奇跡の大逆転、しかし、すっきりしない勝利でもあった……
(本来なら、もう一度試合を見直し検証して、きちんと書くべきですが、仕事や雑用、さらにNBAプレーオフなどが重なって余裕がありません。
記憶があやふやで、ドミニカ共和国戦と混同してしまう可能性も高いのですが、ご容赦ください。
もちろん、ご指摘があれば、再視聴し確認して訂正します)
1.『チャレンジシステム』はない方が良いのでは?
ジャッジの正確さや公平さを考えると、導入する意義はある。しかし、いくつかの問題点が浮上している。
・審判や運営サイドが不慣れなこともあり、大きくゲームが中断されてしまう
・プレー中でもアピール可能だが、テニスと違いプレイヤーではなくベンチがブザーを鳴らすので、どのプレーの何について、どちらがアピールしたのか分かりにくい
・5秒経過後の“アピール”は受け付けない(今回の日本×タイ戦で、トラブルの素となった
・テニスと違い、イン・アウトの他、タッチネット、ワンタッチなど観点が多く煩雑である。(おそらく、ダブルコンタクトなどは程度の判断が必要なプレーは対象外)
・イン・アウトの判定は、わずかでもボールがラインに掛かっていれば「イン」になる。しかし、わずかでもかかっている状態は、肉眼で見た場合、ほとんどアウトに見える。
ということは、「際どい」と感じた場合、アピールすれば「アピール成功」となる可能性が高く、その考えでアピールを実践すれば、ゲーム中何度も「チャレンジ」のシーンが増え、ゲーム中断が非常に増える。
コンピュータ判定をするのなら「ボールの○%以上がラインに掛かっていないと、“イン”と判定しない」としたほうが良いように思う。
さらに、チャレンジ回数の上限を決めた方が良いかもしれない。例えば「成否に関わらず、チャレンジは1セット2回」など。
2.『チャレンジシステム』に関する眞鍋監督の失策
第2セット、日本が2点リードの20-19。島村のサーブに乱されたタイが、オープントスを苦しい体勢でのレフトのスパイク。これに山口と迫田がブロック、ワンタッチしたボールを楽にレシーブ、レフトの迫田のスパイクを打つ。ここで、ブザーが。
システムはタイのチャレンジ。
プレーを凝視していたタイの監督も何が起こったか分からない様子(チャレンジの意思は全くなかったと思われる)。
主審は、この行為をタイベンチの誤操作と判断し、警告(イエローカード)を提示しようとした(この判定が、単なる誤操作に対するものなのか、故意、あるいは、偶発的な“遅延行為”と判断したものかは不明)。【ブザーが鳴ってからイエローカードを出そうとしたところまでで約40秒】
しかし、この判定に対し、眞鍋監督が「“チャレンジは有効で、そのチャレンジを完遂させろ」と主張。一応、筋は通っているが、真意は「タイのチャレンジ失敗は明らかで、これにより、労せず日本に1点が入る」というモノだと推測できる。
眞鍋監督の主張がよく理解できなかったのと、どう対処して良いのかを協議し、チャレンジを続行し、機械判定を開始した。【眞鍋監督アピールからここまでは2分20秒】
機械判定が始まり、スクリーンにその結果が公開……“山口にタッチネットがあった”と判断され、タイのチャレンジが成功。タイに得点が入り、20-19となってしまった。【機械判定開始から、タイに1点が入り、ゲーム再開まで約1分】
本来なら、ノーカウントで20-18でプレー再開(タイにイエローカード)するところだったが、眞鍋監督の“せこい”とも言えるアピールが裏目に出て、タイに1点入り20-19となってしまった。
誤操作による中断が40秒、眞鍋監督のアピールによる中断が3分20秒もあり、合わせて約4分の中断が為されてしまった。1点失い、ムードは悪くなり、中断で集中力もそがれてしまうかもしれないという大きなマイナスだった。
その影響かは不明だが、この直後のプレーは、コートの後ろ中央部ががら空きとなり、そのスペースをタイにスパイクを打ちこまれてしまった。
タイベンチのブザーについては私はこう推測している。
『このプレーが開始される前にタイの監督はタイムアウトを取ろうとした(タイムアウトのジェスチャーをしていた)。しかし、認められず、≪残念、仕方ないか≫という表情。
実際、タイベンチはタイムアウトを取ろうとして、タッチパネルを操作したが、何らかの不具合ですぐ反映されず、その数秒後のプレー中に作動してしまった』
3.不手際が多い審判団
それはともかく、タッチパネルの誤操作などについて、しっかりとルールが確立されているのか、ある程度、審判の裁量に任せられているのか気になるが、この試合、審判団の不手際も多かった。
21-20の場面で、ネット際のボールを山口が相手のブロックに当てて、リバウンドを捕ろうとしたプレーを、山口のドリブルと判定した。しかし、明らかに相手のブロックに当たっていた。当然、日本が“チャレンジ”して、成功。ノーカウントで21-20で再開され、迫田のサーブで開始しようとしたが、なぜか制止され、21-21でタイにサーブをするように指示される。
