀と動いている。(以下△5四銀▲5八玉△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8一飛▲7五歩と進行)

 本局は▲3五歩以下、△同歩▲4五桂△2二銀▲2四歩△同歩▲7五歩(第1図)と大きく動くが、これは対豊島戦と同じ手順。

 第1図で豊島八段(当時)は△8四飛。以下▲7一角△5二金▲7四歩△同銀▲2四飛△4四角▲同飛△同歩▲6四角△4五歩▲7三角成△8一飛▲8二角成△同飛▲同馬と大きく振り替わる展開(渡辺棋王は“互角”の感触)

 本局の羽生竜王は△8一飛。以下▲7四歩△同銀に渡辺棋王は▲2四飛と保留していた2四の歩を取る。この手は後手の7四の銀当たりになっている。
 これに対し、羽生竜王は△4四角と反撃の味を見せながら、飛車の横利きを遮って銀取りを受ける。

 本局の△4四角は銀当たりを受けるのが第一の角打ちだが、羽生竜王は攻めておきながらぼんやりとした(特に厳しい狙いがあるわけではない)角を打って、手を渡すことが多い。
 後に効いてくる味のある角打ちであることが多いが、働かずに負担になることも多いような気がする……。「盤上の角」対「持ち角」は、持ち角に分があると言われている。(手番であれば)“いつでも”“どこでも”打てるという潜在能力が大きい。もちろん、盤上の角の働きが素晴らしく局面をリードできることもあるが、実戦的には、角を持たれている側は、角打ちに対して常に注意を払う必要があり、大変である。

 第2図以下▲2九飛に△7六歩と打って▲8八銀と銀を引かせて壁形を強いる。4四角の効果だが、図に乗って△7五銀と出ると▲7四歩と桂頭に打たれる手が痛い。そうでなくても7四の銀自体、浮き駒であるし、後手の2二の銀が壁銀、さらに、▲3三歩の叩きがいつでもある。
 そこで△2四歩。

 先手飛車の利きを遮断して、過激な攻めを予防した手であるが、只だ。もちろん、うっかりではなく、▲2四飛に△2三銀と先手を取り、▲2九飛に△2四歩と1歩を犠牲に銀冠を構築させようというのだ。本譜もそのように進んだ。
 これに対し、渡辺棋王は▲5六銀。≪後手からは“腰の入った攻め”はない≫と見切って、銀を進出させ、“腰の入った攻め”を目指す。
 後手も▲5六銀には△8六歩▲同歩▲同飛と飛先交換して△8四飛と桂頭をカバーしておくのが味が良いが、現地に帯同していた井上慶太九段が「(8筋の歩交換には)▲3三歩△同桂▲同桂成△同角▲5四桂△同歩▲6四角という王手飛車の筋を気にしたのかもしれません」と指摘している。
 確かに、上記のように進むのは後手が悪そう。かと言って、▲5四桂に△5二玉▲6二桂成△同玉と辛抱するのも嬉しくない。また、最初の▲3三歩に△3一金や△2二金とかわすのも勝てる気がしない。
 そこで、羽生竜王は△3六歩と揺さぶりを掛ける。対して▲3九飛とこの歩を取りに行く渡辺棋王。形勢はほぼ互角だと思われるが、渡辺棋王の指し手は自然さ、悠然さを感じる。

 歩取りを見せられて、羽生竜王は△6六歩▲同歩△同角と動く。渡辺棋王は▲3六歩。歩を取られては、羽生竜王も行かざるを得ない。△8六歩▲同歩と8筋の突き捨てを入れて、△4四歩。歩交換をして角を6六に移動させ、角の居た地点に歩を突いて桂取りを掛ける(第4図)。手順の動きだが、“目一杯”の動きに見える。

 3三に飛車と桂が利き、持駒も角と歩が6枚も。いよいよ、“腰の入った攻め”が開始されそう。嫌な予感しかしなかった。 
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不吉な2018王将戦2次予選

2018-10-17 16:56:03 | 将棋
(“不吉”という穏当ではない表現をしてしまい、申し訳ありません)

