元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「キサラギ」

2008-01-23 06:34:31 | 映画の感想(か行)

 確かに退屈はしないが、諸手を挙げての高評価とは縁遠い出来だ。理由は、プロット構築が巧みな脚本に押されて映画としての面白さが欠如している点である。

 古沢良太による戯曲を元にして本人が手掛けたシナリオは実に達者。佐藤祐市の演出もパワフルだ。ただしこれは演劇を前提にしての評価である。たぶん舞台で観たならば素晴らしく面白いのだろう。ステージに立つ出演者5人の肉体表現力が、ストーリーをあぶり出してゆくそのスリリングさで客席を圧倒するはずだ。しかし映画となるとそうはいかない。いくらカメラが5人に迫ろうとも、そのバックにある空間の影響力から逃れられない。

 今回のその“空間”とは建設中と思われるビルの殺風景な一室なのだが、演劇的シチュエーションに拘泥しているのがミエミエで鼻白む感じだ。さらに彼ら野郎ばかりで基本的に全員が黒の喪服となると、映像面での工夫がしにくいように思える。この“みんな同じ服装”で思い出すのがタランティーノのデビュー作「レザボアドッグス」だが、あのシャシンは演劇的テイストを活かしつつもカメラを自由闊達に動かし、見事に映画的興趣を導き出していたが、本作にはそれがない。

 もちろん回想シーンがマンガチックな映像になるあたりや、ヒロインの顔が終盤にならないと分からない点など、けっこう工夫はしているようだが、それだけではまるで不足だ。舞台劇の雰囲気を映画に移管しただけで満足しているようなフシがある。

 そして困ったことに、演劇の方法論に拘った挙げ句に肝心のテーマの掘り下げが十分成されていない。見終わってみれば、何の芸もない三流アイドルに過度に入れ上げた野郎5人の気色の悪いオタク話を無理矢理聞かされたようにも思える。

 そもそもこういう無能なアイドルがどうしてデビューしたのか、なぜ送り手は実力もないのにブレイクさせようとしたのか、そしてどうして彼ら(というか、中にはやむを得ない事情がある者もいるのだが)は彼女にゾッコンなのか、その屈折した内面が描けていない。ただ“真相らしきもの”を突き止めて満足しているだけだ。ラスト近くの“総踊り”(?)のシーンが浮いてしまったのも、むべなるかなである。

 小栗旬、ユースケ・サンタマリア、小出恵介、香川照之は好演。特別出演の宍戸錠も儲け役だ。ただし塚地武雅はいつもの“ドランクドラゴンのツカジー”のキャラクターを臆面もなく披露していて完全に白けた。もっとマジメにやってほしい。
コメント
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