再び、協議され、結局、ノーカウントで21-20、迫田のサーブで再開された。主審の誤審から迫田サーブまで2分30秒の中断。これに関しては、二重の審判団の不手際。
4.“チャレンジ”を乱発する眞鍋監督
この試合だけでなく、眞鍋監督はチャレンジを多用していた。
例えば、この第2セット、タイのレフトからのストレート打ちのスパイクが決まって、22-22の同点になったが、“このスパイクがアンテナに当たったのではないか”というチャレンジを行使した。
スクリーンには余裕でアンテナ内を通過するボールが映され、チャレンジ失敗。ボールがネットに当たり、その影響でアンテナがやや動いていた。そのアンテナの動きを見て、チャレンジを行使したのだろうが、リアルタイムで映像を見たイメージはクリーンにスパイクが決まったように見えた。
今回、≪えっ、“チャレンジ”するの?≫といった明らかに“チャレンジ失敗”するだろうというものが多かった。ゲーム展開が中断、間延びするだけでなく、選手の集中力の阻害になったように思えたことが多かった。実際、この直後、シュートサーブを山口が受け損ない、相手コートに返ってしまった。それをダイレクトスパイクで決められ、22-23とピンチに陥ってしまった。(この後、逆転し25-23で日本が第2セットを取った)
“チャレンジ”で間を取り、落ち着かせるといった目的で行使することもあるかもしれない。
“チャレンジ”するのはルールで認められているので、非難はできないが、審判のジャッジおかしいとはっきり思える時に、行使するものではないだろうか。
5.問題の第5セット
サーブはタイから。
日本は、前衛・迫田(レフトポジション)、荒木、石井(最初のサーバー) 後衛・宮下、山口、木村の布陣。第4セットと同じスターティングメンバー。
このセット、日本は動きが固く、ミスが多かった。
木村のスパイクミス、石井のサーブレシーブミス、笛が鳴る前に気を緩めてしまったミス、木村のスパイクがブロックにつかまる、ネット上での押し合い負け、宮下が佐藤と交錯しながらのアンダートスを、木村がスパイクをふかしてアウト……
3-8でコートチェンジ。15点制なのでかなりのビハインド。さらに迫田のスパイクがアウトで、
3-9とますます窮地に。
ここで2回目のタイムアウト(1回目は2-5の時)。最後のタイムアウトとになるとは言え、遅すぎるのでは。それに、動きが固く、充分なトスが上げられない状態なので、迫田に代えて長岡を出すべきだろう。しかももっと早い時期に。
木村が相手ブロックをはじき飛ばしすストレートスパイク、
4-9。
タットダオがAクイックを日本のコートに叩き込み、
4-10。
迫田がバックアタックを決め、
5-10。
ピンチサーバー・島村のサーブをAパスで返し、強烈なスパイクが炸裂。これを木村は足で当てるのがやっと。横に跳ねたボールは後衛レフトの迫田に直撃。これを何とか救い上げようとするが、大きくコート外へ。喜ぶタイチーム。しかし、宮下がフライングレシーブ。背面越しに上がったボールは、タイコートに。奇跡的プレーだ。
この後、バタバタしたプレーが続く中、タイに決定的なスパイクチャンスが訪れる。しかし、力んでスパイクがアウト。
6-10。大きなプレーだった。
島村のサーブを、ほぼAパスで返し、スパイク。これを島村が上げられず、
6-11。
迫田のバックライトからのバックアタックをタイがブロック。これを繋いで、アンダートスを今度は石井がスパイク。これがシャットアウトされ、
6-12。タイが3点取るまでに、少なくとも8点取らなければならない。絶体絶命。
タイのサーブがオーバーして、
7-12。
宮下のサーブを、Aパスで受けるタイ。しかし、トスがスパイカーにとって被り気味の位置に上がり、フェイント。日本はこれを何とか繋いだが、苦しいトスになり、石井がフェイント。これがいい位置に落ち、タイが拾えない。
8-12。
間を置いてブザー。日本のパッシング・ザ・センターラインに対する“チャレンジ”を主張。しかし、5秒経過していたので、副審は受け付けなかった。
これに対し、執拗な抗議を続けるタイ監督に、主審はレッドカードを出し掛けたところで、タイがタイムアウトを要請し、レッドカードは出されず。
このパッシング・ザ・センターラインであるが、ラインの踏み超え対象は足に限る。その他の部分は、相手チームの妨害にならなければ、バイオレーションにはならない。タイ監督は、手が出たというジェスチャーだった。明らかに、ルールを誤認していた。“5秒経過”も理解していないようだ。
タイムアウト明け、タイチーム、今度は主将のプルームジットが主審に抗議(説明を求める?)が、これに対し、とうとう
レッドカード。
日本に1点が与えられ、9-12。
宮下のサーブでプレー再開。タイコートを深く狙ったサーブ。ネットを過ぎて浮かび上がり、レシーバーはアウトと判断、見送る。しかし、これがエンドライン付近で急激に落ち、コートイン。サービスエース!
