『みち』 目次
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『みち』 ~満ち~ 第242回
~~~~~~~~~~~
(久しぶりだな)
「こんな奥まで簡単には来られないからな」
(ここまで来ぬと我にも少々不都合がある故な)
「いい加減、いったい誰なんだ?」
(くくく・・・)
「気持ちの悪い・・・そろそろ姿を現してもいいんじゃないのか?」 いつもの如く、どこからともなく聞こえてくる声の主を探す。
(どうだ? 指の弾きは楽しかろう?)
「・・・ちっ! どこかで見てたのかよ」
(くくく・・・だが、その程度ではそろそろ飽きてきたのではないか?)
「な? ・・・何を言ってるんだ?」
(もう少し力をやろうか?)
「え?」
(どうだ?)
「・・・とにかく・・・姿を現せよ」
(あの程度では葉や、皮一枚といったところかのう)
「・・・」
(そうか・・・力は・・・要らぬか)
「・・・力を・・・くれるのか?」
(・・・だー・・・く(諾) ) 木の葉がガサガサと大きな音を立てて揺れる。 風が頬をかすめる。 髪が揺れる。
掌を見た。
コクリと頷く。
(承・・・知)
空が歪む。
~~~~~~~~~~~
風来が主の元を発ち半年が過ぎた頃
「主様! 主様! 風来兄ちゃまから文が来たー」 小さな子が文を持った手を大きく振り上げ、草履を脱ぎ捨て囲炉裏の傍に座っていた主の膝に走ってやってきた。
その後を追って木ノ葉(このは)が走って来る。
もう幼い頃の木ノ葉ではない。 静かではあるが、芯のある面倒見の良い姉様となっている。
「主様すみません。 風来兄からだと聞いて歩音(ほのん)が喜んでしまって・・・」
「よい、よい。 兄様からの文じゃ、嬉しいのじゃろう」
「歩音こっちにおいで」 主の膝に手を置き、膝元に座り込んでいる歩音を呼び寄せた。
後から他の子供達も走ってやってきた。
散った草履を履かせ、他の子供たちの立つ入り口近くまで下がると木ノ葉は自分の前に歩音を立たせ、後ろから肩に手をかけ、二人でその場に立った。
皆、風来からの文が気になるようである。
「風来からとな。 どれ」 文を読み出した主を皆で見ている。
「主様、主様。 風来兄ちゃまはなんて書いてきてるの?」
「静かに」 木ノ葉が歩音を制した。
暫くじっと読んでいた主が文を畳み
「風来は励んでいるようじゃな」 感慨深く一言いうと、隣に座していた浄紐(じょうちゅう)が
「そうでございますか。 みんな、安心せい。 風来は励んでいるようだぞ」
「風来兄ちゃまはいつ帰ってくるの?」 間髪居れず、歩音が聞くと
「そうじゃな・・・いつとは書いておらんが必ず帰ってくるからいい子にして待っておれと皆のことを気にかけて書いておるぞ」 歩音のほうを見て主が言うと
「ほら、歩音のことよ。 いい子にしてなきゃ、風来兄帰ってきてくれないかもしれないわよ」 その言葉を聞き、顔を後ろに向け木ノ葉を見る。
「歩音いい子にしてるもん」 それを聞いていた周りの子供達が
「嘘付けー。 さっきも木ノ葉姉ちゃまが持ってた風来兄ちゃまの文を取り上げたじゃないかー」
「歩音、いい子だもん!」 言った相手に言葉を返す。
「これこれ、風来は皆の事も心配しておるのだから喧嘩をするのではない」 浄紐がそう言って制し
「木ノ葉、皆を外へ」 絶え間なく続いていた修行、今はその一時である。 疲れているであろう主の身体を気遣って言った。
「はい。 ほら、みんな外に行こう」 小さい子達を連れて外に出た。 それを見届けた主が
「字も上手に書いておる。 住庵殿は達筆じゃから教えてもろうたんじゃろうな。 よくよく大切に可愛がって下さっている様子がこの文から充分、窺い知れる」
「そうでございますか。 住庵様の静。 風来には動より静が合いますからなぁ」
「誠にもってそうじゃなぁ。 ・・・それと、住庵殿の所に女子が居るようじゃが聞いておるか?」
「は? 女子でございますか?」
「うむ。 風来の身の回りの世話をしてくれているようじゃ」
「それは・・・女子とは初めて聞きましたなぁ。 ・・・まず、女子どころか住庵様はお一人でいらっしゃるとしか知りませんでしたし・・・」 考えるが、思いあたるところがない。
「なにやら風来の文によるともう数年、住庵殿のところにいるようじゃ」
「数年でございますか? うーむ・・・風の噂にもございませんでしたな・・・」
「どうも、しっかり者の様じゃな」
「ほほう。 しっかり者であれば風来には丁度良いかもしれませんな。 して、名はなんと?」
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(久しぶりだな)
「こんな奥まで簡単には来られないからな」
(ここまで来ぬと我にも少々不都合がある故な)
「いい加減、いったい誰なんだ?」
(くくく・・・)
「気持ちの悪い・・・そろそろ姿を現してもいいんじゃないのか?」 いつもの如く、どこからともなく聞こえてくる声の主を探す。
(どうだ? 指の弾きは楽しかろう?)
