書名 「サガレン」
著者 梯久美子 出版社 角川書店(角川文庫) 出版年 2023
サハリン紀行記なのだが、タイトルに「サガレン」という旧名を冠しているのがなにより気に入った。「サガレン」は長谷川濬のノートで何度も出会った言葉、著者にとってサハリンは、チェーホフや宮沢賢治、林芙美子、北原白秋と結びついていくのだが、自分にとってはやはり長谷川濬となる。長谷川はサハリンから木材を積み込む船の通訳として何度もサハリンを訪れている。宮沢賢治はサハリンの東部を走っていた電車に乗っていたが、長谷川はその逆の西部の鉄道が通っていない港を訪れていた。そこで親友だった逸見猶吉に向けて何度も何度も詩を書いていた。本著の中心となる宮沢賢治のサハリンへの旅で、著者がサハリンでの賢治ではなく、そこに向かう中で、亡き妹への悲しみと絶望の惜別を唄った挽歌を書いた宮沢の心境に迫っているのは、とてもよくわかる。長谷川も新潟や福井からサハリンに向かう船の中で、いつも逸見を偲んでいたからである。一部の寝台急行、北へは、鉄女でもある著者のサハリン鉄道紀行としても楽しめたし、ここを訪れた林や北原なとの文人たちの紀行やチェーホフの「サハリン紀行」も重ね合わせることで、サハリンの過去も蘇えさせてくれる。二部の「賢治の樺太」をゆくは、賢治のサハリンへの旅を追うことで、亡き妹への挽歌を読み説いていきながら、そこにチェーホフや、ピウスツキや彼らの縁のある白鳥湖に秘められた謎にせまるという紀行だけでなく、ノンフィクションとしての面白みも味わえた。
サハリンに行きたくなった。
長谷川のノートを読んでいたとき、無性に同じ航路で旅がしたくなり、その時新潟と小樽からサハリン行きの船がでていて、真剣にサハリンに行くことを考えたことがあった。いまはこの航路はない。そしてこのウクライナ戦争で、サハリンへの道はそう簡単ではなさそうだが、この本を読んで、かなり行く気になりはじめている。ここは行かなくてはならないところであることを再認識させてくれた本でもあった。
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