元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「零落」

2023-04-17 06:15:27 | 映画の感想(ら行)
 監督としてはあまり実績を残せていない竹中直人のメガホンによる作品なので正直大して期待していなかったのだが、実際観てみると悪くない出来だった。万全の内容とは言い難いが、ドラマがまとまりを欠き空中分解することは決してなく、主人公に感情移入したくなる箇所もある。最近観た日本映画の中では、印象に残った部類だ。

 漫画家の深澤薫は、8年もの間連載してきた作品を完結させ、つかの間の休息の時間を迎えていた。ところが、満を持して取り掛かるはずの次回作のアイデアが浮かばない。気が付けば編集者でもある妻のぞみとの関係も冷え切り、雇っていたアシスタント達のアフターケアも考慮せねばならず、気苦労ばかり募る日々だ。



 ある日、気晴らしに風俗店を訪れた彼は、猫のような眼をしたミステリアスなヘルス嬢ちふゆに出会う。元より猫っぽい女が好きな薫は余計な詮索なんかしないサバサバした性格の彼女にのめり込み、果ては帰省するちふゆの故郷まで付いて行く。浅野いにおによる同名コミックの映画化だ。

 主人公の薫は才能はあるのだろうが、長期連載が終わった後の読者層や業界筋との関係を、仕切り直しすることが出来ない。私生活も危機に陥り、宙ぶらりんのまま無為に毎日を送るしかない。こういう“中年の危機”みたいな様相は上手く描写されていると思う。そして、縋り付くように行きずりの女と懇ろになるあたりも、気持ちは分かる。

 また、出版業界のいい加減さも紹介される。連載中は薫をチヤホヤしていたくせに、新作がなかなか出なくなると手のひらを返したような塩対応。ファミレスでの逆ギレ場面はエゲツなくて苦笑してしまった。果ては深みは無いがウケが良い軽佻浮薄な作品を売り込んで成果を上げる。もっとも、通俗的なヒット作と薫が目指していたらしい作家性本位の漫画の何たるかが説明されていないのは落ち度だろう。

 主演の斎藤工は好調で、人生投げたような捨て鉢な雰囲気が良く出ている。抜け目なさそうな妻役のMEGUMI、根性腐ったようなアシスタントの女を演じて新境地開拓の山下リオ、トレンディ(?)な人気を誇る女性漫画家に扮した安達祐実、超太めの風俗嬢役の信江勇など、女優陣はかなり健闘している。

 しかし、ちふゆを演じる趣里は演技指導が不十分なのか、今回は意外と精彩が無い。同じく猫みたいな女優ならば、主人公の若い頃の交際相手に扮した玉城ティナの方が数段上だ。映像面では柳田裕男のカメラによる茫漠とした海の風景が印象的。竹中作品では珍しい“映像派”方面に振った絵作りだ。志磨遼平の音楽も良い。

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