デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

最後の冒険家

2009-02-17 14:12:46 | 買った本・読んだ本
書名 「最後の冒険家」
著者 石川直樹  出版社 集英社 出版年 2008年

読了して、あらためて表紙のカバー写真を見て戦慄を覚えた。4年もの間海上を彷徨いながらトカラ列島の小島に打ち上げられた熱気球のゴンドラの残骸、裏表紙にはそれを見つめる野生の山羊たちが・・・。冒険と呼ばれることのむき出しの本質がそこにある。
2008年1月末に太平洋横断飛行をめざして飛び去ったまま、帰ることがなかった神田道夫の冒険の足跡を追った本なのだが、なによりも著者自身が、この神田と共にこの4年前太平洋横断飛行に挑戦して失敗した経験をもつというところがこの本のミソとなっている。命をともにしたからこそわかる冒険家神田の実像も興味深いものがあるが、自分には石川というこの作家の冷静さが胸に残った。最年少で世界七大陸最高峰を制覇したという自身冒険家と名乗ってもいいはずの石川は自分を冒険家とは呼ばない。ただ「心を揺さぶられる何かに向かって旅を続けている」だけだという。それに対して神田は、亡くなった植村直己の延長に生きた近代の冒険の意志を継ぐものであると捉える。
太平洋横断中に海に落下、まさに九死に一生を得る、死と対峙するという体験をしたのにも関わらず、この事件のことを淡々というか、まさに人ごとのように、石川は書いている。普通だったら声高に命を賭けたこの飛行を書くはずだろう。それをただ、神田の二回目の飛行の失敗を説明するためだけに書いてあるように書く石川は、これを意識的にしたのかどうかわからないが、凄いと思う。むしろ彼は神田の二回目の失敗について熱く語っている。著者がこのあと、命を賭け、「心を揺さぶられる何か」に向かうことがあるかどうかはわからないが、彼が書くものはとても読みたいと思う。
満足度 ★★★


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