 今期は羽生竜王が2次予選で敗退して、興味がやや薄れている。
 王将位挑戦者決定リーグ戦(以下“王将リーグ”と表記)は7名総当たりで行われるが、毎年、実力者が揃い、A級順位戦よりも濃密なリーグ戦となることが多い。
 一昨年は、羽生三冠(2勝4敗・陥落)、久保九段(5勝1敗・挑戦・奪取)、糸谷八段(4勝2敗・残留)、深浦九段(1勝5敗・陥落)、渡辺竜王(3勝3敗・残留)、豊島七段(4勝2敗・残留)、近藤誠也四段(2勝4敗・陥落)。
 昨年は、郷田九段(昨期失冠、3勝3敗・残留)、糸谷八段(3勝3敗・残留)、豊島八段(5勝1敗・挑戦)、渡辺竜王(3勝3敗・残留)、佐藤天名人(1勝5敗・陥落)、深浦九段(3勝3敗・陥落)、斎藤七段(3勝3敗・陥落)
  (タイトル・段位は当時のもの。同成績の場合、昨期リーグ戦成績による順位で決定。上記氏名の後ろ3名は2次予選通過者でランクは同率5位)

 メンバーが濃くなるのは、2次予選でシード棋士が優遇されているうえ、1次予選通過枠が6名(阿部隆八段、飯島七段、千葉七段、西尾六段、村田顕六段、八代六段)と狭き門であることが原因。
 今期の場合、昨期リーグ陥落者の佐藤天名人、深浦九段、斎藤七段が二次予選の二回戦から。他のシードは二回戦からが菅井王位(当時)、中村太王座、羽生竜王の3名。
 残りの2次予選からの棋士(1次予選免除棋士)は稲葉八段、広瀬八段、佐藤康九段、三浦九段、行方八段、屋敷九段の6名。非常に上位が厚いシステムになっている。

 今期の王将リーグ入り決定戦は、広瀬八段-羽生竜王、佐藤天名人-菅井王位、中村太王座-斉藤七段(左者が勝ち)で、王将リーグのメンバーは、豊島二冠、郷田九段、糸谷八段、渡辺棋王、佐藤天名人、中村王座、広瀬八段とそうそうたるメンバーが揃った。リーグ入り決定戦で敗れた羽生竜王、菅井王位、斉藤七段も豪華メンバー。
 ちなみに現リーグ戦の状況は、豊島二冠…1勝1敗、郷田九段…0勝2敗、糸谷八段2勝0敗、渡辺棋王1勝1敗、佐藤天名人1勝1敗、中村王座1勝1敗、広瀬八段1勝1敗と混戦の気配。

 で、何が“不吉”なのかというと
リーグ入り決定戦の組み合わせと結果が……
 広瀬八段-羽生竜王
 佐藤天名人-菅井王位
 中村太王座-斎藤七段(左が勝者)

 つまり、上記6名のうち5名が、タイトル戦展開中か予定者となっていた。しかも、広瀬-羽生は竜王戦、中村-斎藤は王座戦の組み合わせである。
 菅井王位(当時)はこの決定戦後、王位失冠。王座戦は昨日、中村太王座が勝って2勝2敗のタイ。竜王戦は羽生竜王の1勝0敗。
 これで王座戦の最終局を中村太王座が制すると、リーグ入り決定戦の勝敗がタイトル戦の結果を暗示していたことになってしまう。非常に不吉……

 書きたくはないが、仮に、ひょっとして、もしかして、中村王座が防衛、広瀬八段が竜王位奪取すれば、王将リーグに久保王将を加えると、八大タイトルのうち七タイトルが集結することになり、これはこれで壮観である。私としては、リーグの中に羽生竜王が名を連ねていない時点で、壮観でも何でもないのであるが……
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2018棋聖戦第5局 ~豊島八段、初タイトル!~

2018-07-18 00:29:08 | 将棋
【“産経ニュース”より引用】
 羽生善治(はぶ・よしはる)棋聖(47)=竜王=に豊島将之(とよしま・まさゆき)八段(28)が挑戦した産経新聞社主催の将棋のタイトル戦「第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負」の第5局が17日午前9時から、東京都千代田区の都市センターホテルで指され、午後6時25分、108手で後手の豊島八段が勝ち、対戦成績3勝2敗で初タイトルの棋聖位を獲得した。持ち時間各4時間で、残りは羽生棋聖23分、豊島八段15分。

 豊島新棋聖は5度目の挑戦で初めてタイトルを獲得。注目の今シリーズは、豊島新棋聖が第3局を終えて2勝1敗に。第4局は惜しくも敗れたが、最終第5局の熱戦を制し念願の初戴冠を成し遂げた。
 羽生前棋聖の11連覇、前人未到のタイトル獲得通算100期はならなかった。羽生前棋聖が竜王のみに後退したことで、将棋界は八大タイトルを8人が分け合う。1人1タイトルずつは31年ぶり。

