大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第203回

2015年05月19日 23時43分41秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第190回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第203回



琴音が仔犬を追いかけて行くと仔犬が建物の横で止まった。

「仔犬ちゃん、まだ釘とか落ちてるんだから危ないでしょ。 じっとして」 仔犬は琴音にお尻を向け何かを口で噛んでている。 そろっと近づいて見てみると仔犬のオモチャを噛んでいたのだ。

「あ、なんだ。 オモチャを見つけたのね」 逃げる気配のない仔犬を屈んで抱っこしようと仔犬に手を回した時

「あ! このセメント・・・」 建物の基礎の部分が目に入った。

「あの時見えたセメントはこれだったのね! あ、そうか。 まだ基礎だけのときに基礎をマジマジと見たんだったわ」 風呂に入っている時に見えたビジョンだ。

仔犬が口に咥えていたオモチャを手に取るとすぐに口から放した。 そのオモチャと仔犬を抱き上げ

「もうそろそろここに来なさいっていう事を言いたかったの?」 セメントをじっと見て聞くが何の返事も返ってこない。 

考えていると母親がやってきて

「一人で走っちゃ危ないでしょ」 琴音から仔犬を抱き上げた。 

二人で正道の元に帰り、琴音が正道に説明した。

「仔犬ちゃんのオモチャが落ちててそれを見つけたみたいです」 仔犬が咥えていたオモチャを見せると

「ああ、そうでしたか。 そのオモチャ、プレハブの中を探しても無いはずですな。 きっと今日、仔犬をつれてきたときに落としたんでしょうな。 そのオモチャは仔犬の一番のお気に入りでしてな」 正道と琴音の会話の横では父親が母親に

「お母さん、預からせてもらうことにしたよ」 それを聞いた母親が

「それじゃあ、この仔と一緒にこのオモチャを預かって帰っても宜しいですか?」

「ご迷惑をおかけするかもしれませんが宜しくお願いいたします」 正道の言葉を聞いて母親が喜び満面の笑みで答えた。

「迷惑だなんてとんでもない! 大切に、見させてもらいます」 その言葉を聞いてより一層、安堵を覚えた正道であった。

「では琴音さん仔犬の身の周りの物もお預けいたします」 車から仔犬に必要な物が入った袋とキャリーを出して渡した。 

そして時計を見て一瞬、「アッ・・・」 とした正道の表情。 その顔を父親は見逃さなかった。

「では、失礼かと思いますが、私はお先に失礼させていただきます。 今日はご両親様にお逢いできて良かったです」

「こちらこそ。 娘を宜しくお願いします。 それではお気をつけて」 

「では」 会釈をして車に乗り込んだ。 その姿を見送った琴音が

「お父さん、あれだけ訝しげにしてたのにどうしたの?」 遠くを見ていた父親が少しの間を置いて琴音を見た。

「所作、風貌、言葉遣いかな。 随分と年下の琴音に丁寧な言葉で話してただろ?」

「うん。 言葉はいつも感心してるの。 でも所作って? お父さんがどうしてそんな事を言うの?」

「ほら、お父さんは仕事柄経理をしてたから、確定申告の時期になると色んな人がうちに来てただろう?」

「うん」

「その中に所作を教えている教室もあったんだよ。 それでお父さんはお金を取らないからその代わりにって所作を教えてくれていたんだよ」

「ええ? そうなの?」

「言ってなかったか?」

「そんなの聞いてないわ」

「まぁ、子供の時の琴音に言うわけないな」

「へぇー、お父さんがねぇ」 父親をまじまじと見た。

「なんだよ」 

「別にー」 照れ隠しにコホンと咳を一つして父親が

「それに感謝の念を持ってる方だな」

「感謝の念?」

「そうだ。 自分の弟子を人前で褒めるなんてことなかなか無いぞ。 それにその弟子のお陰でなんて言葉を師匠が普通言わないだろう」

「まぁね・・・」

「感謝が出来てるから言えるんだ。 人に感謝が出来るっていう事は大切な事なんだぞ」

「わぁ・・・やだ、暦と話してるみたい」

「暦さん? なんだ?」

「何でもない。 あ、暦って言えば・・・」 振り返って 少し離れた所で仔犬と遊んでいる母親の方を見て少し大きな声を出して

「お母さん、暦のおばさんと行った山はこの山?」

「うん。 間違いない」 母親の返事を聞いた父親が

「琴音、お母さんの間違いないは信用できないからな。 なにせ方向も分かって無かったら記憶もいい加減なもんだからな。 今度暦さんに聞くといいぞ」 

「言えてる」 二人でクスクスと笑っている。

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