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デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

イルクーツク商人とキャフタ貿易

2024-05-30 11:42:19 | 買った本・読んだ本
書名  「イルクーツク商人とキャフタ貿易-帝政ロシアにおけるユーラシア商業」
著者  森永貴子    出版社 北海道大学出版会   出版年  2010

ある論文を読んでいて、本書のことを知って、読むことになった。厚さ4センチほどになる大著なのだが、その半分は付録としてのイルクーツク商業に関する資料集となっている。キャフタ貿易によってイルクーツクがロシアの中で独自の商業発展をとげていくその過程を膨大な資料を駆使しながら、明らかにしていく。扱うテーマが商業となるから、俯瞰的にユーラシア商業という視点から見ていくことにもなり、キャフタ貿易で扱われる品目の変化など(輸出品としての毛皮、さらには輸入品としての茶の需要の高まり)からが、時代も見えてきて興味深く読ませてもらった。ただやはな自分に関心があるのは、漂流民たちがイルクーツクで生きた時代背景。いろいろ発見があった。一番の発見は善六がゴロヴニン事件に関わっていく時のイルクーツクの県知事がトレスキンというかなり悪名高い人物がイルクーツクの商人たちを締め上げていたこと、その中で善六の名づけ親となったキセリョフが、おそらくトレスキンによって殺害されたという事実だった。こうした専門書の中で知ることができる事実をやはりきちんと押えておかないといけない。

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ロクさん、ぷりっぶりっ

2024-05-19 07:48:25 | 買った本・読んだ本
書名『ロクさん、ぶりっぶりっ』
著者  大島昭彦    出版年 2024   出版社  蝶夢舎

私が3歳から高校2年まで過ごし仙台市追廻を舞台にした物語である。著者が「作者より」の中で、書いているように熊谷達也の「七夕しぐれ」という小説の舞台も追廻、主人公たちも小学生と設定が似ている。熊谷の小説より前に書かれてたものだが、これを真似たものではないことを力説したかったのだろう。それは熊谷が追廻のことを差別された人たちが住むところというように設定しているからなおのこと、そんな誤解をもたせるようなことを書かれてしまったことへの疑念や憤りをこめて、どうしても先にそれを伝えなくてはという思いからだった。著者もまた追廻で暮した人間で、住んでもいなかった熊谷にはとうてい書けなかった追廻のリアリティが散らばまれている。バキュームカーのホースの震え、隣の家から聞こえるくしゃみ、落ちていた銃弾のこと、亜炭山の暗さ、洞窟のなかにいたコウモリなど、仙台の街中から遠く離れていないところにあった異界が見事にビビットに描かれている。これは暮らしていないものでないと書けないことである。そしてそこに追廻への限りない愛が感じられる。小説の大事な人物となっているロクさんも、コンノジッチもみな実在した人物である。もちろん脚色されているが、実際にいた人たちだからこその存在感がそこにあった。よく描かれていたと思う。自分の目には生き生きとあのときの前はちまきをして、リヤカーを曳いていたロクさんや、作業服をいつもガソリンだらけにしていた今野さんのことがまるで昨日のことのように浮かんできた。子どもたちも、特にモデルはいなかったのだろうが、生き生きと描かれていた。なによりも追廻は、少年たちの場であったのだ。ここでも登場するコンコン山や龍の口や射撃練習場跡や洞窟に亜炭山など、子どもたちの遊び場にはことかかなったことだけでなく、そこは秘密を宿し、それを共有するという子どもにとってはたまらない魅力をもった場に満ちていたからである。この小説にもそりすべりやすみかなど、あの頃の小学生の子どもたちがみんなやっていた遊びがうまくモチーフとなって使われていた。これは比較してはいけないことかもしれないが、「七夕しぐれ」の子どもたちよりは、ずっと生き生きとしている。それは子どもたちが本気で遊んでいるからだろう。悪者が誰もいなかったのも良かった。昔「追廻っ子がんばれ」という芝居をつくったことがあった。それは追廻への自分なりへの誇り、そしてそんな時を一緒に過ごしていた友だちが好きだったからだと思う。同じように著者も追廻で暮し仲間たちと一緒に過ごしたことへの誇りのようなものがあったのではと思う。

著者は私とは3歳違いの弟である。自分も弟にみならって、濃厚な追廻のことが書きたくなってきた。ただ自分には小説は書けないので、随想ということなるだろうが・・・
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遠野郷の9日間

2024-05-17 05:56:17 | 買った本・読んだ本
論文タイトル「遠野郷の9日間-佐々木喜善、伊能嘉矩、そしてニコライ・ネフキイ-
著者  桧山真一
月のしずく第51号桧山真一追悼別冊