豊島新棋聖の話
 「終わったばかりで実感はありませんが、タイトルはずっと目標にしていたので良かったです」



 今回の棋聖戦、羽生竜王は≪積極的に指す≫ことを心がけていたようだ。
 しかし、それは、≪どこか急かされて前のめりになっていた≫ように感じた。

 ここ数年、羽生竜王は苦戦を強いられているが、その要因の一つが対局相手の綿密な研究。この綿密な研究は、将棋ソフトの研究への活用に因るところが大きい。将棋ソフトが100%正しいという訳ではなく、棋士の研究もすべて将棋ソフトに頼っているわけではないが、研究手順の検証や新手の発見、局面の形勢の確認に活用されている。
 これによって、研究が効率的に行われ、より詳細に系統立った研究が可能になってきている。これが棋士個人の棋力・実力と言えるかどうか、疑問の余地があるが、こういった研究に因って、羽生竜王が苦戦に陥ってしまうことが多々あるように思われる。

 もちろん、上記は私の想像の域を超えていないが、羽生竜王が、≪まだ駒組み段階≫と考えている局面で仕掛けられ守勢を強いられ、相手に主導権を握られてしまうことが多い気がする。


 例えば、今期王位戦の挑戦者決定リーグの対木村九段戦

 図は羽生竜王が△2三銀と2二の銀を上がり壁銀を解消し銀冠に陣形を整えたところで、意識としては序盤だったと考えられる。
 しかし、ここで木村九段は▲4五桂と跳ね、△4四角▲2二歩△同角▲6五桂(参考図2)

 “いきなり跳び蹴り”のような仕掛けで、少し前なら“無理攻め”ぽいので深く考えないところだが、ソフトによる可否の確認が容易なので、掘り下げて≪充分成立していそう≫という見込みが立っていたのかもしれない。
 以下△4四歩▲5三桂右成△同銀▲同桂成△同玉▲8四歩(参考図3)まで進むと、充分仕掛けが成立、先手が主導権を握っていると言って良いようだ。

 ▲6五桂(参考図2)と歩頭に跳ねた桂を取れないのは悔しいし、そもそも、△2三銀と上がった手が先手の角の利きを1一まで利かせてしまい逆用された感もある。
 その後、局面を複雑にさせた羽生竜王が、一旦、逆転したが、将棋の方向を誤り、再逆転負け。
 このように、先に仕掛けられ守勢を強いられてしまう将棋がよく見られる。
 そういう経験を踏まえたのかどうかは不明だが、最近の羽生将棋は“積極果敢さ”が感じられる。

 しかし、第1局の前のめり過ぎ名人戦第6局の“7四歩取らせ戦法”、名人戦第6局を改良した棋聖戦第4局の“袖飛車戦法”など、積極果敢さがうまくいっているとは思えない

 棋聖戦最終局の本局は角換わり腰掛け銀から▲4七角(第1図)の新手を放った。

 ▲4七角は次に▲7五歩と突き、△6三銀なら▲7四歩△同銀▲4五銀が狙い。
 ▲4七角に対し、豊島八段は△4一飛と引き、▲7五歩△6三金▲7四歩△同金▲4五桂△4四銀(第2図)と迎え撃つ。


 図より羽生竜王は▲2四歩△同歩▲5五銀と過激な順を選ぶ。しかし、本来の羽生将棋は第2図では善悪はともかく、▲4六歩と一旦、溜めを作るのではないだろうか?最近の羽生竜王は余裕がなく、泰然としたところが感じられない。
 実戦の順は▲5五銀に△6五歩▲4四銀△同飛▲4六歩(第3図)と進む。(▲4四銀では▲5四銀の方が良かったらしい)


 期待した4七の角の利きによる桂頭攻めも△6五歩と遮られると効果は薄く、結局▲4六歩と手を戻すこととなってしまった。
 局後の感想戦で羽生棋聖も「(第2図での▲2四歩に)代えて▲4六歩とゆっくりする順もあったか」と述べている。


 手は進み形勢はよく分からないが、後手から有効な手が多そう。先手は▲3五歩~▲3四歩と手掛かりを作ったが、▲6五歩と6筋から動いた方が▲4七角の意図を継承できたように思う。

 ▲3三銀で後手玉に迫っているように見えるが、実はそれほど脅威となっておらず、2一の桂を持駒の銀に昇格させた罪の方が大きい。


 △8八銀(第5図)以降は、難しいところはあったようだが、後手の持ち駒は豊富なので、後手の攻めを振りほどくのは至難の業で、寄せられるまでの手数を稼いで、後手玉に迫るのも難しかったようだ。

 第6図では▲7八金や▲8七金の方が難しかったかもしれないが、やはり、先手を持って勝つ気はしない。
 投了図の3三のと金が悲しい…


 読みの精度や研究云々より、将棋そのものを立て直した方がいいような気がする。将棋の泰然さを取り戻してほしい。
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