元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

ボストン・テラン「神は銃弾」

2008-01-18 06:36:42 | 読書感想文
 カルト教団に元妻を殺され、さらに娘を拉致された男の決死の追撃行を描くクライム・アクション編。作者のテランはこの作品により英国推理作家協会新人賞を受賞している。

 アメリカ中西部の荒涼とした雰囲気が魅力的だが、何より主人公と行動を共にする元カルト信者の女の造形が圧倒的に素晴らしい。蓮っ葉でいながら純情、極限状態の中で主人公と衝突しながらも心を通わす場面はグッときてしまう。そしてモノローグのひとつひとつが滅茶苦茶かっこいい。もしも映画化されるのなら(実際そういう話が進行中だが)、ハリウッドの一線級の女優たちがこの役を取り合うことだろう。

 ターゲットになるカルト教祖の異常さと強大さも十分すぎるほどに描かれており、敵役として申し分ない。終盤の決着の付け方が幾分物足りず、純文学の香りが強い文体も併せて、読む者によっては評価が分かれるかもしれないが、最後まで引き込まれるパワーには誰しも瞠目させられるだろう。読んで損はない。
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「ジェシー・ジェームズの暗殺」

2008-01-17 06:40:14 | 映画の感想(さ行)

 (原題:The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford)南北戦争後にミズーリ州を根城に各地を荒らし回ったジェームズ兄弟を中心とするギャング団を描いた映画としては、ウォルター・ヒル監督の「ロング・ライダーズ」(80年)という快作があるが、この映画はそれに遠く及ばない出来だ。

 まず愉快になれないのが、当時のアメリカ社会でこのギャング団が“義賊”として民衆の支持を集めていたこと及びその背景をまったく説明していないこと。そんなことは自明の理であり既成事実になっているアメリカの観客を対象にしているから仕方がない・・・・とも言えないと思う。いくら語るまでもない事実があるとしても、それを全然有効的に明示も暗示もしないのでは、映画で描かれる素材が宙に浮いてしまうのだ。たとえば仲間が次々と逮捕され、先が見えてきたギャング団にあって苦悩するジェシー・ジェームズの自暴自棄な行動は、ここではまったく説得力がないではないか。

 そんな彼を慕って一味に身を投じるロバートの心情も、ほとんど掘り下げられていない。小さい頃からジェームズ兄弟に心酔していたとの説明があるが、ならば病的なストーカーのような面を強調しても良いと思うものの、せいぜいがジェシーの入浴場面を覗く程度だ(爆)。要するに、ただのデクノボーにしか見えない。

 各登場人物の関係も、丁寧に描かれているようで肝心の確執や愛憎などのモチーフがスッポリ抜け落ちているため、映画が終盤に近づくにつれ“どうしてこのキャラクターはこういう行動をするのか”ということが分からなくなってくる。「ロング・ライダーズ」の上映時間が1時間40分だったのに比べ、本作は何と2時間40分もある。しかし、そのほとんどを占めるのが登場人物達のむっつりした表情を言葉少なに延々と映し出すだけなのだから閉口する。

 撮っている本人はさぞかし“美しいだろう”と自画自賛しているような映像は、単に絵葉書的でちっとも心に響かない。変にムード的な音楽も気色悪い。当然、アクションシーンも皆無に近い。はっきり言って滅茶苦茶退屈。無神経なナレーションを多用するのも興醒めだ。映画の中盤から観客席のあちこちよりイビキが聞こえてきたのも無理もないと思う。

 ジェシーに扮するブラッド・ピットは“ただ、いるだけ”といった感じで、特筆すべきものなし。ロバート役のケイシー・アフレックに至っては単なる青二才だ。アンドリュー・ドミニクの演出は凡庸の極みで、長ったらしいエピローグを端折れないほど思い切りが悪い。正直、観たことを後悔する作品だ。
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青山七恵「ひとり日和」

2008-01-16 06:46:50 | 読書感想文
 無為な日々を送る20歳のヒロインが、母親の遠縁である71歳の老女と同居することによって、内面を見つめ直してゆく過程を描く、第136回芥川賞受賞作。審査委員が絶賛したらしいが、はっきり言ってどこが面白いのか分からない。要するに“身持ちの悪い母親の娘は、手癖が悪かった”という“この母にしてこの娘あり”みたいな身も蓋もないハナシを勿体ぶった心理描写(らしきもの)で漫然と綴っただけの駄作である。

 とにかくこの主人公、鬱陶しいのである。優柔不断で怠惰で、男にだらしなく、底抜けに頭が悪い。断っておくが、別に“主人公がダメであること自体がいけない”と言うつもりはない。どんなにヒロインがダメ人間であろうと、そのダメっぷりを突き詰めて小説的興趣にまで昇華されていれば文句はないのである。ところが本作はダメぶりを肯定するでも否定するでもなく、いわば“こんな風に思うことって、誰にでもあるよね”みたいな、読者に媚びを売るような微温的アーティクルに終始しているのが、実に不愉快である。

