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デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

布施辰治外伝幸徳事件より松川事件まで

2025-05-22 13:54:21 | 買った本・読んだ本
書名「布施辰治外伝幸徳事件より松川事件まで」
著者 布施柑治     出版社 未來社     出版年 1974

布施辰治の息子さんが書いた本なのだが、有名な岩波新書の『ある弁護士の生涯」より、ずっといい本になっている。『ある弁護士の生涯」にあった、父親へのわだかまりが溶けて、ひとりの人間としてへのリスペクトに満ちあふれるものになっているのが大きい。外伝と名付けられていることもあってなのか、あまり知られていないが、こちらの本の方を多くの人に勧めたい気がする。その理由のひとつとして、辰治が戦前におこなった岩手の入会調査の旅を書いた日記「奥の入会紀行」をダイジェスト版のようなかたちで所収していることがある。この日記のオリジナルは、石巻文化センターが出している冊子に収録されているが、一般向けにいち早くこれを紹介している意義は大きい。辰治にとって弁護士の資格を剥奪されたり、刑務所に収監されたりとい辛い時代の最中の東北の山間の地を訪れた旅ということもあって、どこか解放されたようなのびやかさが感じられる。これを読むだけでも辰治の人間性に触れることができるような気がした。それと刑務所にいる間に過去自分扱った裁判事件を振り返るという章もなかなか読みごたえがあった。
ふと辰治の奥の入会紀行をたどって見ようかなと思う気持ちにもさせられた。

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駐露全権公使榎本武揚

2025-04-28 16:22:44 | 買った本・読んだ本
書名「駐露全権公使榎本武揚」 上下
著者 ヴァチェスラフ・カリキンスキイ(藤田葵訳)  出版社 群像社  出版社 2017

ロシア公使として樺太北千島交換条約を締結した榎本武揚のロシア時代を舞台ロシア人作家が小説に仕立てた。物語の大前提となるロシア公使として外交交渉に臨む人間が,新政府に反乱を企てた男であることを暴くよう西郷隆盛の密命を受け,榎本に同行していたということ,さらに西郷の狙いは最終的に明治天皇にその責をとらせようということというのが,かなり無理があったのではないか。ロシア人が読めば納得するかもしれないが,日本人が読むとかなり苦しい大前提だったような気がする。
ただ榎本のロシア時代というのは確かに,小説にしたくなるようななにか想像力をかきたてるようななにかがあるのは間違いない。サンクトでの交渉もそうだが,そのあとのシベリア横断もなぜそんなことをということが気になってくる。サンクトから妻にあてた手紙があるが,それは公表されているのだろうか?シベリア日記にはもう一冊の日記があったというが,それはまだ見つからないのであろうか?榎本武揚は,やはりミステリアスの男である。
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幸福なモスクワ

2025-04-28 15:49:57 | 買った本・読んだ本
書名「幸福なモスクワ」
著者 アンドレイ・プラトーノフ(訳池田嘉郎)  出版社 白水社 出版年 2023

訳者の池田の著作「ロシアとは何ものか」を読んで,読みたくなった本。ちょっと期待外れかな。おそらくこの手の小説からずいぶんと離れてしまい,ピンとこなくなってしまったのかもしれない。
ロシア文学をよく読んでいた頃も完全にノーマークだった作者。訳者の懇切丁寧な解説でどんな作家であることはわかった。埋もれていた作家で,最近注目を浴びているとは いえ,翻訳はかなり出ていて,岩波文庫にもなっていた。モスクワというヒロインの名前と,モスクワの当時の町並みの様子も浮かび上がらせるなかで,都市のイメージを重ね合わせている。ヒロインの流転の人生に,出会う男たちが背負っているものが,ソ連という国の未来の暗部を照らしだされるところに,閉塞状況のなかにあったソ連の実像が描きこまれていたということは言えるかもしれない。
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津軽蝦夷乃王国始末顕

2025-04-15 11:23:24 | 買った本・読んだ本
書名  「津軽蝦夷乃王国始末顕」
著者  奈利田浮城   出版社 北奥文化研究会   出版年 1981

弘前に行ったとき、お城の近くにあった成田書店というとても素敵な古本屋さんで購入した本。郷土史関係の本が山積みされたなかで、荷物にならないよう、でもなにか買わないということで購入した本。やはり青森に来たのだから、青森のものをと思ったのだが、この本にしたのはタイトルに蝦夷が入っていたからだ。
津軽愛にみちた本だった。学術的にはどうかと思うが、面白いなと思ったのは、縄文後期にそもそも津軽にいた先住民である阿曽部族が、増殖しているところに古代中国の文化を背負った津保化族が漂流移民として津軽にやってきて、両族がまじりあうなかで、統一社会をつくり、世界に類のない独自の土器文化国家をつくっていたという独特の、ある意味ロマンティックな史観を提示していること。古代中国から津軽へ文化が持ち込まれ、それが蝦夷文化と混じり合うというのはあってもいいかと思うが、それを裏付けするのはかなり難しいだろう。でも面白い、おそらく津軽の郷土史をやっている人でないと、出てこない視点だろう。こういう視点も大事にすべきだとは思った。

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少年が来る

2025-03-29 16:04:45 | 買った本・読んだ本
書名「少年が来る」
著者 ハン・ガン(井手俊作訳)   出版社 クオン  出版年 2016

前に読んだ「別れを告げない」は済州島事件について、本書は著者が幼年時代を過ごした光州で起こった光州事件を描いている。韓国現代史の暗部である。この暗部を直視しようとする中に著者の強い意志を感じる。それだけこのふたつの事件は、韓国にとって看過できないことということだろう。日本にも同じようなことはいくつもあるような気がするが、そうしたことに立ち向かおうとした作家は果たしているのだろうか。
本作は、事件で出会った人たちのそれぞれの光州事件を、過去にさかのぼり、その後を追うという時間を幾重にも交錯させながら、事件の渦中にいた人々の運命を交錯、連鎖させ、綴っていくなかで、さまざまな視座を組み込みながら、命を奪われ、生き延びてもそのトラウマを背負わせれた人々の悲劇を重層的に描き出す。複眼的な視点を交錯させないととてもこの事件の悲劇は描けないということなのかもしれない。光州事件については、このところ劇映画にとりあげられ、軍部の残虐さを見せつけられてはいるが、文字で著者が必死に描こうとしているこの事件の残虐さは、映像でみせつけられているものとは明らかにちがう。暴行を受けた、その受け身となった人間の生と死をしっかり文字に刻みつけようとしていることだ。生を踏みにじった軍部の非道さだけでなく、それによって生を奪われたものたちの命を描こうとしていることだ。その意味で撲殺され、軍部によってトラックに積み込まれた死体から離れる魂が、いま火をつけられ消えようとしている自分の体をみつめる2章「黒い吐息」は胸に迫ってきた。
書かなければならないという思いの強さ、そして文字でそれを書き残そうと格闘するなかで、事実と向き合い、その悲劇を文字に刻みこんだ。
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