ジャンル 映画
観覧日 2023年5月15日
これはまぎれもなく、ロバが主人公の映画。その証拠に、エンディングロールの出演者のトップには、EOを演じた5匹のロバの名前が出てくる。
見たいと思ったのは、朝日の映画評で、サーカスのロバがという一文があったこと。サーカスでロバは、馬ほどメジャーではない。ただロバに乗っては振り落とされるというのをコミカルに演じるショーがあって、もしかしてそれが見れるかもしれないと期待したが、サーカスのシーンはオープニングの数分だけ。その意味では肩すかしだった。それはこちらの勝手な思い込みであって、この映画はサーカスから別れたあとの、ロバの流浪の旅を、独特の赤いフラッシュバックの光線をつかった映像を挿入しながら、独特のタッチで描いたもの。それは、人間たちの都合で強いられたものともいえるが、EO自身の自由を求める旅でもあった。この旅のなかで,人間の愚かな行為が次々にロバの視点から暴かれていく。これがみどころだ。
EOが旅立つきっかけとなったことは、我々サーカスものにとっては見逃せない話でもあるので、ちょっと詳しく書きとめておきたい。映画ではわずか数分のことだが、これがきっかけでEOの旅ははじまるので、大事なエピソードである。
EOはサーカスで働いていた。ここで共演していたカサンドラの愛を浴びて幸福に過ごしていた。
しかしサーカスに動物愛護団体が、調教した動物を解放すべきだというプラカードをもって、かなり激しく抗議に押しかける。この反対運動はなかなか強烈、ヨーロッパではこれがあたりまえのことかもしれない。説明はなかったが、こうした反対運動もあって、サーカスは倒産に追い込まれ、ロバは競売にかけられ、EOは牧場に売られてしまう。動物愛護団体の抗議のため、動物たちはそれまでの安住していた生活を追われてしまったことになる。
サーカスで一緒だったカサンドラも身勝手といえば身勝手だ。EOが売られた牧場まで、今日が誕生日だからと、わざわざ会いにきながら、連れ去るわけでもなく、そのまままた去っていく。ロバはかつてのことを思い出し、自ら柵を破ってたぶんこのカサンドラを追っていく。この牧場にそのままいたら、落ちついた生活ができたかもしれないのにである。
動物愛護運動の人たちも、サーカスで一緒に仕事にした人も結局は、ロバのことを心配しているとは言っても、それはロバの都合をなにも考えていないとはいえないだろうか。
この映画のなかで、こうした人間の愚かさが次々にロバの目を通して暴かれていく。
EOの目はなんとも優しい、しかしその吠える声は、おぞましい。吠えることで、人間の愚かさをあざ笑っているかのように。