元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ウェイトレス おいしい人生のつくりかた」

2008-01-13 06:58:52 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Waitress)フワフワとした微温的な作りだが、観た後はけっこう印象に残る映画だ。米国南部の田舎町のダイナーで働くウェイトレスで、パイ作りの名人でもあるヒロインが直面する数々の出来事。彼女はロクデナシの夫の子を身籠もってしまい、ハンサムな産婦人科医と恋に落ち、離婚および自立かという瀬戸際に追い込まれる。彼女の同僚のウェイトレス達も、やれ不倫だストーカー騒ぎだとか、いろいろと悩みを抱えている。

 シリアスに描けば暗くなりそうな設定だが、エイドリアン・シェリー監督(女優でもあり、主人公の同僚役として出演している)は、軽くてくすぐったいようなタッチで描いてみせる(ただし作劇のテンポは決して良くなく、中盤あたりは退屈を感じさせるのは愉快になれない)。

 コメディとの触れ込みだが、あまり笑えず喜劇としての体裁も取り切れていないのは、リアルでシャレにならない描写がここかしこに存在すること。代表的なのは主人公が運転免許を持っておらず、職場までは走行本数の少ないバスに頼っていることだ。都市部ならともかく、こんな田舎で免許を持っていないのは行動範囲が極度に制限される。たぶん取得しようと思えばそんなに苦労せずとも可能なはずだが、その気もないらしい。

 乱暴者の旦那に引っぱたかれても黙って耐えている。二枚目の産婦人科医にモーションをかけるあたりも、いかにも身も蓋もない行動だ。男性陣の不甲斐なさも描かれるが、やっぱり女流作家としては同性に対しての方が見る目がシビアなのかと感じ入ってしまった。ところが、終盤いざ子供を産んでからのヒロインは見違えるような振る舞いを見せる。このリアルさは男性の監督には出せないものだ。本作の脚本はエイドリアン・シェリーが妊娠中に書かれたものらしく、その点も納得である。

 特筆すべきは主人公が焼くパイの数々。彼女は何かあるたびにその印象に添った創作パイを考案するのだが、本当にカラフルで美味しそうで、見ているだけで楽しい。南部の雰囲気を良く出した暖色系を中心とした映像も魅力だ。

 主役のケリー・ラッセルは好演。ルックスは悪くないのに依頼心が強く自分の殻を破れない女性像を上手く実体化していた。なお、シェリー監督はこの作品を手掛けた後に、ある事件に巻き込まれて急逝した。残念なことだ。

PS.これが今年最初の書き込みになります。本年もよろしくおねがいします ->ALL。
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