元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」

2024-07-05 06:25:38 | 映画の感想(は行)
 (原題:THE UNLIKELY PILGRIMAGE OF HAROLD FRY )主人公の言動にはとても共感できないし、筋書きも要領を得ない。“感動的なロードムービー”という触れ込みながら、どこで感動して良いのやら全然分からなかった。ただキャストの演技は悪くないし、映像は美しいので、その点に限っては観て損は無かったのかもしれない。

 定年退職しイギリス南西部の地方都市で妻と共に悠々自適の生活を送っていたハロルド・フライのもとに、英国北部の街から思わぬ手紙が届く。差出人はハロルドが現役時代に働いていたビール工場の同僚の女性社員クイーニーで、ホスピスに入院中の彼女は余命幾ばくも無いらしい。近所のポストから返事を出そうと家を出るハロルドだったが、途中で寄ったショップの若い店員の一言で考えを変え、800キロ先のクイーニーのもとを目指してそのまま手ぶらで歩き始める。自分が到着するまでの間は、クイーニーは絶対に生きているという確信を持っての行動だった。レイチェル・ジョイスによるベストセラー小説の映画化だ。



 まず、いくら何でも着の身着のままで“壮大な旅”に出掛けてしまうというのは無理があるだろう。しかもハロルドは老齢の身で、目的地にたどり着けるかどうかは不明だ。そもそも、そんなにクイーニーのことが心配ならば、一刻も早く駆けつけて彼女との最後の時間を長く過ごした方が良いだろう。ハロルドは携帯電話も家に置きっぱなしにして、当然のことながら妻は心配する。だが、彼は文字通り“我が道を行く”というスタンスで、途中から所持金も放棄する始末だ。

 彼がどうしてクイーニーを気に掛けているのかは劇中で一応は説明されるのだが、それはあまりにも理不尽で納得出来ない話だ。また、ハロルドの早世した息子の話とか、同行する若者とのエピソードや、いつの間にか“賛同者”が増えて団体旅行みたいになっていくとか、思わせぶりなネタが出てきてはいずれも中途半端に終わる。旅の終わりでの展開もカタルシスが生まれない。結局、すべては主人公の自己満足ではなかったのかという、釈然としない気持ちだけが残った。ヘティ・マクドナルドの演出もメリハリに欠ける。

 とはいえ、主演のジム・ブロードベントの頑張りは認めて良い。けっこうハードな撮影だったと思うが、果敢に乗り越えている。妻に扮するペネロープ・ウィルトンをはじめ、リンダ・バセット、アール・ケイブ、ジョセフ・マイデル、モニカ・ゴスマンらキャストは皆好演だ。そしてケイト・マッカラのカメラによるイギリスの田舎の風景は素晴らしく美しい。一度じっくりと見て回りたいと思うほどだ。サム・リーやジェームズ・キューイによる劇中挿入曲も実に印象的である。

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