五感で観る

「生き甲斐の心理学」教育普及活動中。五感を通して観えてくるものを書き綴っています。

匂の君

2008年11月26日 | 悔いのない人生とは?
源氏物語では「香り」がとても大事なキーワードになっています。
その人の「香り」は、個性化を表現する「いでたち」と同じく重要なもののようです。光源氏なんぞは、女性のところに通う間際には必ず着物に香を焚きしめイソイソと出かけていきます。

最近では、電車の中で部活帰りの高校生の横に立っても匂いません。みんな、無臭を意識しているようです。
私とて、やはり匂いには気をつかっています。

先日、電車の中で隣に座った男性がコートを着ていました。たぶん、この季節に初めて腕を通されたのだと思います。
そのコートから漂う深く沁み付いた墨か香の香りが私の脳幹を刺激しました。

またまた妄想好きの私は「奥様がお茶をなさってる」「いやいや、ご本人か・・・」「それとも香が趣味?」「それとも、書家??」と頭の中で忙しく映像が浮かびあがります。。。

見知らぬ隣の紳士に「いい香りですね~」なんて、逆ナンパのような言葉を掛ける勇気もなく。。。
ただひたすら、電車という公共の箱の中で、至福の香りを愉しんでしまいました。

昔、お茶の稽古で真冬に「炭手前」をした時の香りを思い出しました。
冬の凍てつく空気の中、茶室の炉の炭が赤くパチパチと音を立て、そこに一片の香を落とします。そこから広がる香りは、まるで結界を超えたような心持ちへと導かれます。

ほんの数分の香との出合いでした。

おめでたい私は、もうそれだけで鼻の奥に香りが沈静し、その日は一日、自律神経が満たされていたようです。

無臭も周りへの気遣いの一つかもしれませんが、ほどほどに香をたきしめて街に出るのも悪くないと思いました。

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