元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「スワロウテイル」

2008-01-14 08:56:38 | 映画の感想(さ行)
 96年作品。過去とも未来ともつかない、“円”が世界で一番強かったころを背景に、世界各地から日本にやって来た移民たちが数多く住む“円都(イェンタウン)”と呼ばれる架空の街を舞台とした、無国籍感覚の物語。監督は岩井俊二だが、彼は出来不出来の差が激しい作家である。この映画は質として一番下のシャシンだ。もっとも映画に対する受け取り方は人それぞれで、本作を岩井監督の最良作と捉える映画ファンもいることは知っているが、私はとして断固として認める気にはならない。

 たとえばこういうシーンがある。主人公たちの根城である空き地の中を車が走ってくる。“円盗”と呼ばれて蔑まれる移民グループの一人であるガキがパチンコで車をパンクさせ、タイヤやオイルなんかを売りつける。“円盗”たちのしたたかな一面を見せたつもりだろうが、ちょっと待ってほしい。どう考えてもクルマが通りそうもない空き地に、こういうシチュエーションを目当てにタイヤやガソリンなどをストックしておく不自然さをどう説明する? さらに、グリコ(Chara)のド下手な歌が売れて主人公(三上博史)が我が事のように喜ぶが、ここに至る二人の関係が全然描かれていないために、説得力がまるでない。

 アゲハ(伊藤歩)の幼い頃のトラウマや蝶の入れ墨に対する思い入れ等に関して何も描写していないため、彼女の言動がまったく理解されない。“円盗”たちに対する官憲の横暴についても何も説明がない。桃井かおり扮する芸能記者の浅はかさに対しても何も意見や(エピソードについての)オチがないetc.全部を指摘するのは面倒だからやめとくけど、要するに、この映画は何も描いていない。中身がない。

 リャンキとかいう中国系ヤクザに扮する江口洋介が、不似合いなカッコで登場して珍妙な言葉をしゃべるシーンには失笑した(役作りに対する基本姿勢すらないらしい)。アクション場面なんかヒドいもんだ(TVドラマの方がまだマシ)。大塚寧々の観る者をバカにしたような白痴演技や、子役どもの鼻につく小芝居。舞台になる街の地理関係なども説明なしで、言い換えれば“円都”と日本社会とのかかわり云々という基本的コンセプトさえ煮つめた気配がない。

 それじゃいったい何があるのか。それは単なる“カッコつけ”だと思う。アジア風エスニック趣味で飾りたて、体力だけはありそうな連中を奇をてらった映像の中で走り回らせれば何か表現できると思っている。実は何も表現できていない。2時間半という必要以上に長い上映時間の中、単に頭の中だけで作ったような、オタクっぽい画面が延々と続くのみ。出てくるキャラクターに魅力のかけらもなく、それ以上に演出が唖然とするほどヘタだ。

 イランやフィリピンやインドの映画人に見せたら“利いた風な口をたたくな”と鼻で笑われること間違いなし。幸いなことに岩井監督は本作のようなコンセプトの作品をその後撮っていないが、今後も“この路線”に戻らないように祈るばかりだ。
コメント
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