鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1320~三浦しをん

2017-02-01 12:15:10 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、三浦しをんです。

三浦しをんの「天国旅行」を読みました。

これまで「舟を編む」「風が強く吹いている」の2冊しか読んだことがありませんが、どちらも心に残る素敵な作品でした。
そろそろもう1冊と思い、内容紹介などを参考に選んだのが本書。
決め手は「すべての心に希望が灯る傑作短編集」という紹介文でした。

AMAZONの内容紹介を引用します。
=====
現実に絶望し、道閉ざされたとき、人はどこを目指すのだろうか。
すべてを捨てて行き着く果てに、救いはあるのだろうか。
富士の樹海で出会った男の導き、命懸けで結ばれた相手へしたためた遺言、前世の縁を信じる女が囚われた黒い夢、一家心中で生き残った男の決意――。
出口のない日々に閉じ込められた想いが、生と死の狭間で溶け出していく。
すべての心に希望が灯る傑作短編集。
=====
そこへ行けば、救われるのか。
富士の樹海に現れた男の導き、死んだ彼女と暮らす若者の迷い、命懸けで結ばれた相手への遺言、前世を信じる女の黒い夢、一家心中で生き残った男の記憶…光と望みを探る七つの傑作短篇。
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正直に言って期待外れ。
すべての心に希望が灯る傑作短編集?
どこが?と悪態をつきたくなるほどです。
内容紹介を書いた人は、過大評価が過ぎます。
「死」を描くことは難しい事ですし、さらに現実味を持たせながら、心に希望が灯るストーリーに仕上げることはもっと難しいということでしょう。
確かに思いもよらないストーリー展開で驚かせてくれましたが、詰めの甘さにより読後感は残念なものばかりでした。
以上、ケチをつけてばかりでしたが、考えさせられたり、真相を推理したりと、という意味では面白い短編集でした。
以下は、各編の感想。

「森の奥」
富士の樹海で出逢った男も自殺志願者だった。
互いの胸の内を語り合う内に冷静になり、どちらも自殺を断念する、というストーリーは、意外であり納得できるものでした。
本人にとって重大事でも、他人はそれほど重要と思わない、ということの最たるものが自殺かもしれないと、考えさせられました。

「遺言」
若き日の手に手を取った逃避行。
「命懸け」と簡単に言いますが、長い結婚生活をそのままの気持ちで過ごすと、行く末はどうなるのか?
そこには想像を超える恐ろしさがあることを知りました。
夫の浮気が発覚した時に、変わらぬ愛を証明させるために、夫に青酸カリ入りの水を飲ませる妻。
実は塩水でしたが、この水をもし飲まなかったらどうした?という問いに、翌朝の味噌汁に青酸カリを入れた、と真顔で答えます。
現実にはそこまでの夫婦はいないでしょうが、命懸けの恋を貫くとこうなるのか!と妙に説得力のあるストーリーでした。

「初盆の客」
この作品が一番気に入りました。
大好きだった祖母の初盆。
失恋の傷を胸に里帰りした孫娘がひとり留守番をしていると、見知らぬ青年が訪ねてきた・・・。
ここから始まる奇想天外なストーリーに、翻弄され、魅了されました。
「死」を起点としながらも、時間と距離を飛び越えた、心温まるストーリーが展開されました。
ラストの仕上げも絶品。
これだけは二度読みしました。

「君は夜」
幼いころから夢の中で前世の暮らしを経験してきた女性。
江戸市中での貧しい長屋暮らし。
愛する男との生活は幸せだったが、ついに心中することに・・・。
主人公はそんな夢と現実の人生をラップさせて暮らします。
そのため、やがて不倫の果てに・・・。
現在と前世、どちらの最期の瞬間も、どう読むか迷います。
おそらく女の愛は一方的なもので、最後には男に裏切られるというのが、前世も現世も共通しているようで、やるせない気持ちが残る作品でした。

「炎」
天才的な頭脳を持つ男子高校生が焼身自殺。
密かな憧れを抱いていた主人公と彼の恋人は、自殺の原因を追及します。
そしてついに担任の教師に、自分が関わったことを認めさせたのでした。
でも原因究明はそこまで。
担任の相手が男子高校生の母親ではなく、彼の恋人だったではないかという主人公の疑念で、物語は終わります。
母親と恋人、どちらが担任と付き合っていることを知ったときに、彼は絶望し、死を選ぶのか?
どっちもないな、と思うのですが、この作品の中では「恋人が相手だった」というのが正解なのでしょう。

「星くずドライブ」
亡くなった恋人の霊と暮らす青年の話。
普段からたくさんの霊が視えるという青年のエピソードが面白い。
彼は、最近亡くなった人の霊だけでなく古代人の霊、果てはミジンコの霊まで視えるというツワモノ。
逆に霊となった彼女の方が、生ある者しか視えません。
彼女は、彼とのセックスを試みますが、わずかに冷気が伝わるだけと知り、悲しみます。
そんな彼女を慰めつつも、どこへ行くにも隣にいる彼女のことを考えると、将来を不安に感じます。
えーっ、ここで物語は終わり?
どうなるのですか、この二人?
またまたはっきりしない終わり方ですね。
でもこの先、若い二人には何か良い解決策が生まれるのではないか?、という変な期待感が残りました。

「SINK」
青年は一家心中の生き残り。
海中の車内で母が必死に窓を割ってくれたことと、彼の足首をつかんで引っ張ったことが、脳裏に刻まれています。
それが彼を救うためだったことに、ようやく気づいた青年は変われるのか?
彼を支える親友や彼を愛する女性との関係はどうなっていくのか?
ここで物語が終わり。
これで「心に希望が灯る」と言われても・・・。
うーん、胃もたれしている感じ。
もう少し方向性を感じさせて欲しかった!

コメント
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