「・・・ちっ! どこかで見てたのかよ」
(くくく・・・だが、その程度ではそろそろ飽きてきたのではないか?)
「な? ・・・何を言ってるんだ?」
(もう少し力をやろうか?)
「え?」
(どうだ?)
「・・・とにかく・・・姿を現せよ」
(あの程度では葉や、皮一枚といったところかのう)
「・・・」
(そうか・・・力は・・・要らぬか)
「・・・力を・・・くれるのか?」
(・・・だー・・・く(諾) ) 木の葉がガサガサと大きな音を立てて揺れる。 風が頬をかすめる。 髪が揺れる。
掌を見た。
コクリと頷く。
(承・・・知)
空が歪む。
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風来が主の元を発ち半年が過ぎた頃
「主様! 主様! 風来兄ちゃまから文が来たー」 小さな子が文を持った手を大きく振り上げ、草履を脱ぎ捨て囲炉裏の傍に座っていた主の膝に走ってやってきた。
その後を追って木ノ葉(このは)が走って来る。
もう幼い頃の木ノ葉ではない。 静かではあるが、芯のある面倒見の良い姉様となっている。
「主様すみません。 風来兄からだと聞いて歩音(ほのん)が喜んでしまって・・・」
「よい、よい。 兄様からの文じゃ、嬉しいのじゃろう」
「歩音こっちにおいで」 主の膝に手を置き、膝元に座り込んでいる歩音を呼び寄せた。
後から他の子供達も走ってやってきた。
散った草履を履かせ、他の子供たちの立つ入り口近くまで下がると木ノ葉は自分の前に歩音を立たせ、後ろから肩に手をかけ、二人でその場に立った。
皆、風来からの文が気になるようである。
「風来からとな。 どれ」 文を読み出した主を皆で見ている。
「主様、主様。 風来兄ちゃまはなんて書いてきてるの?」
「静かに」 木ノ葉が歩音を制した。
暫くじっと読んでいた主が文を畳み
「風来は励んでいるようじゃな」 感慨深く一言いうと、隣に座していた浄紐(じょうちゅう)が
「そうでございますか。 みんな、安心せい。 風来は励んでいるようだぞ」
「風来兄ちゃまはいつ帰ってくるの?」 間髪居れず、歩音が聞くと
「そうじゃな・・・いつとは書いておらんが必ず帰ってくるからいい子にして待っておれと皆のことを気にかけて書いておるぞ」 歩音のほうを見て主が言うと
「ほら、歩音のことよ。 いい子にしてなきゃ、風来兄帰ってきてくれないかもしれないわよ」 その言葉を聞き、顔を後ろに向け木ノ葉を見る。
「歩音いい子にしてるもん」 それを聞いていた周りの子供達が
「嘘付けー。 さっきも木ノ葉姉ちゃまが持ってた風来兄ちゃまの文を取り上げたじゃないかー」
「歩音、いい子だもん!」 言った相手に言葉を返す。
「これこれ、風来は皆の事も心配しておるのだから喧嘩をするのではない」 浄紐がそう言って制し
「木ノ葉、皆を外へ」 絶え間なく続いていた修行、今はその一時である。 疲れているであろう主の身体を気遣って言った。
「はい。 ほら、みんな外に行こう」 小さい子達を連れて外に出た。 それを見届けた主が
「字も上手に書いておる。 住庵殿は達筆じゃから教えてもろうたんじゃろうな。 よくよく大切に可愛がって下さっている様子がこの文から充分、窺い知れる」
「そうでございますか。 住庵様の静。 風来には動より静が合いますからなぁ」
「誠にもってそうじゃなぁ。 ・・・それと、住庵殿の所に女子が居るようじゃが聞いておるか?」
「は? 女子でございますか?」
「うむ。 風来の身の回りの世話をしてくれているようじゃ」
「それは・・・女子とは初めて聞きましたなぁ。 ・・・まず、女子どころか住庵様はお一人でいらっしゃるとしか知りませんでしたし・・・」 考えるが、思いあたるところがない。
「なにやら風来の文によるともう数年、住庵殿のところにいるようじゃ」
「数年でございますか? うーむ・・・風の噂にもございませんでしたな・・・」
「どうも、しっかり者の様じゃな」
「ほほう。 しっかり者であれば風来には丁度良いかもしれませんな。 して、名はなんと?」