10-12。
続く宮下のサーブ。今度は慎重にレシーブしてほぼAパスでセッターに返り、Aクイック。これを荒木がブロックに引っ掛け、繋いだトスを石井がスパイク。
11-12、1点差!(タイがタイムアウト)
セッターをポーンプンからヌットサラに交代。宮下のサーブをAパスのレシーブ。プルームジットがクイックに入るがこれは囮で、ウィラワンの時間差攻撃。しかし、これを待ちかまていた石井と荒木がシャットアウト!……
12-12、ついに同点!
宮下のサーブ、プルームジットのライト攻撃に石井がワンタッチを引っ掛け、迫田がブロックアウトを獲り、逆転、
13-12。
沸きに沸く会場。タイは再びセッターを交代、プレー再開………と思いきや、副審がこの交代を認めず、ベンチに戻ったヌットサラをコートに戻す。
納得のいかない監督。キャプテンも主審に、「しっかり交代を要請している」(←推測)と説明。その後、カメラは日本選手の様子に切り替わるが、一段と会場が湧いた。どうやら、
レッドカードが出された模様。さらに、
日本に1点が加えられ、14-12。日本がマッチポイントを掴んだ。主審がレッドカードを出した瞬間が見られなかったので、出した理由は分からなかった(FIVA見解は後述)。
タイ選手が主審に抗議するが、覆らない。憤然とするタイ監督。
12-14で再開。宮下のサーブで乱されたタイは、レフトのオープン攻撃。これをブロックに掛け、迫田がオープントスをスパイク。しかし、タイも気力を振り絞って、ブロック。シャットアウト。
14-13。
しかし、依然、日本のマッチポイント。
木村のサーブレシーブがネット際に飛んだが、宮下がレフトにオープントス。これを迫田が走り込んで、渾身のスパイク。これをタイが拾いきれず、
15-13。日本、奇跡の大逆転勝利!
★2度のレッドカードについて
【国際バレーボール連盟(FIVB)の見解】
1度目は監督がコーチングゾーンを越えて抗議したため「敵対的な振る舞い」として出され、2度目は遅延行為が理由と説明した。
☆タッチパネルについて
タイがクレームを繰り返したのは、タッチパネルの不具合が続いたことが原因。メンバーチェンジが何度も実行できず、かなりフラストレーションが溜まっていた様子。
日本チームもメンバーチェンジが実行できなかったが何度かあったが、そもそも、タッチパネルシステムを採る必要があるのかが疑問である。
メンバーチェンジ成立について、従来は申請のタイミングの遅早など、監督と審判との折衝だけで済んでいた。しかし今回は、タッチパネルの不具合か、誤操作かの問題が付加され、その確認は水掛け論になってしまう。実際は誤操作でも、≪ちゃんと操作したのに≫という不信感が残るし、システムの不具合の場合は、ベンチとしてはどうしようもない。従来なら、2者の話し合いである程度納得できるのに。
高速で微細な判断が必要なジャッジは機械導入の意義はあるが、こういう手続きの問題で、機械の方を絶対視するのは如何なものだろうか?番号札を持ってコートサイドに出ているのだからシステムの不具合の可能性を考えて、臨機応変にメンバーチェンジを認めてもいいのではないだろうか?
