元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「レベル・リッジ」

2024-09-30 06:33:35 | 映画の感想(ら行)
 (原題:REBEL RIDGE )2024年9月よりNetflixから配信。設定だけ見ると、これはシルヴェスター・スタローン主演テッド・コッチェフ監督による「ランボー」(82年)と似た話だと思われがちだが、中身は違う。「ランボー」は帰還兵である主人公を取り巻く情勢に関していくらか言及されていたとはいえ、映画はランボー自身の逆境と苦悩に主眼が置かれていた。対して本作が取り上げているのは、現時点での社会的不条理そのものだ。活劇物としては及第点に達していないかもしれないが、存在価値はある。

 ルイジアナ州の田舎町。元海兵隊員のテリー・リッチモンドは、拘留されている従兄弟のために、保釈金を手に地元の司法当局に向かっていた。ところがパトロール中の警官に因縁を付けられて、準備した現金の入った袋を不当に押収されてしまう。納得出来ないテリーは、司法研修生のサマー・マクブライドと協力して事態の打開を図ろうとする。すると浮かび上がってきたのは、地元警察およびそれを取り巻く状況の腐敗ぶりだった。

 テリーはスタローン御大が演じたランボーのように派手に暴れ回るわけではない。現役時代は特殊部隊に属していて腕に覚えはあるが、今では単なる民間人だ。問答無用で銃をぶっ放してくる警官たちに対しても、節度を守らざるを得ない。だから殺傷性の低い道具で対峙せざるを得ず、バトルシーンは盛り上がりを欠く。

 それでも強く印象付けられるのは、この地域が構造的に抱える問題だ。州当局はこんな僻地の警察署に予算を回す気は無い。めぼしい産業も見当たらないこの地域に待ち受けるのは、他地域との合併による要員のリストラだろう。だから警察としては現金および銃火器の不法な没収や、拘留期限の誤魔化しによる検挙率の水増しに走る。

 もはや警察は治安維持機能を持ち合わせない“反社会組織”に成り果てている。これが真実なのかどうかは我々部外者には分からないが、映し出される南部の草臥れて寂れた状況を見れば、さもありなんと思わせる。脚本も担当したジェレミー・ソルニエの演出はそれほどスムーズではないが、問題意識の抽出に腐心していることは十分窺われる。

 主演のアーロン・ピエールは不貞不貞しい好演。当初は物腰は柔らかいが、次第に本性を現していくあたりの表現は上手いと思う。ドン・ジョンソンにジェームズ・クロムウェル、ジャネイ・ジャイといった脇のキャストも申し分ない。なお、サマーに扮しているのがアナソフィア・ロブだというのは少し驚いた。十代の頃の彼女しか知らなかったが、見た目も演技も成長の跡が見える。

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