 内面的モノローグみたいなものが多いわりには、主人公と母、主人公とボーイフレンド、そして主人公と老女との関係性がまったく詳述されていない。出来の悪い日記風ブログに無理矢理付き合わされているような感じで、まさに“自意識過剰の認識不足”を地で行く体たらくだ。読んでいる最中“なんでこんな本を読んでんだよ。オレは”という自問自答とそれに続く自己嫌悪に苛まれてしまった(爆)。

 芥川賞を取っていなかったら絶対手にしない類の書物だ。まあ、作者の青山はまだ若いだけに今後“大化け”する可能性も皆無ではないとは思うが、この程度の本で賞を貰ってしまうのは、本人のためにもならないのではと思ったりした。
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「フライボーイズ」

2008-01-15 06:50:02 | 映画の感想(は行)

 (原題:Flyboys )最初から終わりまでワクワクしながら観た。第一次世界大戦時、アメリカが中立を守っていた頃にフランス軍に参加したアメリカの若者たちが多数存在したという事実は、この映画を観るまで恥ずかしながら知らなかった。彼ら義勇軍を中心にして結成された戦闘機チームがラファイエット飛行隊で、本作はその活躍を描く。

 出てくるのはもちろん最新のジェット機ではなく(あたりまえだ ^^;)、零戦やスピットファイアみたいな高性能単翼プロペラ機でもない。当時やっと“兵器”として戦場に配備された複葉機や三葉機ばかりである。

 これらの飛行機は速度が遅い。しかしその分動きの一つ一つを丹念にカメラが追えるという利点がある。そしてパイロットたちは戦闘機を時代劇の軍馬のごとく乗りこなし、極度に接近した肉弾戦を展開する。精巧に再現された機体が、何十機も同一画面上で飛び交う姿は、子供の頃に少しでも(軍用機の)プラモデル作りに凝った野郎(私もそう)ならばたまらないだろう。さらに実に奇態な姿をした爆撃機や、空の要塞とも言える飛行船まで出現するのだから嬉しくなる。

 監督のトニー・ビルは何と曲芸パイロット出身らしく、ドッグファイトの場面も堂に入っており、メリハリを付けた活劇場面の処理には思わず見入ってしまった。訓練の場面も手作りのフライト・シミュレーター装置(?)を使うなど、本職ならではのディテールの細かさも要チェックだ。

 ストーリーの方も奇をてらったところがなく真っ向勝負。策を弄さず正面からぶつかる戦術の単純明快さもさることながら、登場人物ほぼ全員が前向きで(まあ、中には一時的に屈折してしまう奴もいるが ^^;)、恋や友情に全力投球である。もちろん戦争の悲惨さと虚しさも描かれるのだが、それより“戦いこそが男のロマンだ!”と言い切っているような勇ましさを前面に出している。リベラル派は眉をひそめるかもしれないが、これも映画の醍醐味であろう。

 主演のジェームズ・フランコは「スパイダーマン」シリーズのヒネた悪役とは打って変わったような好青年ぶり。フランス人司令官に扮するジャン・レノも今回は斜に構えることなく頼りになる上官になりきっている。これがたとえば米軍を題材にしたらスラング連発で下品になるところだが、フランス軍が舞台なので雰囲気がオシャレなところも良い。宿舎なんかシャトーだし(笑)。

 とにかく、独立資本の作品で上映館が少ないところが難点だが、見逃すと絶対損をする、戦争青春アクション編の快作だ。欧州ロケを基調とした美しい映像も見応えがある。
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「スワロウテイル」

2008-01-14 08:56:38 | 映画の感想(さ行)
 96年作品。過去とも未来ともつかない、“円”が世界で一番強かったころを背景に、世界各地から日本にやって来た移民たちが数多く住む“円都(イェンタウン)”と呼ばれる架空の街を舞台とした、無国籍感覚の物語。監督は岩井俊二だが、彼は出来不出来の差が激しい作家である。この映画は質として一番下のシャシンだ。もっとも映画に対する受け取り方は人それぞれで、本作を岩井監督の最良作と捉える映画ファンもいることは知っているが、私はとして断固として認める気にはならない。

