書名「布施辰治外伝幸徳事件より松川事件まで」
著者 布施柑治 出版社 未來社 出版年 1974
布施辰治の息子さんが書いた本なのだが、有名な岩波新書の『ある弁護士の生涯」より、ずっといい本になっている。『ある弁護士の生涯」にあった、父親へのわだかまりが溶けて、ひとりの人間としてへのリスペクトに満ちあふれるものになっているのが大きい。外伝と名付けられていることもあってなのか、あまり知られていないが、こちらの本の方を多くの人に勧めたい気がする。その理由のひとつとして、辰治が戦前におこなった岩手の入会調査の旅を書いた日記「奥の入会紀行」をダイジェスト版のようなかたちで所収していることがある。この日記のオリジナルは、石巻文化センターが出している冊子に収録されているが、一般向けにいち早くこれを紹介している意義は大きい。辰治にとって弁護士の資格を剥奪されたり、刑務所に収監されたりとい辛い時代の最中の東北の山間の地を訪れた旅ということもあって、どこか解放されたようなのびやかさが感じられる。これを読むだけでも辰治の人間性に触れることができるような気がした。それと刑務所にいる間に過去自分扱った裁判事件を振り返るという章もなかなか読みごたえがあった。
ふと辰治の奥の入会紀行をたどって見ようかなと思う気持ちにもさせられた。