▼今日から寒気来襲と言われていたが、外は春のようなぽかぽか陽気だ。沖では数隻の磯舟が、養殖昆布の間引き作業をしている。波打ち際のカモメも、春のような日差しを浴び、何時もより、ふっくらした感じのセーターを着ているように見える。
▼私の家から、車で25分圏内に8ヶ所の温泉がある。すべて無料の温泉が2ヶ所、60歳以上が無料が1ヶ所、65歳以上が50円が1ヶ所、その他は400円位だ。
▼あらためて数えてみたら、温泉に恵まれている暮らしということだ。温泉と言えば周辺に2つの火山がそびえている。恵山は海から溶岩が噴出して出来たものだ。駒ケ岳は富士山のような形が、上半分がぶっ飛んだという感じだ。
▼温泉もそれぞれ個性がある。真冬で身体が冷えていると
、個性が顕著に発揮される。入浴後の体温の持続性に差が出てくるからだ。
▼昨日は、温かさが持続すると感じる、車で15分ほどの隣町の温泉に出かけた。そこに私の村の、中学の同級生が入って来たのだ。彼も、この温泉はあたたかさの持続性があると話していた。
▼60歳以上が無料なので、私たちはもちろん無料だ。せめて100円ぐらいでも取ったらいいのに、という声も少なくない。関係者に尋ねると、老人福祉の増進のためとかで、国の補助金を受けたので、補助の規定上、無料にしなければならないというような話だった。
▼「ひも付きの補助金」などと言われるが、利用者が「100円ぐらいなら支払ってもいい」といっても、それはダメだという頑な補助金は、良いのか悪いのか。
▼同級生との風呂で座っての会話が長くなり、少し肌寒くなってきたので、湯船につかろうとした。その時、友達も私も肌寒さを感じていたのに、力士の稽古後のように、玉の汗が吹き出ていた。「ここはやはり泉質が優れているね」と、二人は納得した。
▼私が先に湯から出た。脱衣所で、80歳代の男性が私に話しかけてきた。着替えの様子や発音から推測し、どうやら脳に軽い疾患があるようだ。
▼何度か聞き直して理解できたが、私と話していた男性は誰かということだった。「私の村の、私とは中学の同級生でHというが、あなたも知合いですか」と聞いた。
▼「どこの誰だかわからないけど、何時も背中を流してくれるんだ」という。Hは同級生の中でも、少し距離を置かれている感じだ。そういう私も「お前は話しにくい奴だ」と言われているけど。
▼私はHの生い立ちを知っている。自立精神が人以上にあるので、付き合いにくいといった印象なのだろう。だがそのHがみせた、思いやりの行動に、私の心も、さらにあったかくなった。
▼次にHと会ったら、そのことは告げないようにしたいと思う。見えないところでの善意など、彼は「なんも、大したことでない」と言う、シャイなタイプだからだ。
▼みなが貧乏だったけど、イワシもイカも前浜に押し寄せてくるほどの豊漁が続いた、私たちの小学・中学時代は、子供からお年寄りまで、村人総出で仕事を分担していた。
▼時には、子供たちの悪意を、大人たちはゲンコツで鍛え直してくれた。そんな心が通っていた時代を過ごしたHも、どこかに年配者への尊敬と、恩返しの心を抱いていたのだろう。
▼時々前浜で、一人釣りを楽しむHを見かける。その横には活火山恵山が噴煙をたなびかせている。そこには、イワシやイカが前浜に押し寄せた、あの頃の古き良き故郷に思いを馳せる、少年Hがいる。