元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「さよならテレビ」

2020-03-02 06:28:53 | 映画の感想(さ行)
 少しも面白くない。観ている間は退屈だ。しかし、実はこの“退屈で面白くない”という本作の内容が、取り上げた題材をストレートに反映している。つまり、面白くないものを面白くないまま提示することによって、テーマの本質に迫ろうという、倒錯した興趣を創出しているのだ。その意味で、なかなか示唆に富んだドキュメンタリー映画ではある。

 「平成ジレンマ」(2010年)や「ヤクザと憲法」(2016年)などの話題作を手掛けた東海テレビが12作目のトピックとして選んだのは、自社の業務であった。現時点でテレビ番組製作の周辺で何が起きているのかを、自らの現場でカメラを回して探ろうという算段だ。しかしながら、製作者の気負った態度とは裏腹に、ここに映し出されるのは何ともパッとしないテレビ局員の“日常”である。



 前半に、キャスターが小学生相手に報道の役割を説くシーンがある。(1)事件・事故・政治・災害を知らせる。(2)困っている人(弱者)を助ける。(3)権力を監視する。以上の3つがマスコミの使命であるというのだが、言うまでもなくテレビ局がその役割を果たしているとは誰も思っていない。国際NGO団体の調査によれば、報道の自由度ランキングで日本はG7の中で最下位だ。

 そもそも、我が国ではテレビ事業は総務省の許認可を受けた免許が必要である。だから基本的に“お上”の意向や既得権益者の利害に大っぴらに逆らうことなど、出来るはずがないのだ。だから彼らが重視するのは、せいぜい視聴率ぐらいしかない。事実、映画の中では秒単位で視聴率が表示され、局員はそれに一喜一憂する。そして他局に勝ったの負けたのと大騒ぎだ(誠にナサケない話である)。

 映画は局アナと、いずれも非正規のベテラン記者と若い記者の3人を“主人公”として設定するが、彼らの働きぶりが何か興趣を生み出すかといえば、全くそうではない。それぞれ忙しく振る舞っているが、その仕事は大して世の中に役立っているとは思えない。特に、彼らが“頑張って”グルメリポートの番組を作るくだりは脱力する。



 いくら熱心に業務に励んでも、しょせん“ただの食レポ”である。視聴者にとってはどうでもいい情報に過ぎない。そんなことに力を注ぐより、他にすることがあると思うのだが、彼らは“立場上”そうするしかないのだ。このように、本作は退屈で平板な映像を積み重ねることにより、テレビ番組の制作現場というのがいかに“退屈で面白くないか”を鮮やかに描き出している。

 若者のテレビ離れが取り沙汰され、テレビを長時間視聴しているのは年寄りばかりではないかという話が持ち上がる昨今、実際にテレビ局の現場でカメラを回した結果“やっぱりテレビは終わってました”という、業界人が認めたくないような結論を導き出したこの映画は、とても野心的だと思う。

 かくいう私も、テレビというメディアにはほとんど興味を持っていない。見るに値する番組なんて、極少数ではないか。大半の者がテレビに無関心になっていく状況の中で、それでも“退屈で面白くない”日常を送るしかないテレビ局員の立場を思うと、むなしいものが込み上げてくる。

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