不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

阿波のでこまわし

2009-02-25 15:57:38 | 買った本・読んだ本
書名 『阿波のでこまわし』 
著者 辻本一英   出版社 解放出版社  出版年 2008年  定価 1400円(+税)

阿波のでこまわしという芸能の存在を知って、たまたま東京でやれるかもしれないという話もあり、この本の著者辻本さんと何度かメールのやりとりをすることになった。その時にこの本のことを教えてもらい、すぐに購入した。阿波のでこまわしというのは、放浪人形劇集団、いわば傀儡の流れを組むものである。傀儡にしても、放浪芸にしても、被差別の差別の問題とつながっている。著者は徳島の被差別で生まれ、そのあと教師になり、同和教育に取り組んできた。その意味でこの本は、著者辻本の半生を色濃く反映しており、何故彼がこのでこまわしをやるようになるのかを知るためには、どうしてもそれを語らなくてはいけなかったのだと思う。祝福の芸を演じ、豊穣や家内安全を呼び込む芸をする人間が、何故差別されなければならないのか、これは芸能の本質とも関わってくる問題であろう。このでこまわしも、いつ廃れてもおかしくなかった。著者が伝える悲しいエピソードに胸を突かれる。でこまわしの芸人の孫が、小学校の教室で「えべっさんの子、物もらいの子」とからかわれる。両親は出稼ぎに家におらず、じいさんとふたりで生活していた孫は、泣きながら家に帰り、「えべっさんやめて」と泣いて訴えたという。祝福するために人形を廻し、門付けしていたことを誇りにしていたじいさんは、孫がつらい思いをすると言って、この人形をしまい込んでしまい、このときこの地方でのデコまわしの芸能は消えてしまう。著者は、同和教育のなかで、被差別者しか担うことができなかった文化を誇りをもって伝えていくべきだと考え、活動をするなかで、阿波の誇るべき文化芸能としてでこ廻しを見つける。奇跡的ともいってもいい、師匠との出会い、そして復活、普及活動へ向かう姿が生き生きと綴られている。興味深かったのは、阿波を出て、全国各地を回ったでこまわしたちがその地に残した種が、その地方でどう育っていったかというレポート。たぶんこれはまだ調査の一部だろうと思うが、こうした記録を発掘調査していくなかで、この阿波のデコ廻しという芸が、日本中で迎えられたということを証明することにもなるはずだ。その成果をぜひまた読みたいものだと思う。
この本には、たくさんのデコマワシという芸能に携わった人と、それを迎え入れた人々との交流する写真が納められている。それに木偶(デコ)と呼ばれた豊かな表情をした人形の写真もたくさん納められている。その意味では入門書としてはずいぶんぜいたくな作りになっている。
読み終え、いつか本物のデコマワシを見たいものだと思っていたら、グットタイミング、辻本さんから東京公演の案内が届いた。これは是非見に行こうと思っている。(公演案内は、観劇案内板に)
満足度 ★★★


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 雨が降ると・・ | トップ | 「部落の文化・伝統芸能の夕... »

コメントを投稿

買った本・読んだ本」カテゴリの最新記事

カレンダー

2024年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

バックナンバー