元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「密輸 1970」

2024-08-11 06:29:25 | 映画の感想(ま行)
 (英題:SMUGGLERS )これは面白い。二転三転するストーリーをはじめ、各キャラクターの“屹立度”の恐るべき高さ、絶妙な時代設定と舞台背景など、娯楽映画としての御膳立ては万全。キャストの健闘も光る。第44回(2023年)青龍映画賞で最優秀作品賞を獲得した快作で、本国のヒットも十分に頷ける。

 1970年代、韓国の漁村クンチョンでは化学工場から排出される有害物質によって沿岸の水質汚濁が進み、海女たちは失業の危機に直面していた。リーダーのジンスクは逆境を何とか跳ね返すため、海底から密輸品を引き上げるという闇仕事を仲間と共に請け負うことにする。しかし、極秘裏に話を進めていたにも関わらず、なぜか作業中に税関の摘発に遭ってジンスクらは逮捕され、親友のチュンジャだけが現場から逃亡する。2年後、ソウルからこっそりクンチョンに戻ってきたチュンジャは、刑期を終えて出所したジンスクにまた密輸の話を持ちかける。



 とにかく、出てくる連中がことごとく胡散臭い(笑)。ジンスクとチュンジャだけではなく、地元のチンピラ集団やベトナム帰りのシンジケートのボスなど、キャラクターに善人など見当たらない。ならば税関の面々ら当局側はどうなのかというと、これまた欲の皮が突っ張った外道揃いだ。こいつらの仁義なき抗争を映画はエゲツなく追うのだが、やっぱり物語の中心は理不尽な状況に直面した海女たちである。

 彼女たちはプロの犯罪集団を手玉に取り、何とか裏をかいて上前を撥ねようと奮闘する。全員が蓮っ葉なのだが、映画が進むにつれて感情移入してしまう。脚本にも参画しているリュ・スンワンの演出は力強く、観る者に退屈するヒマを与えず次々に見せ場を繰り出してくる。アクションシーンの素晴らしさは特筆もので、乱闘場面はかなりの長尺ながらアイデアがてんこ盛りで驚嘆するしかない。そして海中撮影は呆気にとられるほど凄い。ハリウッドでもこれだけの映像を今作れるかどうか疑問に思えてくる。

 時代考証も万全で、彼の地の70年代の風俗など知る由も無いのだが、たぶんこのような雰囲気だったのだろうと納得出来るほど求心力が高い。チュンジャ役のキム・ヘスをはじめ、ヨム・ジョンアにチョ・インソン、パク・ジョンミン、キム・ジョンス、コ・ミンシなど、キャストは濃すぎるほど濃い。鮮やかな幕切れを含めて、欠点らしいものが見当たらないシャシンで、これは今年のベストテンに入りそうだ。
コメント
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