元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ジェシー・ジェームズの暗殺」

2008-01-17 06:40:14 | 映画の感想(さ行)

 (原題:The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford)南北戦争後にミズーリ州を根城に各地を荒らし回ったジェームズ兄弟を中心とするギャング団を描いた映画としては、ウォルター・ヒル監督の「ロング・ライダーズ」(80年)という快作があるが、この映画はそれに遠く及ばない出来だ。

 まず愉快になれないのが、当時のアメリカ社会でこのギャング団が“義賊”として民衆の支持を集めていたこと及びその背景をまったく説明していないこと。そんなことは自明の理であり既成事実になっているアメリカの観客を対象にしているから仕方がない・・・・とも言えないと思う。いくら語るまでもない事実があるとしても、それを全然有効的に明示も暗示もしないのでは、映画で描かれる素材が宙に浮いてしまうのだ。たとえば仲間が次々と逮捕され、先が見えてきたギャング団にあって苦悩するジェシー・ジェームズの自暴自棄な行動は、ここではまったく説得力がないではないか。

 そんな彼を慕って一味に身を投じるロバートの心情も、ほとんど掘り下げられていない。小さい頃からジェームズ兄弟に心酔していたとの説明があるが、ならば病的なストーカーのような面を強調しても良いと思うものの、せいぜいがジェシーの入浴場面を覗く程度だ(爆)。要するに、ただのデクノボーにしか見えない。

 各登場人物の関係も、丁寧に描かれているようで肝心の確執や愛憎などのモチーフがスッポリ抜け落ちているため、映画が終盤に近づくにつれ“どうしてこのキャラクターはこういう行動をするのか”ということが分からなくなってくる。「ロング・ライダーズ」の上映時間が1時間40分だったのに比べ、本作は何と2時間40分もある。しかし、そのほとんどを占めるのが登場人物達のむっつりした表情を言葉少なに延々と映し出すだけなのだから閉口する。

 撮っている本人はさぞかし“美しいだろう”と自画自賛しているような映像は、単に絵葉書的でちっとも心に響かない。変にムード的な音楽も気色悪い。当然、アクションシーンも皆無に近い。はっきり言って滅茶苦茶退屈。無神経なナレーションを多用するのも興醒めだ。映画の中盤から観客席のあちこちよりイビキが聞こえてきたのも無理もないと思う。

 ジェシーに扮するブラッド・ピットは“ただ、いるだけ”といった感じで、特筆すべきものなし。ロバート役のケイシー・アフレックに至っては単なる青二才だ。アンドリュー・ドミニクの演出は凡庸の極みで、長ったらしいエピローグを端折れないほど思い切りが悪い。正直、観たことを後悔する作品だ。

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