▼北海道出身で、保守の論客だった西部さんが、多摩川に飛び込み自裁した。随分前のことだが「朝生テレビ」で西部さんと、宮台真司さんの対決を思い出した。
▼若手の宮台さんは、東大の大先輩である西部さんに真っ向から立ち向かった。討論番組など、すべて「楽屋落ち」であり、茶番だとする宮台さん。経験も浅い者の意見など理解できないと、大上段に構える西部さん。
▼横綱と十両ほどの対決に見えたが、一歩も引かない宮台さんと西部さんの論戦のビデオを、何度も観たことを思い出している。
▼自裁した翌日、くしくも通常国会の開催だった。冒頭でアベ総理が施政方針演説を行った。明治から150年の今年、国難とも呼ぶべき危機に直面していると訴える。
▼【教育の無償化】大学も学問の追及のみならず、人づくりにも意欲を燃やす大学に限って、無償化の対象にする。アベ総理が目指す「美しい国」への人材養成か。
▼【政策の総動員】投資に消極的な企業には、研究開発減税などの優遇税制の適用を禁止する。自分の意に反する者は排除し、産学軍官の推進なのか。
▼【行政の生産性向上】では、通信と放送が融合する中で、
国民の共有財産である電波の有効利用に向けて、大胆な改革を進める。大本営発表の再来だろうか。
▼【観光立国】大型クルーズ船専用ターミナルの確保のため、岸壁の本格整備を行う。米空母の接岸は、水深12~13メートルもあれば可能だ。一朝有事のためか。
▼【積極的平和主義】この旗の下、これからのわが国は国際社会と手を携え、世界の平和と繁栄に力を尽くしてまいります。演説のBGMに「軍艦マーチ」が聴こえたという国民もいたのではないか。
▼【日米同盟の抑止力】トランプ大統領とは個人的な信頼関係の下、世界の様々な課題に、共に立ち向かってまいります。現代のヒットラーともいわれる米国トランプとの同盟は、日独(米)軍事同盟の再来か。
▼【東日本大震災からの復興】福島を原子力から、世界最大の水素製造工場に変身させるという。「化石燃料から原子力へ」の時代を彷彿させ、『原子力ムラ』を『水素ムラ』に名前を変えるだけではないのか。
▼【おわりに】多くの人の力を結集し、次の時代を切り開く。あらゆる人にチャンスあふれる日本を、与野党の枠を超えて、皆さん、共に作ろうではありませんか。アベ総理のボルテージもマックスになり、国家総動員法への進軍ラッパが国会に鳴り響く。
▼これらの目標達成は、2020年東京オリンピックに標準を当てている。国のかたち、理想の姿を語るのは【憲法】ですと、締めくくっている。
▼理想を語るだけの憲法ではだめだ。あくまで現実に即した憲法でなければ、古びたものになるというのは、アベ総理の持論中の持論ではないか。
▼腹痛を起こし政権を放り出したアベ総理に、1年間「保守とは何か」を教えた西部さんが言う。『安倍は真の保守ではない』と。
▼【保守とは伝統を守ること、現状が伝統を大きく逸脱していれば、改革を断行するのが保守。伝統とは、その国が残してきた慣習そのものでなく、その中に内包される『平衡感覚』を意味している】と、西部さんは声を高くする。
▼西部さんの著書「国民の道徳」の終わりの章に【死生観が道徳を鍛える】というのを、昨夜読み返してみた。知識人を自負した者の、知識人としての尊厳は自分で判断するという「つよいこころ」が読み取れた。
▼飛び込んだ多摩川に、故郷長万部(オシャマンベ)の、川や海を見たのか。多摩川は今や外来種の宝庫だという。最近は「タマゾン川」と言われているようだ。
▼外来種に駆逐される、日本古来の魚たちを擁護しようと飛び込んだのか。巨大な外来種を一掃する【西部邁駆逐艦】の、死してなおの影響力に期待したい。
▼故郷長万部には、地元の医師が寄贈した仏像などを展示した「平和祈念館」がある。西部さんと「平和祈念館」。新幹線の駅舎となる予定の長万部の、これからあるべき姿ではないかと思う。
▼【真の保守とは何か】を考えさせられる、そんな故郷長万部のまちづくりを、シャイな西部さんは、言い残したのかもしれない。
▼西部さんの生家は、浄土真宗のお寺だったという。
お疲れ様でした、西部さん。