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函館市とどほっけ村

法華宗の日持上人にまつわる伝説のムラ・椴法華。
目の前の太平洋からのメッセージです。

お正月に現れた亡き妻

2018年01月04日 12時25分05秒 | えいこう語る

▼私の友人で、若くして妻に先立たれ、残された二人の子供を育て上げ、昨年、退職した一人暮らしの男性がいる。お正月なので、鍋を囲んで一杯やろうということになり、彼の家に出かけた。

▼妻が亡くなった時は、長男が小学4年で、長女は幼稚園だった。周囲から再婚を進められたが、結婚生活12年間の、妻との思い出を大切にしたかったので、再婚は諦めたという。

▼だが、こんな話も聞いた。幼い長女に「新しいお母さんがくればいいのにね」という大人もいたそうだ。長女が「新しいお母さんて、私のお母さんは一人しかいないよね」と言われたことがあるという。

▼出張で、おじいさんおばあさんに預け、ホテルに宿泊していた夜中に電話が鳴り響いた。泣き叫ぶ娘の声。「お父さん帰ってきて、雷が怖い」。居ても立ってもいられなくなり家に戻ったという。

▼そんなこともあり、彼は独身を貫き通したのだろう。そんな男気のある彼は、義父にとても気に入られ、酒の好きな義父は、飲むたびに「君が娘の夫であることを、とても幸せに思う」とよく言われたという。

▼その義父も他界され、義母は一人で暮らしている。新年のあいさつに出かけ、お正月料理の定番の、鯨(脂身のみ使用)と、たくさんの山菜を煮込んだ『鯨汁』をいただいてきたので、それを食しながらの男二人酒となった。

▼退職したばかりなので、彼の来し方に話が進む。メインは亡き妻の思い出だ。見合いの時の条件がお互い合わず、破談になりそうだったが、周囲の励ましで結婚に至ったそうだ。子供が生まれてから子供中心に、夫婦の愛が高まっていったようだ。

▼そんな話を聞きながら、奥さんの火葬の日、彼の妻への最後の言葉を思い出したのだ。火葬釜の中に入る瞬間「お前と暮らせて幸せだった。子どもたちのことは心配するな」と、周囲をはばかることなく叫んだのだ。私の一年分の涙が、すべて溢れ出たのだ。

▼義母の「鯨汁」は、煮込むほどいい味を出していた。そして、殻になった鍋が、コトコトと鳴り始めた。鍋を少し移動してみたが、やはりコトコトと鳴る。3度ほど移動しても、コトコトは鳴り止まない。

▼「亡くなった奥さんが、このテーブルに座っているに違いない」と言うと、彼は素直にほほ笑んで、こう言った。「今夜は布団をあったかくして、力いっぱい抱いてやるぞ」。

▼私は、その愛情あふれる言葉に目頭が熱くなった。「もう帰るのか」と引き留める彼に「邪魔しては洒落にもならないので、今夜はゆっくり夫婦水入らずで仲良くして」と言い残し、少し早めの帰宅となった。

▼極寒の漁村の夜も、心なしか温かな感じがしたのを記憶している。