▼憲法第21条=集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
▼表現とは、内心を外部へ表そうとする意志と行為を伴った精神作用であり“その内容は真実であるを要しない”。旧憲法29条でも保証されていた。【公法1】〔第三版〕憲法・堀内健志著。
▼政治ネタなどで「炎上芸人」と言われる吉本興業のお笑い芸人、ウーマンラッシュアワー村本が、炎上ぶりに拍車をかけている。ということは「炎上芸人」としての、真価を発揮しているということなのだろう。
▼先日、彼は「朝生テレビ」に出演を依頼され、憲法改正や自衛隊の問題について発言したが、学者や専門家に、あまりにも無知だとされ、非難を浴びたそうだ。
▼彼は、なぜ「朝生」に呼ばれたのだろうかと自問したという。芸人として、また若者目線で、どんなことを考えているのかを話すことが自分の使命だと考え、出演を受けたという。
▼憲法改正問題などは、すでに議論百出し新鮮味がなく視聴率も落ちている。そこで、「炎上芸人」を呼び、討論に刺激を与える企画した、テレビ局側の思惑が見える。
▼さらに村本は、オホーツクの観光ピーアール大使も務めている。「こんな私でもいいのだろうか」と、テレビで謙虚に話していたのは私も観た。
▼早速、ピーアール用の公式ツイッターで「オホーツクはロシアのもの」と投稿した。すぐに苦情が殺到し、役所が削除したということこそお笑いだ。
▼その位の、人が驚く発言をしないと、芸人に任された意味がないとし、ツイッターに載せたのだろう。所属事務所も「炎上演出の一環」とし、本人も、ハバロフスクに実際ある「オホーツク」という町の名だという。
▼なぜ「炎上芸人」を選んだのか。役所も炎上してもらえることを期待していたはずだ。だが「役所らしい炎上」など、芸人にとってはナンセンスそのものだろう。
▼もし、トランプ大統領がオホーツクの大使になってくれるといったなら、喜んで引き受けるはずだ。だが、トランプ氏は「世界一の炎上者」だ。
▼得意のツイッターを削除したら【ミサイルをオホーツクに飛ばしてやる】と言いかねない。炎上は、トランプ大統領が村本より、数段上ということだろう。シャレも理解できない役所など、芸人など使ってはならないのだ。
▼【文人の相軽んずるは古(いにしえ)よりこれ然り】とは、魏の文帝曹丕の「典論」の冒頭にあるという。私の「寝床文庫」にあった、作家高橋和巳の「人間にとって」という中に見つけた言葉だ。「文人相軽」という。
▼文人には、自分より劣っているものを侮蔑する傾向がある。嫉妬や怨嗟はそれをする人自身を矮小化するだけだ。文学が本来もっているべき創作・享受・批評・研究という相関の環が、奇妙な“相軽”意識のために疎隔し歪むのは、その人個人に照り返す倫理の問題である以上に、その国の文学全体にとっての大きな不幸であると、高橋は言う。
▼村本の発言がダメというなら、トランプ大統領やアベ総理などは、国益を損ねることを、平気で発言するのを得意とする人物だ。人に優劣をつけるような役所からの依頼を、芸人が引き受けるなんて、自分の芸を殺してしまうだけだ。
▼現憲法21条を、自民党改憲草案(2012年版)はどう改正するか。2項を追加し【前項の規定にかかわらず“公益”及び“公”の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない】となっている。
▼とすれば「公益や公」の秩序を害する最大の行為は【戦争】そのものではないか。そうなれば、九条改正を狙う自民党自体が、認められない団体になるということになる。
▼だが、この草案は国民に向けた内容なのだ。自民による憲法改正とは「国民主権」から「国家主権」となり、立憲主義がアベコベになるということなのだ。
▼私のような狭隘な考え自体も、高橋に言わせると「国家全体にとって不幸だ」ということになるのだろう。
▼高橋和巳が亡くなってから、47年だという。若い頃読んだ彼の代表作に『悲の器』というのがある。つまらぬことばかりをブログに投稿する私は、さしずめ『非の器』というところか。
▼炎上芸人・ウーマン村本を鏡とし「表現の自由」ということを考えさせられた、ロシア寒気がすぐ近くまで迫って来ている、ちょっぴり反省の朝だ。