▼以前、某新聞社の報道部長から、こんな話を聞いたことがある。ある大きなまちを批判したわけではないが、そのまちと競争関係にある小さなまちにエールを送るような記事を書いたら、大きなまちの議会からクレームを付けられ、購読に影響するぞとまで言われたという。報道は公平でなければならない。だが、国民の生活を脅かす不当な権力には、敢然に立ち向かう姿勢がなければ、報道は単なる権力の飼い犬的存在になってしまうだろう。視聴率と同様、発行部数など最優先せず、自らの使命を発揮してもらいたいものである。
▼とはいうものの、新聞報道であれば洒落た文体やジョークもなかなか使用しづらいので、書き手は何らかの手段で読者に真実を伝えたいと思うに違いない。新聞記事を丁寧に読んでいると、いくつかの関連記事を合わせれば、編集する側が読者に伝えたい真意を汲み取ることができる。編集者が意図していかもしれないが、読者自らがいくつかの関連記事を編集し、自説を組み立ててみるというのも、新聞の楽しい読み方ではないかと思う。
▼例えば、今一番函館市民にとってうれしいニュースは、函館駅直近の若松埠頭に、12万トンクラスの大型クルーズ船が接岸できる埠頭を整備するというものだろう。1隻から2000人~3000人の客が下船し、市内で消費する経済効果は、大きなものがある。今後、年70隻ほどの入港を予定しているというから、ほとんどの市民は、港湾整備には好感を持っているようだ。だがこの予算は、アベ政権の「21世紀型のインフラ整備」という大形クルーズ船向けの港湾整備計画で、港湾の整備については函館市の継続要望だったが、9月の補正予算で函館市が要望している以上の6億3000万円が付いたという、どちらかというと棚からぼた餅的な、国からのサービース予算のようだ。市の一部負担もあるが、大間原発建設に反対し、国を提訴中の函館市に、国の急な思いやり予算が妙に気になる。
▼この予算について、函館観光振興に新たな希望がという、提灯記事が多い。そんな中、北海道新聞が『若松埠頭に、米海軍の“掃海艇”などが頻繁に入港してくるのではないか』という、一部の市民からの声もあるという、いたって軽めな記事が目に付いた。私が、記者なら「最大級の米空母で10万トンクラスなので、今後すべての米戦艦の入港が可能になる」と書きたくなる。函館港は国の直轄港湾なので、日米安全保障条約下での米艦隊の入港を、拒否することにはならない。老婆心を働かせれば、函館は軍港化する恐れがあるということだ。だが、新聞はそこまで踏み込んではいない。
▼こんな小さな記事を見つけた。「国会これが聞きたい」という、北海道選出の議員に聞くコーナーだ。佐藤英道衆議員(比例道ブロック)というが、どこの出身の議員か、私は名前も写真の顔にも見覚えがない。普通は読むことはないが「大型観光客船港湾整備の効果は、観光客多数消費多い」というタイトルだったので読んでみた。そこには今回の国の補正予算「21世紀型インフラ整備」で、北海道は函館だけでなく、小樽、稚内の3港に予算が付いたという。
▼ここで、私が思い出したのは、親米で改憲派の中曽根元総理の言葉だ。当時、訪米した総理は「日米運命共同体」を強調し「日本列島不沈空母化」や「4海峡封鎖」という、現実的な日米安保強化を主張した。大日本帝国復活かという当時の中曽根総理の勢いだ。
▼この4海峡封鎖だが「宗谷・津軽・対馬の東・西水道」だという。稚内港は何万トンクラスの船体が入港可能な整備にするかわからないが、もし、12万トンクラスの整備だとすると、宗谷海峡と津軽海峡は、米海軍の港湾内占有使用で、一朝有事には封鎖が可能となる。
▼米空母一隻の戦闘能力は、中国軍の40%の軍事力に匹敵するというので、単純に考えれば、米空母4隻で中国は殲滅できるということになる。ましてや北朝鮮など、歯牙にもかける必要もないのだ。これで我が北海道の防衛は万全ではないか。本土防衛体制は、中曽根総理以来、脈々と受け継がれているということになる。沖縄ばかりではなく、北海道も米軍基地化で、日本列島が不沈空母化するのというのが、新聞の小さな記事から私が勝手に組み立てて推測してみた、自説だ。
▼新聞社も、港の観光化が軍港化に利用されることに懸念を抱いているのではないかと思う。新聞がはっきりその意図を書きだした時は、すでに遅しだ。だが、我が国には「神戸方式」という、米軍の入港を拒否した事例があるようだ。そのことにはいずれ触れるが、安全・安心なまちづくりが基本テーマの函館市町会連合会。函館港の大型クルーズ船入港は、はたして、安全・安心なまちづくりに反しないか、じっくり考える必要があるものではないかと思う。
▼それよりも函館市議会だ。再三「安保関連法」が議会に提出され採決されるが『15対14』で毎回賛成になるという。函館港に大形クルーズ船入港のための埠頭整備。市議会がどのような動きをするのか、それを注目してみたいものだ。
▼安全・安心なまちづくりには『市民参加』が重要だというのは『函館市自治基本条例』の、最も大切なところだからだ。