 たとえばこういうシーンがある。主人公たちの根城である空き地の中を車が走ってくる。“円盗”と呼ばれて蔑まれる移民グループの一人であるガキがパチンコで車をパンクさせ、タイヤやオイルなんかを売りつける。“円盗”たちのしたたかな一面を見せたつもりだろうが、ちょっと待ってほしい。どう考えてもクルマが通りそうもない空き地に、こういうシチュエーションを目当てにタイヤやガソリンなどをストックしておく不自然さをどう説明する? さらに、グリコ(Chara)のド下手な歌が売れて主人公(三上博史)が我が事のように喜ぶが、ここに至る二人の関係が全然描かれていないために、説得力がまるでない。

 アゲハ(伊藤歩)の幼い頃のトラウマや蝶の入れ墨に対する思い入れ等に関して何も描写していないため、彼女の言動がまったく理解されない。“円盗”たちに対する官憲の横暴についても何も説明がない。桃井かおり扮する芸能記者の浅はかさに対しても何も意見や(エピソードについての)オチがないetc.全部を指摘するのは面倒だからやめとくけど、要するに、この映画は何も描いていない。中身がない。

 リャンキとかいう中国系ヤクザに扮する江口洋介が、不似合いなカッコで登場して珍妙な言葉をしゃべるシーンには失笑した(役作りに対する基本姿勢すらないらしい)。アクション場面なんかヒドいもんだ(TVドラマの方がまだマシ)。大塚寧々の観る者をバカにしたような白痴演技や、子役どもの鼻につく小芝居。舞台になる街の地理関係なども説明なしで、言い換えれば“円都”と日本社会とのかかわり云々という基本的コンセプトさえ煮つめた気配がない。

 それじゃいったい何があるのか。それは単なる“カッコつけ”だと思う。アジア風エスニック趣味で飾りたて、体力だけはありそうな連中を奇をてらった映像の中で走り回らせれば何か表現できると思っている。実は何も表現できていない。2時間半という必要以上に長い上映時間の中、単に頭の中だけで作ったような、オタクっぽい画面が延々と続くのみ。出てくるキャラクターに魅力のかけらもなく、それ以上に演出が唖然とするほどヘタだ。

 イランやフィリピンやインドの映画人に見せたら“利いた風な口をたたくな”と鼻で笑われること間違いなし。幸いなことに岩井監督は本作のようなコンセプトの作品をその後撮っていないが、今後も“この路線”に戻らないように祈るばかりだ。
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「ウェイトレス おいしい人生のつくりかた」

2008-01-13 06:58:52 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Waitress)フワフワとした微温的な作りだが、観た後はけっこう印象に残る映画だ。米国南部の田舎町のダイナーで働くウェイトレスで、パイ作りの名人でもあるヒロインが直面する数々の出来事。彼女はロクデナシの夫の子を身籠もってしまい、ハンサムな産婦人科医と恋に落ち、離婚および自立かという瀬戸際に追い込まれる。彼女の同僚のウェイトレス達も、やれ不倫だストーカー騒ぎだとか、いろいろと悩みを抱えている。

 シリアスに描けば暗くなりそうな設定だが、エイドリアン・シェリー監督(女優でもあり、主人公の同僚役として出演している)は、軽くてくすぐったいようなタッチで描いてみせる(ただし作劇のテンポは決して良くなく、中盤あたりは退屈を感じさせるのは愉快になれない)。

 コメディとの触れ込みだが、あまり笑えず喜劇としての体裁も取り切れていないのは、リアルでシャレにならない描写がここかしこに存在すること。代表的なのは主人公が運転免許を持っておらず、職場までは走行本数の少ないバスに頼っていることだ。都市部ならともかく、こんな田舎で免許を持っていないのは行動範囲が極度に制限される。たぶん取得しようと思えばそんなに苦労せずとも可能なはずだが、その気もないらしい。

 乱暴者の旦那に引っぱたかれても黙って耐えている。二枚目の産婦人科医にモーションをかけるあたりも、いかにも身も蓋もない行動だ。男性陣の不甲斐なさも描かれるが、やっぱり女流作家としては同性に対しての方が見る目がシビアなのかと感じ入ってしまった。ところが、終盤いざ子供を産んでからのヒロインは見違えるような振る舞いを見せる。このリアルさは男性の監督には出せないものだ。本作の脚本はエイドリアン・シェリーが妊娠中に書かれたものらしく、その点も納得である。

 特筆すべきは主人公が焼くパイの数々。彼女は何かあるたびにその印象に添った創作パイを考案するのだが、本当にカラフルで美味しそうで、見ているだけで楽しい。南部の雰囲気を良く出した暖色系を中心とした映像も魅力だ。

 主役のケリー・ラッセルは好演。ルックスは悪くないのに依頼心が強く自分の殻を破れない女性像を上手く実体化していた。なお、シェリー監督はこの作品を手掛けた後に、ある事件に巻き込まれて急逝した。残念なことだ。

PS.これが今年最初の書き込みになります。本年もよろしくおねがいします ->ALL。
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