大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第200回

2015年05月08日 15時00分49秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第190回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第200回




風一つない晴天。 その上、1月だというのに気温も高い。

「お母さん、お早う」

「お早う。 琴ちゃん洗濯物はない?」 三が日だというのにいつもの様に朝早くから洗濯をしようとしている母親だ。

「うん。 特に無いわ」

「じゃあどうしようかなぁ。 そんなに洗濯物がないから今日はいいかしら・・・でもお天気がいいから洗濯物を干さないって言うのは勿体無いわねぇ」

「いいじゃない。 お母さん一日中動いてるんだから少しは休んだら?」 琴音のその言葉を横目で見ながら

「動いてないと病気になるわよ」 そんな風に言葉を発する母親に何とかいつもと違う時間を過ごさせたいと思い頭を巡らせた。

「また熱が出るわよ。 朝はゆっくりして・・・そうだ、ドライブがてらにお昼ご飯を食べに行かない?」 

「ドライブ?」

「うん。 いいお天気なんだから。 外でご飯って食べる事ないでしょ?」

「そうだわねー。 いつも家でお父さんと顔を突き合わせてご飯を食べてるだけだわねー」 言われてみればと、返事をした母親だが

「雰囲気が変わればお父さんの顔もハンサムに見えるかもよ」

「え? お父さんも一緒に行くの?」 外に出かけても父親と一緒なのかと少し落胆をしたように言った。

「何その言い方? 一緒に行けばいいじゃない」

「何処に行くんだ?」 後ろから父親が顔を出した。

「あ、お父さん。 昨日は一日中お節だったから、お昼はどこかで外食しない?」

「まだ三が日だぞ。 開いてるところなんてあるのか?」

「最近のお店は年中無休よ」

「こんな田舎でもか?」

「一軒心当たりがあるの。 ね、駄目元でもこんなにお天気がいいんだからいいドライブになるでしょ?」

「お母さんはどうするんだ? 行くのか?」 

「当たり前です」 父親にそう言われるとどこか剣のある返事になる。

「そうだな。 じゃあ、行ってみようか」 

午前中は三人でゆっくりとテレビを見て過ごし12時前に家を出た。 



運転席には琴音、助手席に父親。 母親はシートベルトを嫌がって絶対に助手席には座らない。 母親の指定席は助手席の後ろだ。 

エンジンをかけ発進すると父親が

「心当たりの場所って何処だ?」

「インターの方でここから30分くらいの所にファミレスを見つけたの」

「へー、こんな田舎にもファミレスができてたのか」

「国道沿いだから出来たんじゃない?」

「お母さんはファミレスなんて行ったこと無いんじゃないか?」 後ろに座る母親に話しかけた。

「そんなハイカラな所行ったことは無いですよ。 お父さんはあるんですか?」

「会社時代はたまに行ったよ」

「まっ! そんな話は聞いてませんよ」

「ファミレスに行ったくらい、いちいち言わんだろう」 母親の言葉を聞いた琴音はまた少し寂しさを感じ

「お母さんはずっと仕事と家の往復だけだったもんね」 ポツリと洩らした。

「そうよ。 お父さんみたいにハミナントカに行く時間なんて無かったわ」

「ハミじゃなくてファミ。 ファミレスよ」 

「ハミレス?」 聞き返す母親にこういう事は適当でいいかと「うん」 といい加減な返事をし

「お父さん、二人とも定年したんだからお母さんをどこかに連れて行ってあげてよ」

「どこかって、温泉とかっていう事か?」

「それでもいいし、こうやってドライブがてら出掛けるのもいいし」

「お父さんが誘ってもお母さんがついて来るもんか」 聞き耳を立てていた母親に

「お母さんはどうなの? お父さんと出かけたくないの?」 ルームミラー越しに話しかけると

「琴ちゃんと出かけるのがいいわ」 俗に言う空気の読めない返事が返ってきた。

「お母さん!」 思わず叫んだ琴音に

「なっ?」 父親の一言だ。



目的のファミレスは開いていた。

席に着きメニューを見ている母親が目を丸くしている。

「こんなにシャレたものがあるの? お母さん何を食べていいのか分からないわ」 ほとんど煮焚物しか食べたことがない。

「じゃあ、私と同じ物でいい?」

「うん。 何でもいいわ」

「お父さんは何にするの?」

「そうだなぁ、お昼御前にでもしようか」

「じゃあ、決まりね。 お母さん、私はこのドリアのセットって言うのにするけど和食の方がいい?」

「ドリア? ・・・それでいいわ」 琴音にしてみれば母親が食べた事の無い物を食べさせたかったのだ。

料理はすぐに運ばれてきて母親は初めてドリアを目にした。

「熱いから気をつけて食べてね」 母親がそっとスプーンを入れて食べるのを見て

「どう?」 不安げに聞く琴音の顔を見て

「美味しい! こんな味食べた事がないわ!」

「良かった。 ね、お父さんとあちこちに行って色んな物を食べなくちゃ」 母親の顔を見ていた父親が琴音の言葉を聞いて

「そうかもしれないな。 琴音の言うとおりかもしれんな」 琴音が父親の言葉に耳を傾けた。

「お母さんはずっと仕事と家の往復だったな。 それに親父とお袋の面倒を一人で見てくれてたんだからな」 持っていた箸を置いた。

「お父さんたら何を急に言い出すんですか」 今までに聞いた事のない言葉を聞かされ驚いた顔をした。

「いや、よく考えると お母さんはずっとこの田舎の中でしか生活をしてないわけだ」

「土地の人間はみんなそうですよ」 

「そんな事はないよ。 それに時代は変わったんだよ。 色んな物を見て回るのもいいかもしれないな」

「そんな事を急に言い出して 気持ちが悪い」 投げ捨てるように言ったが、その言葉以外浮かばなかったのだ。

「お母さんったら、ちゃんとお父さんの気持ちを貰おうよ」

「・・・まぁ、琴ちゃんがそう言うのなら・・・それにこんな美味しい物も食べられるのならいいけどね」

「お母さん・・・素直じゃない」 


違う空気を吸うのは必要な事かもしれない。

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