いつも送っていただいている「月のしずく」の別冊。今年2月に亡くなった桧山真一氏が令和2年度に佐々木喜善賞論文部門を受賞した論文と受賞したときのご本人の挨拶などもいれて特別に編集したもの。
ネフスキイが初めて遠野を訪れた時のことを、佐々木の日記をもとにその9日間を追ったもの、ネフスキイ研究にとっても、かなり重要な論考ではないかと思う。彼はこの9日間どれだけの人たちと交流を結び、そこでどんなことを吸収しようとしていたのかを、本人ではなく佐々木が書いた日記から浮かびだしている。民話を聞かせてもらいながら、なぜ方言のままそれを文字化しないのかとかなり強い疑義を呈していたところは注目していもいいだろう。この論考がそれだけに留まらず、佐々木の日記をつかったということで、学問的なことだけに留まらず、妻がネフスキイに親切にすることにちょっとジェラシーのようなものを感じていることなど、佐々木という男の人間性にも触れていくことにも共感がもてた。
それにしてもネフスキイにとっても佐々木にしてもある意味人生に大きな影響を与えることになった濃厚な遠野行きだった。
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パリの「敵性」日本人たち

2024-05-07 15:37:01 | 買った本・読んだ本
書名 「パリの『敵性』日本人たち 脱出か抑留か 1940-1946
著者 藤森晶子   出版社 岩波書店     出版年 2023
ドイツがパリを占領して時代はともかく、連合軍がパリに進出、ドイツ軍が撤退したあと、在仏の日本人たちは「敵性」と見なされ、抑留されたり、逮捕されたりした。この本はその時脱出か抑留か迫られた日本人たちの姿をフランスに残る一次史料をつかって追跡したものである。いわゆる学術書なのか、ルポなのか、そのあたりのスタンスをはっきり最初に打ち出した方がよかったように思える。妙にルポのようなタッチで書き起こされるのが、鼻についてしまった。
史料だけで語られることもできたように思える。
戦争とサーカスというテーマで何か書けないかということがあって、読んだのだが、いくつか発見はあった。このテーマで追いかけていくとやはり沢田ファミリーのことに立ち返ってしまう。ソ連のドイツ侵攻あたりから在欧日本人に対して、ベルリンに集まり゛そこからソ連を経由して日本に帰国させるというのが、日本の当時の作戦だったようで、まさに沢田たちもその施策のもとに、満州まで行くわけである。そのあたりの動きがこの本を読んでよくわかった。参考になる史料についても教示してもらった。一番驚いたのはヒトラーかぶれの当時の在ドイツ日本大使の大島が、アメリカに渡り、そこのかつての保養所でかなりいい待遇で抑留され、そのあと帰国したという事実。他の日本人たちがかなり厳しい条件のもとに帰ったのに、海外の日本人を守るべき大使が一番いい思いをしていたとは。
パリに残留して芸術家のなかに早川雪州も入っていたというのもちょっと驚きであった。いろいろと発見はあった本であった。

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千島列島をめぐる日本とロシア

2024-05-06 09:15:09 | 買った本・読んだ本
書名「千島列島をめぐる日本とロシア」
著者  秋月俊幸  出版社 北海道大学出版会  出版年 2014

近藤重蔵が書いた「ちゅぷか考」という写本を、石川清馬が所蔵していたこと、これが始まりだった。これは千島列島について千島アイヌのひとりから聞いて書いたものに、いままで千島に関連して書かれたことを加えたもの。これを読んでいるときに、書棚でみかけたのがこの本。すでに読んでいたものだが、ちょっとページを開いてみると、ちゅぷか考で書かれていたことがよくわかるようになり、結局また読み直すことになった。昨年亡くなられた秋月さんの本にしては珍しく一般向けに書かれた概説書なのだが、千島列島をめぐる日本とロシア、さらには千島アイヌの人たちの歴史を端緒となったイエズス会の宣教師の冒険からプーチン時代の北方領土政策までをたどることができて、とても参考になった。こういう仕事は、秋月さんしかできないものだとつくづく思う。北方領土の問題のみで語られることが多い千島列島だが、こうして概史としてみていくと、いかにここで住んでいた千島アイヌの人たちのことをまったく無視して、日本とロシアがここで得られる利益取り合いしていたかということがよくわかる。明治になり千島列島が日本の領土ということで確定されたあと、日本からすれは遠方の北千島の島民たちを強制的に他の島に移住させるという施策などは、それを象徴する。先日国立民俗博物館で見てきた擦文文化の展示などを見ても、この千島列島の文化と歴史はいまもっと注目されるべきだと思う、その時この書はその入門編として読まれ続けていく価値がある。。。
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