元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「恋は光」

2024-10-04 06:25:56 | 映画の感想(か行)
 2022年作品。体裁は(普段は私はノーマークの)若年層向けのラブコメなのだが、快作「彼女が好きなものは」(2021年)での好演が印象的だった神尾楓珠が主役ということでチェックしてみた。結果、けっこう楽しんで観ることが出来た。何より、この手のシャシンにありがちな浮ついたタッチが控え目で、さらにテーマとしては浅からぬ素材を扱っているあたりがポイントが高い。

 岡山市に住む男子大学生の西条は、恋をしている女性が光って見えるという特異体質の持ち主だ。そのこともあって、本人は恋に対しては及び腰である。ある日彼は同じ大学に通う文学少女の東雲に一目ぼれしてしまい、恋の定義について語り合う交換日記まで始めてしまう。一方、西条には北代という幼なじみの女友達がいて、何かとウマが合う間柄なのだが、西条には彼女が“光って”見えていない。さらに彼の近くには、恋人がいる男ばかり好きになってしまう女子大生の宿木もいて、奇妙な四角関係が形成されてしまう。秋★枝の同名コミックの映画化だ。



 まず、やたら理屈っぽくて偉そうに能書きばかり垂れる西条のキャラクターが最高だ。実は彼には複雑な過去があるのだが、それも含めて彼と東雲とは共通点が多い。だから惹かれ合うのも当然かと思われる。恋多き女のようで、実は恋の何たるかを理解していない宿木の立ち位置も玄妙で、この“表面的な様相でのラブ・アフェア”という展開は、意外にも(私みたいなオッサン世代でも)共感度が高かったりするのだ。

 やっぱり外観および浅い認識の次元で関係を決めつけてしまうのは、人間の悲しい性なのだろう。その意味で、西条の“恋する女子の周りに光が見える”という設定は面白い。なぜなら、彼には“恋している女子”は光って見えるものの、どの時点でどういうベクトルで恋しているかを推し量ることは出来ない。だから突っ込んだ考察をする必要があり、及び腰な姿勢ではいられないのだ。その彼が、恋の何たるかを悟る終盤には、感慨深いものがある。

 小林啓一の演出は殊更に才気は感じられないが、堅実な仕事ぶりかと思う。神尾の演技は相変わらず達者で、キャラも立っている。平祐奈に馬場ふみか、伊東蒼といった面子も万全だ。そして北代に扮した西野七瀬のパフォーマンスにはちょっと驚いた。それまでは演技の拙い“坂道一派”の1人に過ぎないと思っていたのだが、ここでは目覚ましい仕事ぶりを見せており、今後の活躍も期待できる。野村昌平のカメラによる岡山市の町並みや後楽園、瀬戸大橋、倉敷市などの光景は(いくぶん色合いが人工的だが)とても美しい。

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