元・副会長のCinema Days

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「ディストラクション・ベイビーズ」

2016-06-06 06:22:51 | 映画の感想(た行)
 暴力の持つ禍々しい魅力を活写し、観る者に強い印象を与える問題作だ。言い訳無しで小賢しい考察もスッ飛ばし、現象としての暴力を理不尽なまでに定点観測するだけの映画。それを“表現力の不足だ”と切って捨てる向きもあるかもしれないが、私はこの潔さを大いに楽しんだ。

 舞台は松山市の三津浜地区。泰良と弟の将太は子供の頃に親がいなくなり、小さな造船所の社長に引き取られて暮らしてきた。泰良は物心ついたときからケンカにしか興味が無く、18歳になった今でも誰彼構わずケンカを売りまくり、手酷くブチのめされてもしつこく食い下がっていく。ある日彼は、弟の将太を一人残して松山の繁華街に赴く。そこでも無差別的に暴力を振るい、遂にはヤクザの構成員とも揉め事を起こす。



 そんな泰良に興味を抱いて近付いてきたのは、地元のヘタレな不良高校生の裕也だった。彼は泰良に“2人でコンビを組んで面白いことをしようや”と持ちかけ、通行人に対して通り魔的な行為を繰り返す。果てはヤクザの車を強奪し松山の市外へと向かうのだが、たまたま乗り合わせていたのが若いホステスの那奈だった。那奈を拉致した2人の行動はエスカレートする。一方、兄を探すため松山市街にやってきた将太はスケボー仲間との関係が険悪化し、さらなるトラブルを抱え込むことになる。

 とにかく、泰良の造型が凄い。どんなにダメージを受けてもしばらくすると何事も無かったかのように立ち上がり、狙った相手を叩きのめすまで攻撃をやめない。すでに人間の領域を逸脱してターミネーターの次元にまで到達している(笑)。何のバックグラウンドも無く、ただ呼吸するように暴力を振るい続ける彼の姿に、嫌悪感を通り越して一種の陶酔感を覚えるのは、新鋭監督の真利子哲也の偏執的な人間観ゆえだろう。



 つまりは“人間、一皮剥けばこんなものだ”という決めつけにより、力業で観る者をねじ伏せているのだ。こんなインモラルな方法論も(技量が伴えば)許されるだろう。それに貢献しているのが、泰良役の柳楽優弥の卓越した演技力だ。常軌を逸した言動は、キ○ガイそのもの。ほとんど“地”ではないかという気もしてくる。

 裕也に扮する菅田将暉の狂いっぷりも見ものだ。人間のクズというのは斯くの如しだという、突き抜けたパフォーマンスで圧倒させる。将太を取り巻く状況もロクなものではないが、土地の祭をモチーフにしているところが出色だ。もちろん、地域のコミュニティーを肯定的で描くための小道具では決して無く、祝祭の裏側に隠されたドス黒い暴力の奔流を見事にすくい取っていく。文字通り暴力的な幕切れまで、緊張の糸が切れることが無い。小松菜奈や村上虹郎、池松壮亮、でんでんといった他のキャストも言うことなしだ。

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