元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」

2008-01-25 06:31:36 | 映画の感想(な行)

 荒唐無稽なマンガのような話なのだが、けっこう楽しめる。平凡な高校生(市原隼人)が不死身のチェーンソー男と少女戦士(関めぐみ)とのバトルに巻き込まれてどうのこうのという与太話を最後まで見せきっているのは、キャラクター造型の確かさに尽きると思う。

 主人公は優等生ではなく、はたまた不良にも成りきれない中途半端な野郎だ。まあ、それはほとんどの十代の男子に当てはまる人物像だが(笑)、本作ではそれを強調するために彼は親と折り合わずに貧乏臭い学生寮住まいを強いられているという設定を用意した。さらに、何をやらせてもスマートに決まっていた親友(三浦春馬)がバイク事故で死んで、主人公は今でも自分と彼とを何かにつけて比較し、コンプレックスに苛まれているというシチュエーションも付け加えられる。このカッコ悪さは柳町光男監督の傑作「十九歳の地図」の主人公にも通じる鬱屈した青春像だ・・・・と言ってしまうとホメ過ぎか(ホメ過ぎだな、やっぱり ^^;)。

 そんな彼だから、チェーンソー男から彼女を守れるはずもなく、かえって足手まといになるばかり。このチェーンソー男は少女の“深層心理の実体化”であることが早々に明かされるのだが、彼女の方も事故で家族を亡くしたという心の傷を持っている。ただし、その事実がなければ水準以上の生活を送っていたことは確実で、最初からダメな主人公とは一線を画している(爆)。

 対して、彼と同じようなやりきれない思いを抱えたまま大人になってしまったのが野波麻帆扮する学生寮の寮母で、後ろ向きの気持ちを押し隠すように明るく振る舞っているあたりが泣けてくる。板尾創路演じる担任教師や、浅利陽介扮する主人公の友人の扱いなど、お気楽映画のように見えてホロ苦さを加味した普遍性を獲得しているあたりが侮れない。

 もちろんストーリーはお約束通り彼女をはじめ周囲の人々との関係性を見直すことにより一皮むけた主人公が、正面からチェーンソー男と対峙してゆくまでを追うのだが、それまでの過程が丁寧に描かれているため話があまりチャチにならない。

 北村拓司の演出は活劇場面に非凡なものを見せ、香港映画をマネしたようなワイヤーアクション中心ながら、段取りと殺陣がしっかりしていて違和感がない。江戸時代の町並みが連なるテーマパークでの死闘は、まさに時代劇(冒頭タイトルバックの凝りようも嬉しい)。肝心なところでスタントマンが使われていることがミエミエでも、雰囲気で楽しませてしまう。

 主演の市原はダメ学生を実に上手く表現している。特にボソボソとした話し方がいい。関めぐみは今までの出演作の中で一番納得できる仕事ぶりだ。アンドロイドみたいな体型と表情が活劇場面によく映えていたし、だからこそ時折見せる純情ぶりが印象的になる。「恋空」での出で立ちそのまんまで出演したような三浦春馬も確かな存在感を示す。際物臭いシャシンだが、けっこう拾い物だった。
コメント
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