☆冷静さを欠いたタイの監督
冷静さを欠いて、“チャレンジ”の5秒経過ルール、パッシング・ザ・センターラインの誤認識などにも、審判に不信感を持ってしまったタイの監督にもかなり問題を感じる。
☆不手際が多い審判団
特に“チャレンジ”に対応する能力に欠けていて、明らかに誤判断をしたり、時間が掛かってしまうシーンが何度も生じた。
眞鍋監督の“ヤブヘビ”となったチャレンジの強制のプレーは、確認のスクリーンを見る限り、山口にタッチネットはなかったように思われるし、この騒動の対応にもお粗末さを感じた。
2009年にタッチネットの規定改定され、がネットの白帯部分に限定されましたが、2015年にそれ以前のタッチネットの規定に戻されたようです。
ルール改正を知らなかったので、
山口選手が降り際に、腹部の辺りがネットに触れていたのは確認しましたが、タッチネットに該当しないと思ってしまいました。
私の無知でした。申し訳ありませんでした。
6.日本チーム雑感(他の試合を含む)
日本のエースは長岡だろう
今大会の長岡は素晴らしかった。
威力、コースの打ち分け(コースチェンジ)も素晴らしく、スパイクミスも非常に少なかった。
さらに、長岡の長所は、ある程度乱れたトスでも、強打を決めることができることだ。
レシーブがよく、ラリーが多い日本において、ラリー中のオープントスを決めることができるのは長岡が一番である(ロンドン五輪時は木村がそうだった)。ラリーを制さないと勝機が少ない日本にとって、長岡の価値は非常に大きいと思われる。
今大会、迫田も好調で、素晴らしかった。長岡がやや調子を落とすと、迫田がカバーしていた。しかし、≪ああ、長岡がいれば、何とかなったのに≫と思われるシーンが多く、長岡がベンチにいる時間が多かったのは勿体なかった。
前の記事で、「長岡と迫田を同時にコートに立たせれば最強なのに」と述べたが、サーブレシーブの関係で難しいらしい(長岡も迫田もサーブレシーブが得意ではない)。考え足らずだった。
セッター・宮下
時々、トスミスを連発するのが非常に残念だった。
この原因は、おそらく、スタミナ切れ。特に上半身(腕や胸筋)が消耗してしまい、トスが短くなったり、ブレたりするのではないだろうか。ゲーム後半になってからトスが乱れ始める傾向が強いように思える。
フライングレシーブやつなぎのプレーでも走り回り、チームに非常に貢献しているが、それもあり、消耗が激しいのかもしれない。ただ、今大会を見ていると、そういう体力面を強化する必要がある。
時々、控えセッターと交代するのも、一策だろう。
上述した守備面での貢献、2アタック、サーブ、ブロックは過去のセッターと比較して、どれも上位レベルであり、全日本のセッターは彼女しかいないと考える。
木村の復活
2、3年前は強打が衰え、決定力も低下していたが、昨年辺りから復活の兆しがあり、今大会はロンドン五輪時の頃を彷彿させる活躍であった。
彼女ならではの弾道、難しい体勢でも打ち切れる体の柔軟さ、スパイクの強さもかなり戻ってきていた。頼もしい復活だった。
眞鍋監督
選手の育成、チーム戦略についての監督の手腕は、よく分からないが、ここまでの実績から、高評価してもいいのだろう。
しかし、ゲームの戦略・戦術には疑問に感じることが多かった。
前記事で述べた「木村負傷時の対応」や「タイムアウト時の指示」、ここまで述べてきた「長岡の起用法」や「“チャレンジ”の多用」や「宮下を出し続けたこと」が挙げられる。
あと、感じたことは、内面の不安が表情に出ること。
例えば、この試合の最終セット、石井のスパイクがシャットアウトされ6-12となった時、眞鍋監督は小さくではあるが、2、3度、不安げな顔で首を捻ていた。
このセット、劣勢になり、点を取られるたびに不安げな顔をしており、「鉄仮面」を強要するのは、酷であるが、そういう監督でいてほしい。(中田久美監督は、いつも不機嫌な顔をしているが…)
とは言え、第6戦のイタリア戦で敗れたものの2-3での敗戦で、勝ち点1を加え、セット率の関係で4位以上が確定し、リオデジャネイロ五輪への出場権を獲得した。おめでとう!
できれば、勝って欲しかった。せめて、イタリアが2セットを先に取ってホッとした第4セットではなく、第2セットか第3セットを奪って、五輪出場を確定してほしかった。